矢継

よう、助手ちゃん。名探偵はいるかい?

 放課後、いつものように帰ろうとした私に校門の前で矢継さんが声をかけてきました。何も悪いことはしていないのに、刑事さんに声をかけられるとなんだか緊張してしまいます。

小岩くんなら今日は先に帰っちゃいました

矢継

そうか。こないだの事件、しっかりホシを捕まえたんで礼の一つでもと思ってきたんだが

捕まったんですか?

矢継

あぁ、推理は完璧だったよ。妻の麻奈美は二週間ほど前に山菜をとりたい、と知り合いの持山に入っていたことがわかった。おじの信之も二日前に釣りに行っていたことの証言も出てきた。逮捕したらすぐに自白したよ

たったあれだけの情報から犯人までわかっちゃうなんてやっぱり小岩くんはすごいですね

矢継

こっちは商売あがったりさ。それにしても今日は一緒じゃないんだな

帰る方向が違いますし、小岩くんは強引についていかないと一緒になんて

矢継

母親似で無愛想なヤツだな。助手ちゃんも苦労するな

小岩くんのお母さん?

 そういえば小岩くんの家に行った日、お母さんは見かけませんでした。

矢継

あぁ、元俺の同僚の刑事でな。こないだの息子みたいに米介が事件を解決していくうちにいつの間にかくっついてやがった

元ってことは、今は違うんですか?

矢継

あぁ、そうだな

 少し目を伏せて、矢継さんは言うべきかと少し考えこんでいるようでした。私の顔をじっと見られると、独特の威圧感にやってもいない罪を自白しそうになります。

矢継

死んだよ。事件の捜査中にホシに殺されたと聞いた。詳しい話は俺も知らないんだ。あいつが今でも事件と聞けばすぐに首を突っ込むのも、息子が事件と聞くと嫌な顔をするのもそれが原因なのかもしれないな

そうだったんですか

 私はそれ以上何も言えませんでした。
 慰めを言うのも何か違いますし、かと言って無関心ではいられません。私の戸惑った答えを矢継さんはわかっているみたいでした。

矢継

ただこないだの息子の頭のキレは本物だった。嫌な顔をしていても本心じゃ事件を解決したくて仕方がないように見えた。消えた母親の幻影を追っているようにすら感じちまった

矢継

またどこかへふらっと消えちまわないように、助手ちゃんがしっかり支えてやりな。俺にはできなかったことだからさ

 矢継さんはそれだけ言うと車に乗って帰ってしまいました。小岩くんにそんな事情があるなんて知りませんでした。
 明日、私はどんな顔で小岩くんと目を合わせることができるでしょうか。大きな荷物を抱えてしまったまま、私ははっきりしない足取りで自分の家を目指すのでした。

五話:現場にいない犯人を追え(解決編)Ⅱ

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