おい、チビ!
お前ってぜんぜん友達いないよな~

いっつも黙ってばっかで
何も喋んないし、
変なやつ~!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

…………(ぐすん)

美崎 耀(みさき あかる)

おい、お前ら。
なーに女の子いじめてんだよ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

…………!

な、なんだよお前!

し、小学生は関係ねーだろ!
あっち行けよ!

美崎 耀(みさき あかる)

ははーん、わかったぞ。
お前ら、この子が可愛いから
いじめてんだろ?

そんなわけねーだろ!
何も喋んなくて
気持ち悪いんだよコイツ!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

…………(ぐすん)

美崎 耀(みさき あかる)

本当は仲良くなりたいのに、
話しかけても答えてくれないのが
悔しくていじめてんだな?

ち、ちげーし!!

誰がこんなブスと仲良くするか!
バーーーーーカ!!



 二人の少年は全速力で去って行った。


美崎 耀(みさき あかる)

はっはっはっ。
小学生の俺様にかかれば、
幼稚園児なんて敵じゃねえぜ

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

あっ……
ありが、と……

美崎 耀(みさき あかる)

ん?
またいじめられたら俺に言えよ。
俺、美崎耀って言うんだ!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ボクは……
もとみや、ちゆき……。
4さい……

美崎 耀(みさき あかる)

ちゆきって言うのか!
これから仲良くしような!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

(ボクはあの時からずっと、
耀おにぃのことが
大好きでした……)

廃墟島の4日目《 前編 》

美崎 耀(みさき あかる)

おい……!
起きろ、千雪……!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

んっ……んうっ?

美崎 耀(みさき あかる)

しーっ!
黙ってついて来い!

元宮 千雪(もとみや ちゆき)

ゲホッ、ゲホッ……

美崎 耀(みさき あかる)

相変わらず熱が下がらないな……。
仕方ない、俺がおぶっていくか

日良 若葉(ひら わかば)

ふわあ~っ……

美崎 耀(みさき あかる)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

……あれ?
もう起きてたの耀くん?

美崎 耀(みさき あかる)

ああ。
おはよう、若葉

日良 若葉(ひら わかば)

……あれ!?
千雪ちゃんは!?

美崎 耀(みさき あかる)

千雪は……海に捨ててきた

日良 若葉(ひら わかば)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

なに?
もう一回言って?

美崎 耀(みさき あかる)

千雪は死んだから、
俺が海に捨ててきた

日良 若葉(ひら わかば)

捨てた!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

どういう意味だい、美崎?

美崎 耀(みさき あかる)

そのまんまの意味だよ。
お前らが寝てるとき……
真夜中に、千雪の容態が
悪化したんだ

美崎 耀(みさき あかる)

千雪は俺を好きだったんだってさ。
だから『最期に二人で海を見たい』
って頼まれたんだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

元宮さんはほとんど歩けない
状態なのに、
二人で海岸まで行ったのか?

美崎 耀(みさき あかる)

だから、俺がおぶって
行ったんだよ。
そんで、海を見ながら千雪は
眠るように息を引き取ったんだ

美崎 耀(みさき あかる)

千雪が死ぬ前に
『ボクが死んだら海へ流してください』
なんて言ってたからさ……

美崎 耀(みさき あかる)

千雪の希望通り、
死体は海へ捨てたんだ

日良 若葉(ひら わかば)

そんな……。
捨てただなんて……

佐伯 玲也(さえき れいや)

まあ、普通は水葬とか
海に送ったと言うよね

美崎 耀(みさき あかる)

言い方なんてどうだっていいだろ。
千雪はもう、
この世にいないんだから

日良 若葉(ひら わかば)

千雪ちゃん……。
本当に、死んじゃったの……?

美崎 耀(みさき あかる)

ああ、本当だ

佐伯 玲也(さえき れいや)

にわかには信じられないな。
美崎、キミの性格なら海に流す前に
みんなを呼ぶんじゃないのか?

