子供のとき、天国と地獄について
みさきさんから教わったことがある。
良いことをすると死後に天国へ昇れて、
悪いことをすると地獄に堕ちるのだと。
大好きなみさきさんの言うことだ。
俺は疑うこともなくその言葉を信じて、
良い子でいようと思った。
子供のとき、天国と地獄について
みさきさんから教わったことがある。
良いことをすると死後に天国へ昇れて、
悪いことをすると地獄に堕ちるのだと。
大好きなみさきさんの言うことだ。
俺は疑うこともなくその言葉を信じて、
良い子でいようと思った。
だけど、心のどこかでこうも思っていた。
地獄ってのはどこにあるんだ?
どこか遠い場所にあって、
俺とは何の関係も無いものなんじゃないか?
──と。
俺はそれを、今になって知った。
地獄はどこか遠くにあるものではなく、
俺のすぐ足元に──
いや、
最初から、俺の中に在るものだったのだと。
廃墟島の3日目《 後編 》
希島に来て、3日目の朝がきた。
自分のせいで亜百合が
この世からいなくなったことに、
涙を流すこともできなかった。
ただ、ただ、俺は……
乾き切った瞳で朝焼けを眺めていた。
瞳を閉じると、亜百合の顔が浮かんでくる。
暗闇に立つ亜百合は涙を流し続け、
ひたすら俺を責め続けた。
どうして私を
信じてくれなかったの?
どうして俺は、亜百合を
疑ったりしたんだろう。
兄貴が死んだ状況で、
みんなで助け合わなきゃいけなかったのに。
亜百合を思い出すと、兄貴の最期を思い出す。
瞳を開ければ兄貴の姿は消えるが、
閉じると頭から血を流した兄貴が
また浮かび上がる。
頭がどうにかなってしまいそうで、
俺には目を閉じて眠ることすら
許されないように思えた。
耀くん……外にいたんだ。
あれから寝てないの?
…………
若葉から話しかけられても、
俺は返事をする気力が残っていなかった。
亜百合ちゃんのことで
自分を責めてるの?
黙ってうつむくと、
若葉の滑らかで柔らかい手が俺の頬を覆った。
亜百合ちゃんが死んだのは、
耀くんのせいなんかじゃない。
自分を苦しめないで!
……っ!
朝焼けで光る若葉の瞳を見た途端に、
瞳の奥からじわじわと
涙がにじみ出るのを感じた。
それは乾いた砂地に水が染み込むようで、
若葉の優しさに俺のすべてが
許されたようにも思えた。
……違う、そんなのは錯覚だ。
俺のしたことが許されるわけがない。
亜百合に
『兄貴を殺したのはお前だ』
なんて人殺し扱いをしておいて、
俺が亜百合を殺しちまった……
違うの!
本当に耀くんのせい
なんかじゃないの!
慰めるのはやめてくれ。
俺は許されないことをやったんだよ
兄貴も、もうこの世にいない……。
これじゃあ、
俺が生きてる意味なんか
無いじゃないか……
生きてる……意味?
俺も死ぬよ。
あの崖から飛び降りれば、
みさきさんや兄貴に会えるかな
聞いて、耀くん!
亜百合ちゃんが自殺した本当の理由を、
私は知ってるの!!
本当の……理由?
亜百合ちゃんが、
何を先生(さきお)先生に
相談していたのか……
今なら話しても、
亜百合ちゃんも
許してくれると思う。
だから耀くんだけには、教えるね
…………ッ!
亜百合ちゃんは芸能界に入って、
アイドルになって夢を叶えた
でも、その代償として、
大人の男の人たちを
相手にすることを求められたの
亜百合が……枕営業を?
嘘だろ?
だってあいつまだ、中学生だぞ
私も最初は信じられなかったよ。
でもね、同じ女として
思い当たることがあったの
耀くんが見たグラビア……。
私も見てみたんだけど、
身体が成熟しすぎている
身体も立派に成長してたしなぁ
んんっ?
どういうこと?
雑誌のグラビアで
水着になってたんだけど、
中学3年生にしては
出る所がきちんと出て、
しまる所がキュッとしまってて……
あれはもしかして、
男の人を知ってる身体なんじゃ
ないかな? って……
やめろ!!
