毎日の太陽の日差しが熱くなり、夏休みが近づいてきました。
 私、村島和には気になることが二つあります。
 一つは、矢継さんに聞いた小岩くんのお母さんのこと。お家に行ったときもお母さんを見なかったと思いましたが、まさか亡くなっているとは思いませんでした。もちろん小岩くんに直接聞くことなんてできずにいます。
 もう一つは、秋に行われる文化祭のクラスの出し物のこと。高校に入って初めての文化祭にわくわくしていて、みんなからいろんな意見が飛び交っています。
 私たちの高校は夏休み明けにすぐ文化祭がある関係で、夏休み前から文化祭の準備が始まります。今は出し物決めの多数決が始まるところでした。

それではこれより多数決をとりまーす。一人一票なんで不正しないよーに

残った候補は喫茶店とお化け屋敷と自主制作映画、ですか

 私が提案したマジックショーはすでに落選してしまいました。お化け屋敷はちょっと怖いですし、映画は少し大変そうです。
 私は小岩くんの様子を見るために横目で隣の席をちらりと見ます。小岩くんはつまらなそうに黒板を眺めながら、左手でいつもの金色のコインをもてあそんでいます。

小岩くんはどうするんですか?

なんでもいいさ。積極的に参加するつもりもない

でもせっかくの文化祭ですし

所詮は子供だましだ。いや、トリックもないのだからだましてすらいないか

 小岩くんがこういうことに興味がなさそうだってことはよくわかっていましたが、クラスが団結するこの機会。ちょっとクラスで浮いている小岩くんをみんなとなじませるのにこれ以上ないタイミングなのです。

はーい、じゃあ次。自主制作映画ー

え?

 小岩くんと話しているうちに、多数決の投票は進んでしまっていました。私が入れようかと思っていた喫茶店はすでに通り過ぎ、最後の自主制作映画しか残っていません。かといって投票しないわけにもいかず、私はおずおずと手を挙げました。

えーっと、一票差で映画に決定ー

あれ?

 なんだか私の一票はとてつもない差があったのではないでしょうか。
 二番の喫茶店とは一票差で、私たちは文化祭に向けて映画を撮ることになってしまったのでした。

それじゃ制作の分担をやりまーす

 撮影と編集は趣味で動画作成をしているクラスメイトが担当することになりました。ビデオカメラもマイクも持っているということで、安心です。小道具や大道具を準備するチーム、撮影のための場所の調整をするチームなどに別れていきます。私と小岩くんはシナリオを考えるチームに分担されました。

夏木

ホラーにしようよ。ほら、夏だし

茂木田

いいね、お化け屋敷の代わりに

遊里

……

 シナリオチームは漫研の夏木さんと文芸部の遊里さんが中心となり制作予定でした。ただ二人とも口数が少ないこともあって、お化け屋敷がやりたかった茂木田くんたちの意見がどんどんと進んでいきます。

遊里

でもホラーって書いたことないですし

茂木田

大丈夫だって。そうだ、じゃあみんなで怖い話しようぜ。それを元ネタにして作ればいいんだよ

遊里

それなら、なんとか

夏木

よっしゃ、じゃあ怖い話大会はじめー

 最初からただ怖い話がしたかっただけなのかもしれません。あまり乗り気ではない遊里さんも渋々と輪に入っていきました。小岩くんはというと少し離れたところに座って、でも耳だけはこちらに向けてくれているようでした。
 トイレの花子さん、高速道路を走る老婆、旧日本軍の亡霊。どこかで聞いたようなでもはっきりとは知らない怪談が続いていきます。そして次は言い出しっぺの茂木田くんの番になりました。

茂木田

俺はとっておきの話を知ってるからな。ビビって逃げるなよ

 茂木田くんはそうとう自信があるようで、怖がりの私は話が始まる前からすっかり怯えてしまっていました。小岩くんはやはり興味なさそうに、ただしっかりと話は聞いているようでした。

茂木田

これはさ、俺の兄貴が先輩から聞いた話なんだけど

 そう言って、茂木田くんはゆっくりと語り始めました。

六話:自殺した幽霊の怪(事件編)Ⅰ

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