美崎 耀(みさき あかる)

お前が俺の何を知ってる
って言うんだよ!
俺は千雪の希望通りにした!
ただそれだけだ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

ふうん?
ボクたちに言いたくないことが
あるわけだ

美崎 耀(みさき あかる)

しつけーな!
俺は全部話しただろ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

何らかのトラブルがあって、
事実を隠蔽(いんぺい)してる……
僕にはそんな風に受け取れたけど

美崎 耀(みさき あかる)

…………

美崎 耀(みさき あかる)

俺は何も隠してねえよ……

佐伯 玲也(さえき れいや)

例えばキミが連続殺人の真犯人で、
元宮さんもキミが殺した……。
こう考えるのは
論理が飛躍しているかな?

美崎 耀(みさき あかる)

……っ!?

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん!
それ本気で言ってるの!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

はは、冗談に決まってるだろ。
何しろ美崎には動機が無い

佐伯 玲也(さえき れいや)

それに一連の事件の
犯人だとしたら、
元宮さんをもっと上手く殺すだろ?
こんなに怪しまれる行動を取る
理由が無い

日良 若葉(ひら わかば)

ねえ、いくら冗談でもひどいよ。
耀くんは千雪ちゃんが目の前で死んで、
一番ショックを受けてるはずだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

はははっ。
この後に及んで、美崎を庇って
点数稼ぎかい?

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん……。
昔はそんなこと言う人じゃ
なかったのに、
どうして変わっちゃったの?

美崎 耀(みさき あかる)

若葉、もういい。
相手にするな

佐伯 玲也(さえき れいや)

昔は我慢していただけだよ。
日良さん、僕は昔から
キミが嫌いだった

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎の隣りに図々しく居座る、
キミがね

日良 若葉(ひら わかば)

わ、私……図々しいって
思われてたの……?

佐伯 玲也(さえき れいや)

少なくとも、僕には思われてたね。
美崎と二人で話したいのに
いつも日良さんが邪魔をしてきた

美崎 耀(みさき あかる)

玲也!!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

……なんだい?
またお説教かな?

美崎 耀(みさき あかる)

いい加減にしてくれ!
迷惑なんだよ、お前の好意が!

佐伯 玲也(さえき れいや)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

あ、耀くん……。
あの、私なら平気だから……

美崎 耀(みさき あかる)

俺が平気じゃねえんだよ!

美崎 耀(みさき あかる)

玲也、お前なあ。
俺のことが好きって言うなら、
俺にとって若葉が
どういう存在なのか考えろよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

さあ?
家族ぐるみの付き合いで、
身内のように思ってることしか
知らないよ

美崎 耀(みさき あかる)

そんな軽々しいもんじゃねえ。
若葉はな……。
若葉は……

日良 若葉(ひら わかば)

耀くん……

佐伯 玲也(さえき れいや)

なら、一つ聞いてもいいかな?

美崎 耀(みさき あかる)

なんだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

先生(さきお)先生と、日良さん。
どちらの方が、より大切なんだい?

美崎 耀(みさき あかる)

俺に二人を比べろっていうのか?
できるわけねえだろ!
馬鹿みてぇにひねくれた
質問すんな!

佐伯 玲也(さえき れいや)

何もひねくれてないさ。
純粋に美崎の気持ちを
知りたいと思っただけだよ

美崎 耀(みさき あかる)

じゃあ俺の気持ちを教えてやる!
俺はお前のことが
大っっ嫌いだ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

ああ、涙ぐんで僕を睨むキミも
意外と可愛いね。
雲母さんがキミをいじめた理由が
わかってきたよ

美崎 耀(みさき あかる)

ッッざけんな!

 俺は拳を振り上げて、
迷わず玲也の顔面を殴りつけた。


 その勢いで身体が吹っ飛んだ玲也は、
床に手を突いた。

佐伯 玲也(さえき れいや)

…………

 反撃をしてくるかと思い身構えたが、
玲也はただ宙を見て頬を押さえている。


 涼しい顔をしているのが更に腹が立ち、
もう一発くらわせてやろうと思った。


 ──だが。

日良 若葉(ひら わかば)

耀くん! 駄目!