聞きたくない!
俺は両の耳を押さえ、頭を激しく横に振った。
聞きたくないのはわかるよ。
だけど、聞いて欲しいの。
亜百合ちゃんが、どんな思いで
今回のお別れ会を提案したかってことを
…………
亜百合ちゃんの最期の声を、
聞いてあげて
…………
……ああ。
わかった、聞くよ
ありがとう、耀くん
そもそもお別れ会の話が出たのは、
亜百合ちゃんが私に電話で
悩みを打ち明けたことが
きっかけだったの
『もう芸能界を辞めたい。
希島でみんなで暮らしていた頃に
戻りたい』と言って、
ずっと泣いてた
そうか……。
あの頃を思い出すために、
みんなでこの島に来たのか……
だったら、なんで言って
やらなかったんだよ。
アイドルなんか辞めちまえって
もちろん言ったよ。
このままじゃ亜百合ちゃんが
おかしくなっちゃうよ! って
だけどね、芸能界を辞めること、
お母さんが許して
くれなかったんだって
なんでだよ!
母親なんだろ!?
自分の娘が大事じゃないのか!?
大事には想ってたと思うよ。
芸能活動を全面的に支えてたのは
お母さんだし。
でもね……
亜百合ちゃんに向かって
『あんたが仕事を辞めたら、
私たちは食べて行けなくなる』
って、言ったんだって
でも、あんなに売れてたんだから、
かなりの貯金はあったんじゃないのか?
私もそう思う……。
だけどね、亜百合ちゃんのお母さんには
女としてのプライドがあったみたい
プライド?
耀くんは覚えてるかな?
亜百合ちゃんのお父さんとお母さんが、
離婚した理由
ああ、覚えてるぜ。
亜百合の父さんは本土に女がいて、
そっちに本気になっちまった……
って
確かその関係でゴタゴタしてる時に
亜百合は母さんと
本土へ行ったんだっけ。
その時に、芸能事務所から
スカウトされたんだよな
うん。
亜百合ちゃんの芸能界入りは、
自分と娘を捨てられたと思った
お母さんにとっては、
絶好のチャンスだったんだよ
ひと財産を築いて、旦那さん……
つまり、亜百合ちゃんのお父さんを
見返したかったんだって
(そんなくだらねぇ意地なんかで、
男の相手をさせられた亜百合は
どんなに傷ついたんだろう……)
(親に助けを求めたくても、
その親が主導してやらせてたんだ。
逃げ道が無い状況で、亜百合の心は
もう壊れていたのかもしれないな)
亜百合ちゃんが希島の仲間として、
同じ女の子として、
私を頼ってくれたのは嬉しかった
でも、私は芸能界のことなんて
まるでわからないし、
どうすればいいか
わからなかったの……
亜百合ちゃんのことを考えたら、
周りの人なんかに話せないよ。
国民的アイドルのスキャンダルなんて、
一体誰に相談すればいいの?
そう思ってお前は、
兄貴に相談するように促したんだな
そうだよ……。
先生先生なら亜百合ちゃんも
話せるだろうと思ったから
それに、私たちにとって
先生先生はヒーローだった。
子供の私たちが出来ないことを
何でも解決してくれた
だからっ……だから!
亜百合ちゃんのことも
救ってくれると
思ったのに……っ!!
亜百合は顔を両手で覆い、その場に泣き崩れてしまった。
俺は、兄貴が居ないという現実を
未だに受け止められない一方で、
泣いている若葉を見て不思議と
心が落ち着いていった。
なあ……。
亜百合はもう、
解放されたんだよな
……何から?
辛い現実からだよ。
自分を守ってくれなかった母親からもな
後は俺が亜百合の所へ行って、
土下座すればいいんだ。
それですべてが終わるよな?
亜百合が許してくれるか
わかんねぇけどさ。
俺がたくさん話を聞いてやって、
亜百合を救いたいんだ
何、言ってるの……?
耀くんが死んで亜百合ちゃんが
救われるわけないでしょ……?
じゃあ、どうすればいいんだよ!