 若葉に後ろからしがみつかれて、
前へ進めなくなってしまったのだった。

美崎 耀(みさき あかる)

離せよ!

日良 若葉(ひら わかば)

やめて!
本当にやめて!
先生先生はきっと怒ってるよ!

美崎 耀(みさき あかる)

…………ッ!

 兄貴の顔が頭に浮かび、拳をおろす。


 若葉はホッとしたように、
俺にしがみつく手を緩めた。

佐伯 玲也(さえき れいや)

痛いなあ……。
何も殴ることないだろ

美崎 耀(みさき あかる)

殴られるようなことを言っただろ!
若葉が止めなきゃ、
こんなもんじゃすまなかったぞ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕は謝らないよ。
僕だって、キミに心を傷つけられたんだ

美崎 耀(みさき あかる)

お前なあっ!
被害者ぶんじゃねえよ!

日良 若葉(ひら わかば)

もう、やめようよ二人とも……

美崎 耀(みさき あかる)

こいつがケンカを
ふっかけてきたんだぞ?!

日良 若葉(ひら わかば)

そんなの、どっちでもいいよ……。
私は疲れたよ……

美崎 耀(みさき あかる)

若葉……

日良 若葉(ひら わかば)

千雪ちゃんも、
みんな死んじゃった……。
どうしてこんなことになったの?
うう……ひっく……

 俺は若葉の涙を見て、
すべての気持ちがしぼんでしまった。


 玲也への怒りとか、亜百合への罪悪感とか、
兄貴を死なせた後悔といった、
すべての気持ちが……。

佐伯 玲也(さえき れいや)

メソメソ泣いたって
仕方ないじゃないか。
死んだ人間が生き返るわけじゃないのに

日良 若葉(ひら わかば)

でも……。
千雪ちゃんが死んだっていうのが、
まだ信じられなくて……

美崎 耀(みさき あかる)

(千雪……)

美崎 耀(みさき あかる)

こんな所で話し合ってないで、
船着場へ行こうぜ

佐伯 玲也(さえき れいや)

行ってどうすんだい?
船はこなかっただろ?

美崎 耀(みさき あかる)

お前らしくないな。
姫乃の伝達ミスとか、
向こうが一日間違えてる
って可能性があるだろ

美崎 耀(みさき あかる)

どのみち船がこなければ、
俺たちは一生ここで
暮らすることになる。
そんなのはごめんだ

佐伯 玲也(さえき れいや)

船がくる可能性に賭けるしかない、
ってことか……

 俺たちは第一倉庫から
いくつかの食料を調達して、
海を眺めながら朝食をとっていた。


 簡素な非常食や缶詰を食べながら、
若葉がポツリと言った。

日良 若葉(ひら わかば)

本当なら最初の日に
みんなでカレーを作って、食べて……。
次の日にはバーベキューをする
予定だったのに……

佐伯 玲也(さえき れいや)

今となってはどうでもいいよ、
そんなこと

美崎 耀(みさき あかる)

若葉……。
船が来て家に帰れば、全部できる。
全部元通りになるはずだ

日良 若葉(ひら わかば)

元通り……。
本当にそうなるのかな……

 元通りになろうにも、
失った物が多すぎる──
そんなことは俺もわかっていた。


 だけど、現実的なことは何一つ
考えたくなかった。


 兄貴を守れなかった俺がやるべきこと、
それは若葉を無事に連れて帰ること
だけなのだから。


 余計なことは、一切考えたくなかった。

美崎 耀(みさき あかる)

(昨日は死のうなんて
考えちまったけど、
それは大きな間違いだった)

美崎 耀(みさき あかる)

(俺が生きなきゃ、
若葉を守れないんだから)

佐伯 玲也(さえき れいや)

こうしてただ船を
待っているのもなんだし、
少しディスカッションでもしようか

美崎 耀(みさき あかる)

ケンカならもう買わねえぞ

佐伯 玲也(さえき れいや)

はは、僕は犯人について
推理をしようと言ってるんだよ

日良 若葉(ひら わかば)

犯人って……
姫乃ちゃんを殺した人のこと?

佐伯 玲也(さえき れいや)

それもそうだけど、
僕は何者かが仕組んだ
連続殺人事件だと思っているんだ

日良 若葉(ひら わかば)

連続……殺人……

美崎 耀(みさき あかる)

……聞かせろよ、お前の推理

佐伯 玲也(さえき れいや)

まず、昨日来る予定だった船が、
こなかった件。
犯人がわざと遅らせたの
かもしれない

佐伯 玲也(さえき れいや)

それには予め宮ノ内さんに
船を遅らせるように
指示する必要がある

美崎 耀(みさき あかる)

姫乃が犯人に脅されていた
ってことか……?

佐伯 玲也(さえき れいや)

その可能性は高いね。
まあ、船を遅らせることで
犯人に何のメリットがあるのか
わからないけど

佐伯 玲也(さえき れいや)

そして、一日目に事件が起こった。
宮ノ内さんは鋭利な刃物で
頚動脈を切られた

佐伯 玲也(さえき れいや)

即死ではないにしても、
僕らが助けるのは不可能だった。
発見時には手遅れの
状態だったからね

日良 若葉(ひら わかば)

…………ッ

 若葉が悔しそうな表情でうつむき、
スカートの裾をギュッと握り締める。

佐伯 玲也(さえき れいや)

これについては
複数の容疑者がいる。
単独犯と仮定するなら、
僕と美崎と先生先生の犯行は
不可能だ

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎はあの時に、
僕が携帯を取りに戻る振りをして
宮ノ内さんを殺したなんて
とんでも推理をしてくれたけど、ね

美崎 耀(みさき あかる)

あれは、お前が
若葉を責めたりするから……

佐伯 玲也(さえき れいや)

まあ美崎が感情的になったことは
別にしても、アリバイが無い人間を
疑う心理はわからないでもない

佐伯 玲也(さえき れいや)

ただ、美崎の推理を
成立させるには、
僕に卓越された運動神経と、
強靭な体力が必要になる

佐伯 玲也(さえき れいや)

あの場に現れた僕は、
息を乱していたかい?

美崎 耀(みさき あかる)

……いや。
憎たらしいほどに
涼しい顔してやがったな

日良 若葉(ひら わかば)

そうだね。
耀くんたちと別れて、
その直後に姫乃ちゃんを襲って、
ベランダから飛び出して……

日良 若葉(ひら わかば)

そして、また正面玄関から
入って来て、息を整えてから
みんなと合流する……

日良 若葉(ひら わかば)

そんなプロのスポーツ選手
みたいなこと、
玲也くんがしたとは思えないよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

丁寧な解説をありがとう。
そうなると、
次の容疑者は雲母さん、
元宮さん、そして日良さんの
女性陣になる

佐伯 玲也(さえき れいや)

宮ノ内さんが殺された瞬間、
雲母さんと元宮さんは
屋外の仮設トイレに居たと言っていたね

佐伯 玲也(さえき れいや)

このアリバイについては、
雲母さんと元宮さん
双方の証言が一致してる

佐伯 玲也(さえき れいや)

残る日良さんについては……

美崎 耀(みさき あかる)

まだ若葉を疑ってんのか?

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎は怒るかもしれないけど、
可能性は消えてないね

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん……

美崎 耀(みさき あかる)

若葉がどんだけ悲しんでたか、
お前も見ただろ!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

まあ、落ち着きなよ。
この件については一旦置いておこう

美崎 耀(みさき あかる)

置いておくって……

佐伯 玲也(さえき れいや)

そして、二日目。
夜中に抜け出した
先生(さきお)先生は、
頭から血を流して死んでいた

佐伯 玲也(さえき れいや)

事故、自殺、他殺の三つの線から
考えてみたけど、
事故と他殺については
可能性が低いように思う

日良 若葉(ひら わかば)

どうして?