心が壊れていた亜百合に、
とどめを刺したのは俺なんだよ!
耀くん……
屈み込んでいた若葉がすっと立ち上がり、
俺の頬に手を添えた。
また子供のようにあやされるのかと思い、
その手をふりほどこうとしたが……。
んっ……
……ッッ!?
俺の唇に触れる、柔らかい感触。
若葉の顔が間近にきたと思った次の瞬間、
俺はキスされていたのだ。
私は、耀くんが好き。
ずっと好きだったの、
子供の頃から
だから、もう死ぬなんて
言わないで。
耀くんが死んじゃったら、
私はどうすればいいの?
知らなかった。
お前が……
俺を好きだったなんて……
耀くんが、私をそんな風に
見てないのは知ってる。
だからずっと言わないでおこうと
思ってたの
だけど、耀くんが死んじゃうって
思ったら我慢できなくなって……
私のことを好きになって欲しい
なんて言わないから。
だから、私の前からいなくならないで!
ま、待ってくれ若葉!
俺は……
俺は、若葉のことをどう思ってるんだ?
若葉が成長して、女らしくなっても、
若葉を女として見ようとはしなかった。
兄妹のように育った若葉が
女であることに気づくのは、
とても恥ずかしいことのような気が
していたから……。
(若葉を汚したくなくて、
だから俺は……)
ねえ、キミたち。
いつまでやってるんだい?
れれれ、玲也!?
玲也くん……!
ち、千雪ちゃんはまだ寝てるの?
その元宮さんが、
大変なことになってるんだよ。
すぐに戻って来てよ
大変なこと!?
急ぐぞ、若葉!
うんっ!
う~ん、う~ん……
俺たちが寝床としている
学校の宿直室へ戻ると、
寝袋に入っている千雪が
顔を真っ赤にしてうなされていた。
千雪!
大丈夫か!?
耀おにぃ……。
すごく苦しいです……
俺は千雪の額に手を当てた。
すげー熱じゃねえか!
千雪ちゃん、
こうなったのはいつから?
映画館を出たときから、
とっても具合が悪くなって……。
寝袋に入ったら、
どんどん身体が熱くなってきました……
やっぱり雨に打たれたことが
良くなかったんだね……。
すぐに温まることができなかったし
どうして具合が悪いことを
早く言わなかったんだよ?
みんなに迷惑かけちゃ
いけないと思ったんです……
僕には迷惑かけたのにね。
こっちは疲れて寝てたのに、
辛いから水をくれだってさ
そんな言い方ねーだろ!
自分より小さい子が
苦しんでるんだぞ!
その小さい子を置き去りにして
イチャイチャしてた人間が、
よく言うね
くっ……!
待って、玲也くん!
耀くんはお兄さんを亡くしたばかり
なんだよ?
眠れないから私と話してたのが、
そんなにいけないことなの?
そうだね。
よく考えれば、
傷心して落ち込んでる美崎に
言い寄ったキミが悪いんだね
そんな言い方……
俺は若葉に言い寄られて
なんかねえよ!
ケンカ……やめて……
千雪ちゃん、ごめんね!
ケンカなんかしてる場合じゃなかったね
若葉はそう言いながら、
慌てた様子で常備品が入ったリュックを
手に取った。
姫乃が用意して、
第一倉庫に置いて有った物だ。
それぞれが持つリュックの中には、
各人がすぐに飲めるように
ペットボトルの水がいくつか入っている。
若葉は千雪のリュックから、水を取り出した。
はい、お水だよ……。
少し起き上がって飲める?
はい……
千雪は若葉に背中を支えられながら、
水をコクン、コクン……と飲み込んだ。
他に欲しい物が有ったら言ってね。
何か食べたい物はある?
今は、特に……
食欲が無いんだろうな。
そうだ、薬を飲ませないと。
風邪薬は……えーと……
最初に僕らがカセットコンロやらを
運んできた第一倉庫に、
救急箱が有ったよ
よし、取ってくる!
立ち上がったのと同時に、
何かにズボンの裾が引っ張られた。
行かないで……
耀おにぃ……
千雪?
どうした?