佐伯 玲也(さえき れいや)

あの晩に美崎も言っていたけど、
5年前にみさき先生が事故死をしてから
あの崖には柵が作られたよね

佐伯 玲也(さえき れいや)

だから犯人が体当たりした所で、
成人男性を柵の向こうへ突き落とす事は
難しいように思う

日良 若葉(ひら わかば)

事故についてもそうだね。
先生先生が自ら進んで
柵を乗り越えないと
起こらないよね……

佐伯 玲也(さえき れいや)

ああ、僕もそう思うよ。
だからこの件で犯人が
いるのだとしたら、
先生先生は何らかの理由で
自殺せざるを得なかったんだろう

美崎 耀(みさき あかる)

でも、なんか引っかかるんだよなあ

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎が先生先生の自殺を
認めたくない気持ちはわかる。
だけど……

美崎 耀(みさき あかる)

いや、そうじゃなくて。
あの晩は辺りが真っ暗だったし、
俺も混乱してたから
周りをよく見てなかったけどさ

美崎 耀(みさき あかる)

兄貴の周りや崖の上をよく探せば、
他殺を証明する何かが
あるかもしれないだろ?

日良 若葉(ひら わかば)

今から見に行く?

佐伯 玲也(さえき れいや)

ここから崖の上に行くのは
時間が掛かるよ。
その間に船がきたらどうする?

美崎 耀(みさき あかる)

そうだな……

佐伯 玲也(さえき れいや)

まあ、いずれにしても。
先生先生が何らかの弱味を握られて
自殺に追い込まれたのだ
としたら……

佐伯 玲也(さえき れいや)

怪しいのは、昼間に二人きりで
会っていた雲母さんだ

日良 若葉(ひら わかば)

…………

美崎 耀(みさき あかる)

(亜百合は、兄貴に自殺なんか
促していなかった。
ただ悩みを打ち明けていた
だけだったんだ……)

美崎 耀(みさき あかる)

(亜百合の気持ちを考えれば、
何を悩んでいたかは
玲也に話さない方がいいよな)

佐伯 玲也(さえき れいや)

ただ、その雲母さんも
自殺をしてしまった。
もしも雲母さんが犯人なら、
これで殺人劇は幕を下ろしたことになる

日良 若葉(ひら わかば)

違う!
亜百合ちゃんは犯人じゃない!

佐伯 玲也(さえき れいや)

慌てないで。
僕もそう思ってるから。
雲母さんを犯人と思わせる
トリックの可能性もある

美崎 耀(みさき あかる)

トリック?
そんなの誰が仕掛けるんだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

もちろん、真犯人だよ。
雲母さんが、犯人にとっての
重要な秘密を知ってしまった

佐伯 玲也(さえき れいや)

それで、自殺に見せかけて
『罪を着せられたまま
殺された』という推論が
成り立たないかい?

美崎 耀(みさき あかる)

なんでそんなぶっ飛んだ
発想が出てくるんだ???
根拠が無さすぎるだろ

佐伯 玲也(さえき れいや)

雲母さんの爆死が、
あまりにも不自然だったからだよ。
どうして偶然にも僕たちが
雨宿りした場所で
タイミング良く死ぬんだい?

佐伯 玲也(さえき れいや)

そして、僕らは見つけられなかった
遺書を、どうしてタイミング良く
見つけられたのか──

佐伯 玲也(さえき れいや)

──ねえ、日良さん?

日良 若葉(ひら わかば)

えっ……?
う、うん?

美崎 耀(みさき あかる)

お前、まさか……。
まだしつこく若葉を
疑ってんのか?

佐伯 玲也(さえき れいや)

ずっとそう言ってると思うけど?
だって考えてもみなよ。
この状況で容疑者は僕、美崎、
そして日良さん……この三人だよ

美崎 耀(みさき あかる)

その中でどうして
若葉が犯人ってことになるんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

状況証拠ってやつだね。
宮ノ内さんの第一発見者と、
雲母さんの遺書の第一発見者。
これが全部日良さんだ

佐伯 玲也(さえき れいや)

加えて先生先生が転落死したときに
男女が別の部屋で寝ていた

佐伯 玲也(さえき れいや)

だから、美崎と僕はお互いの
アリバイが証明できるけど、
日良さんのアリバイを証明できる人間は
もうこの世にいない

日良 若葉(ひら わかば)

ちょ、ちょっと待って。
亜百合ちゃんの遺書は、
私があそこに置いたって言うの?

佐伯 玲也(さえき れいや)

その通りだよ。
日良さんが、自分で書いた物を
見つけた振りをしてるんじゃないか
って僕は思ってる

美崎 耀(みさき あかる)

お前、頭がイッちゃってないか?
若葉がそんなことできる
人間に見えるか?

佐伯 玲也(さえき れいや)

サイコパスは見た目には
わかりづらいもんだよ。
キミは人を信用しすぎる

日良 若葉(ひら わかば)

わ、私がサイコパス……

美崎 耀(みさき あかる)

サイコパスはお前だ!!

日良 若葉(ひら わかば)

聞いて、玲也くん。
あれは本当に、
偶然目に入っただけなの

美崎 耀(みさき あかる)

確かロビーの受付に、
封筒が置いて有ったって言ってたよな。
あのカウンターの高さじゃ、
背が低い千雪の目には留まらないな

美崎 耀(みさき あかる)

だから目線の高さから考えても、
若葉があの手紙を見つけたのは
まったく不自然じゃないな

日良 若葉(ひら わかば)

うん……。
脱いだ服をどこに
掛けようかと思って
周りを見渡したら、
亜百合ちゃんの手紙に気づいたの

日良 若葉(ひら わかば)

廃墟に有るにしては
おかしなくらい綺麗な封筒だから、
すごく目立ってた

佐伯 玲也(さえき れいや)

ふうーん……。
美崎に聞くけど、
僕らが映画館に入ったときに
あんな封筒は有ったかい?

美崎 耀(みさき あかる)

そんなの覚えてねえよ。
あの時は雨に濡れて
慌てて駆け込んだから、
目に入らなくて当然だろ

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕は無かったように思うな。
後からいきなり現れたんだよ、
あの手紙が

日良 若葉(ひら わかば)

私も入ったときは
気づかなかった!
だけど本当に、
あそこに置いてあったの!

美崎 耀(みさき あかる)

若葉は服を掛けようとして
じっくり見渡してから
気づいたんだ。
何もおかしくねえだろ

佐伯 玲也(さえき れいや)

どうだか……

美崎 耀(みさき あかる)

それに第一、あれは若葉の字じゃない。
雑誌やネットで見た亜百合の字に
そっくりだ。
あれは本人が書いたんだ

佐伯 玲也(さえき れいや)

筆跡を似せただけじゃないのかい?
あんなに短くて簡単な文章なら、
あの場ですぐ書けたはずだよ

美崎 耀(みさき あかる)

あのなあ……。
さっきからお前が言ってんのは、
推理じゃなくて屁理屈だぞ

佐伯 玲也(さえき れいや)

だって証拠を集めようが
ないじゃないか。
だから本人の自白を促すしか
ないんだよ

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くんは、
私に自白して欲しいんだね……

美崎 耀(みさき あかる)

犯人でもねーやつが、
どうやって自白すんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

わからないよ?
大切に想ってる人が責められたら、
俺が真犯人だ……なんて
言いだす人もいるかもしれない

美崎 耀(みさき あかる)

なんだよそれ……。
俺が犯人だって言うのか?

佐伯 玲也(さえき れいや)

可能性は広げなきゃ。
すべてが同一犯だと
思い込んでいると
命取りになるかもしれないしね

美崎 耀(みさき あかる)

どういう意味だ?

佐伯 玲也(さえき れいや)

言えよ、美崎。
元宮さんを殺したんだろ?

美崎 耀(みさき あかる)

ふざけんな!!
殺してねえよ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

じゃあ、
元宮さんをどこへやったんだい?