耀おにぃに、側にいて欲しいです……。
二人で話したいことがあります……
話したいこと?
わかったよ、千雪
若葉、玲也。
悪いけど、二人で救急箱を
取って来てくれねぇか?
まあ美崎の頼みだって言うなら
行くけど……。
日良さんを一人で行動させる
わけには行かないし
あ、ありがとう。
玲也くん
何か誤解してるようだけど、
僕はまだキミを犯人じゃないかと
疑ってるんだ
えっ?
どうして?
雲母さんの自殺の件にしたって、
僕らが見てないときに爆発が
起きるなんて都合が良すぎだろ
だから僕が、
日良さんを監視しておかないとね
…………。
疑われるような行動だったよね、
ごめんね
玲也っっ!!
バカ言ってないで、
早く救急箱を持って来いよ!
はいはい……
落ち込む若葉とあの調子の玲也を
一緒に行動させるのは少し不安もあったが、
千雪が俺と二人で話したいと
言っているのだから仕方ない。
それに、若葉を一人にさせるよりも、
玲也と一緒にいた方が身の安全を守れるだろう。
例え玲也が、俺が思っている以上に
若葉を嫌っていたとしても……。
二人が部屋を出て行くのを見届けた後、
俺は千雪の隣に腰を下ろした。
……で。
話したいことってなんだ?
ボクは……姫乃おねぇを殺した
犯人を知っています……
犯人!?
姫乃が殺される所を見たのか!?
殺してる所を
見たわけじゃありません……。
でも、後で姫乃おねぇを殺すために
協力させられたんだと気づきました……
そのこと、誰かに言ったのか?
誰にも言ってません……。
言えばボクも殺すと
言われました……
じゃあ、俺に話しちまったら
千雪の命が狙われるだろ!?
ボクはもう長くありません……。
耀おにぃだけは犯人を知って
生き延びて欲しいんです……
馬鹿なこと言うなよ!
こんなの単なる風邪だろ?
薬を飲めば治るって!
そんなんじゃなくて……。
わかるんです……。
次に殺されるのはボクだって……
(千雪が犯人を知ってるなら、
確かに次に狙われるのは
千雪かもしれない)
(でも、熱に浮かされて
妄想を話している
だけなんじゃないか?)
それから……。
耀おにぃに、もう一つ
聞いて欲しいことがあります……
どうした?
ボクは耀おにぃが好きです……
お? おう。
俺も千雪が好きだぞ
そうじゃなくて、
恋人になりたい方の好きです……
はっ? えっ?
そ、そうなのか?
はは……ありがとな
ちっちゃい頃から
耀おにぃのことが好きでした……。
耀おにぃと結婚することが夢でした……
ま、待て待て千雪。
お前、熱でおかしくなってるだろ。
もう喋るな、休め
むぅ……。
今まで誰にもナイショにしてた、
ボクの本当の気持ちです……
耀おにぃがいなければ、
このお別れ会にも
来ていませんでした……
そ、そうだったのか。
千雪が俺をそんな風に
思っていてくれてたなんてな
だから、犯人から逃げてください……。
耀おにぃが逃げれば……
みんなが助かるはずです……
俺が逃げれば、みんなが助かる?
どういうことだよ?
だって、犯人は……。
犯人の名前は……
待て! 言うな!
俺はとっさに千雪の口を押さえた。
千雪がモゴモゴと何かを喋ろうとし、
苦しげな表情を浮かべているのを見て
俺はようやく手を離した。
どうして言わせて
くれないんですか……?
犯人がどっかで聞いてるかも
しれねえだろ。
犯人の名前を言ったら、
お前が殺されるんだぞ?
千雪を守る自信が無いわけ
じゃないけど……。
お前を危険に
晒したくねえんだよ
耀おにぃ……
わかりました……。
じゃあ、一つだけお願いを
聞いてください……
なんだ?
ボクが死んだら、
ボクの身体は海へ流して
ください……
何言ってんだよ?
お前が死ぬわけ無いだろ!