美崎 耀(みさき あかる)

だ、だからそれは……。
海に……

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん!
耀くんは、千雪ちゃんのために
海に流してあげたって
言ってるんだよ!?
信じようよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

日良さん……キミはそう言うけど、
本心では不自然に思ってるんだろ?

日良 若葉(ひら わかば)

…………

日良 若葉(ひら わかば)

思ってないよ。
耀くんはみんなを悲しませないために、
眠ってる私たちを起こさずに
千雪ちゃんを海へ流したんだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

医者でもあるまいし、
息をしなくなったくらいで
死んだと断定するなんて、ね……

美崎 耀(みさき あかる)

ちゃんと脈も測った!

佐伯 玲也(さえき れいや)

それに関しての
客観的に認められる
証拠は有るのかい?

美崎 耀(みさき あかる)

そんなの……
有るわけないだろ……

佐伯 玲也(さえき れいや)

なあ、美崎。
本当のことを教えてくれ。
キミは誰かに指示されて、
元宮さんを殺したんじゃないのか?

美崎 耀(みさき あかる)

そ、それは……

日良 若葉(ひら わかば)

耀くん……

佐伯 玲也(さえき れいや)

日良さん、今こう思っただろ?
殺人じゃないなら、どうしてすぐに
否定しないんだろう? って

日良 若葉(ひら わかば)

玲也くん……ッ!
そんなこと、思ってないよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

所詮、キミの美崎への想いなんて
その程度のものなんだよ。
少しの不信感で揺らぐ程度のね

日良 若葉(ひら わかば)

だ、だって、
私は耀くんが千雪ちゃんを
殺したなんて思ってないし……!

美崎 耀(みさき あかる)

もう、いいよ若葉。
俺を庇わなくても

日良 若葉(ひら わかば)

耀……くん?

美崎 耀(みさき あかる)

俺は千雪を殺した!
身動きが取れない千雪を、
海に沈めたんだ!!

日良 若葉(ひら わかば)

…………ッッ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎……

美崎 耀(みさき あかる)

これでもう満足したろ!?
千雪は二度と
戻ってこないんだよ!
千雪は死んだんだよ!!!

美崎 耀(みさき あかる)

苦しんでる千雪を、
楽にしてやりたかったんだ!
それの何が悪いんだよ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

そんなに声を荒げなくてもいい。
落ち着くんだ、美崎!

美崎 耀(みさき あかる)

うるせえ!
死んだみんなにも聞こえるように
言ってんだ!!

美崎 耀(みさき あかる)

千雪は、俺が殺した!
犯人にいたぶられる前に、
楽にしてやったんだよ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

落ち着いてくれ!
僕はキミを傷つけたくて
言ってるわけじゃないんだ!

 すると俺の身体は、
不意に玲也に抱き寄せられた。


 玲也が唇を近づけていることに気づいて、
俺は力一杯に玲也を突き飛ばす。

美崎 耀(みさき あかる)

何しやがんだテメエ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

……日良さんは受け入れるのに、
僕のキスは拒むんだね

美崎 耀(みさき あかる)

当たり前だ!
俺に触んなっっ!!

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕を気持ち悪いと思うかい?
でも、本気なんだ

佐伯 玲也(さえき れいや)

昔から美崎のことが好きだった。
美崎に再会するのを、
どんなに心待ちにしていたことか

佐伯 玲也(さえき れいや)

例えキミが人を殺したとしても、
僕はキミを愛せる自信がある

佐伯 玲也(さえき れいや)

だから。
日良さんを見るのは、
もうやめてくれ

日良 若葉(ひら わかば)

えっ……

美崎 耀(みさき あかる)

お、俺が若葉を見てるとか!
愛せる自信とか……!
何を言ってんだお前は!?

日良 若葉(ひら わかば)

あの、えっと……。
玲也くん、落ち着こう……ね?

佐伯 玲也(さえき れいや)

落ち着く?

日良 若葉(ひら わかば)

なんだか話が
おかしな方向に行ってるよ。
いつも冷静な玲也くんらしくない

佐伯 玲也(さえき れいや)

うるさい……。
お前は黙ってろ……

日良 若葉(ひら わかば)

!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

生まれながら恵まれているお前に、
上から物を言われる
謂(いわ)れは無い

美崎 耀(みさき あかる)

(急になんだ?
玲也のこんな低い声、
聞いたことないぞ)

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎と違う性別に生まれ、
更には島を出てからも美崎と
離れることは無かった境遇に
甘んじているお前が
知った口を利くな

佐伯 玲也(さえき れいや)

お前が何の努力をしたというんだ。
何の苦労をしたというんだ。
すべてはお前の親が、美崎に
恩を着せただけのことだろう

日良 若葉(ひら わかば)

玲也……くん……?

美崎 耀(みさき あかる)

玲也?
お前、どうしたんだ?

佐伯 玲也(さえき れいや)

どうしたも
こうしたもない。
これが本当の僕だ

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎に受け入れられなかった
ことを考えると怖くて
今まで冗談めかしてきたけど、
僕の気持ちは本物なんだ

佐伯 玲也(さえき れいや)

子供のときからキミ以外の人を
愛することはなかった。
美崎と過ごしたこの希島は、
僕にとって愛の象徴なんだ

美崎 耀(みさき あかる)

なんだよ、それ……。
意味わかんねえよ……

佐伯 玲也(さえき れいや)

人を愛するって、
こういうことなんだよ美崎

美崎 耀(みさき あかる)

お前のは愛じゃなくて暴力だよ。
無責任に気持ちをぶつけられた
こっちはどうすりゃいいんだよ

佐伯 玲也(さえき れいや)

無責任じゃない!
僕は自分の気持ちに
責任を持ってる!

美崎 耀(みさき あかる)

いーや、違うな。
お前は暴走してる

美崎 耀(みさき あかる)

お前は誰も愛しちゃいねえんだよ!
俺に、希島の楽しかった思い出を
重ねてるだけなんだよ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

そうじゃない……!
どうしてわかってくれないんだ!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕が……
男だから、なのか……?

美崎 耀(みさき あかる)

男とか女とか、
今は関係ねえだろ!

佐伯 玲也(さえき れいや)

そうか……。
もしキミが女の子だったら、
僕を受け入れてくれたのかもね

佐伯 玲也(さえき れいや)

僕は昔から、
女の子にしか好かれ
なかったから……

美崎 耀(みさき あかる)

自分勝手な事ばっか
ほざいてんじゃねーよ!
俺は男だ!
俺の性別まで否定すんな!

佐伯 玲也(さえき れいや)

キミを否定したわけじゃない……。
ただ、ただ……



 そのまま玲也は黙り込み、
ゆっくりと背を向けた。


 その縮こまった背中が
今までの玲也とは明らかに様子が違って、
少し怖く思えた。


 何か声をかけようかと迷っている矢先に、
玲也は言った。

佐伯 玲也(さえき れいや)

少し、頭を冷やしてくる

美崎 耀(みさき あかる)

どこに行く気だ!?

佐伯 玲也(さえき れいや)

美崎……。
僕とキミは、学校の帰りに
よくゲームセンターへ行ったね

美崎 耀(みさき あかる)

あ、ああ。
そんなこともあったな

佐伯 玲也(さえき れいや)

あそこで一人になって考えるよ。
船が来たら呼んでくれ

美崎 耀(みさき あかる)

おい、待てよ!



 俺は玲也の肩をつかんだが、
玲也はこちらに振り向きもせずに
それを振り払った。

佐伯 玲也(さえき れいや)

一人に……
させてくれ……






 そう言って静かに歩いて行く玲也を、
俺も若葉も引き止めることはできなかった。


 引き止められるわけが無かった。


 今はどちらが声をかけても、玲也を深く傷つけるだけなのだから。



・・・




 玲也が草を踏んで去って行く音だけが、
やけに耳にこびりついて離れなかった……。

廃墟島の4日目 《 前編 》

facebook twitter
pagetop