でも、ボクはもう……
疲れました……
か細い声でそう呟いた千雪は、
まぶたを閉じて眠りについてしまった。
まさか死んでしまったのではないかと
不安になって、
千雪の鼻と口に手をかざす。
すぅ……すぅ……
(大丈夫だ、息はしてる)
(しかし、
千雪が犯人を知ってる
って話は本当なのか?)
(高熱で悪夢を見ただけ
なのかもしれないな)
ハアッハアッ!
救急箱、持って来たよ!
おう。
ずいぶん早かったな
玲也くんと急いで走ってきたの。
千雪ちゃんの具合はどう?
ああ、今寝たよ。
起こして薬を飲まそうか?
一度起こすと、
また寝れなくなるだろ?
起きるまで待とうよ
それもそうか。
兄貴も言ってたな。
寝るのが一番体力が
回復するんだって
ふわあああ……。
僕も眠くなってきたよ。
一眠りするかな
確かお迎えの船がくるのは
お昼頃って言ってたし、
それまで寝ようか
まだ朝の7時か……。
4~5時間は寝れるかな
若葉と玲也はそう言いながら、
寝袋に入っている。
二人が寝息をたて始めた頃──
俺は、千雪の言葉について考えていた。
耀おにぃが逃げれば……
みんなが助かるはずです……
まるで犯人が”俺だけ”を
狙っているかのような言い方だった。
でも、そうだとするならなぜ……
俺を一番先に殺さないんだ?
それに──
わかるんです……。
次に殺されるのはボクだって……
──現段階で、千雪を殺せる人間。
それは……。
(なんてこった。
俺を抜かせば、
若葉と玲也しかいないだろ)
(千雪が二人に怯えている
様子は無かったような……。
俺が気づいてなかっただけか?)
俺と二人で話したがったことからも、
千雪は熱に浮かされながらも
冷静な判断をしていた可能性は高い。
千雪が犯人を知っているというのは、
妄想ではないということだ。
だが、俺に告白するために
二人になりたかっただけのようにも思える。
かといって、すべてを千雪の……
子供の単なる空想の類として片付けるには、
千雪の言葉があまりにも気にかかる。
殺してる所を
見たわけじゃありません……。
でも、後で姫乃おねぇを殺すために
協力させられたんだと気づきました……
(姫乃を殺すには、
千雪の協力が必要だったのか?)
(もしくは千雪が、
夢で見たことを現実で起こったと
勘違いしているのかもな。
子供にはよくある話だ)
意図する、しないにかかわらず、
千雪がウソを言っている。
そうだとしたらすべて合点がいくのだが、
ただ一つだけ気がかりな点はある。
俺は”ある物”について、
はっきりと確かめていないんだ。
あの注意深い玲也すら、
確かめる暇は無かったはずだ。
もしも”あれ”の正体が
俺が思っているものと違うとしたら、
千雪の発言に真実味が帯びてくる。
(今から確かめに行くか?
いや、この状況で千雪を
置き去りにするのは危険だ)
(兎にも角にも、
クルーザーが迎えに来れば
すべてが終わるんだ)
(兄貴の言葉じゃないけど、
後のことは警察に
任せればいい……)
そうして俺は寝袋に潜り込み、
泥のように眠りに落ちた……。
船……来ないね
もう少し待ってれば来るだろ
いや、とっくに来ても
おかしくないはずだよ。
もう夕方になるよ?
何かの手違いで
遅れてるだけじゃねえのか?
はあ、はあ……
千雪ちゃん、朝より苦しそう……。
大丈夫?
ちょっと横になろうか?
はあ、はあ……
千雪は虚ろな目をして、
頷くのがやっとという様子だった。
若葉は服が入った柔らかいバッグを
地面に置き、
それを枕代わりに千雪を横たわらせている。
そうして俺たちは、日が落ちるまで
迎えの船を待ち続けた。
しかし、次第に辺りは暗くなり……。
夜になっても、
迎えの船はとうとうこなかった……。
推理して頂けて感激の至りです!
船が来ない理由は結末までノーヒントで行こうかと思ってましたが、あまりにも唐突感が否めないので次の話に伏線を張っておきます(汗)
それとは無関係ですが、ペットボトルの水が重要アイテムなのでイラストが有って助かりました。
素晴らしいイラストの数々に感謝です。