廃墟島の3日目《 前編 》
えっ……!
亜百合、本当に
芸能人になるのか!?
うんっ。
この間のオーディションに
受かったんだ。
本土に引っ越してから
お仕事を始めるの
亜百合がテレビに出るのか。
なんか想像できないなぁ
テレビに出られるかは、
まだわかんないけど……
でもねっ!
テレビとか雑誌とか、
たくさん出られるように
頑張るから!
だから……。
私のこと忘れないでね?
約束だよ?
忘れるわけねえだろ!
超人気アイドルになるかも
しんねえから、今の内に
サイン貰っとくかな
ふふっ。
お兄ちゃんは、
私にアイドルになって欲しいの?
そりゃあ、まあ……。
女の子で芸能人って言ったら、
アイドルじゃないのか?
じゃあ私、アイドルになる!
お兄ちゃんがビックリするくらいの
超人気アイドルになるからね!
廃墟島の3日目《 前編 》
──島に来て、
3日目の朝日が昇ろうとしている。
あれから俺たちは
夜を徹して亜百合を探したが、
とうとう見つける事はできなかった。
(亜百合……。
どこに行っちまったんだよ?)
雨が降ってきました……
その辺で雨宿りしよっか
ああ……
ここからなら映画館が近い。
あそこまで走ろう!
千雪ちゃん、
転ばないように気をつけてね?
はい、です……
俺たちは雨の中を走り抜け、
映画館へ到着した。
とりあえずは身体を休ませようと思い、
椅子が沢山有るスクリーンの方へ移動する。
懐中電灯で座席や足元を照らしながら、
無人の映画館を歩いた。
ビチョビチョになって
しまいました……
拭く物が何も無いね。
風邪引いちゃうかも
服が濡れてるなら
脱いじゃおうか?
その辺に掛けて乾かそう
えーっ。
そ、それはちょっと……
さすがに女子には
そんなことさせないよ。
僕と美崎だけが脱げばいいんだ
あー……。
うん、そうだな
そして裸で抱き合おう。
そうすればすぐに温まるよね?
れ、玲也くんっ!
それで温かくなるんですか……?
だったらボクもやります……
千雪ちゃん、ダメだよぉ~!
玲也……。
悪いけど、今は冗談に付き合う
気分じゃねえんだ……
ふうーん。
雲母さんが行方不明になったのは、
自分のせいだって
落ち込んでるわけだ?
そうだよ。
悪いのかよ?
美崎はきっかけになっただけだよ。
僕は団体行動を乱して、
こうしてみんなに迷惑を掛けてる
雲母さんの方に腹が立つけどな
玲也くん。
いくらなんでも、
そんな言い方って無いよ
徹夜で体力を消耗しきった上に
雨でずぶ濡れになったせいで、
誰かが風邪で寝込んでも
雲母さんを庇うのかい?
やめろ、玲也
それは別の問題だよぉ。
亜百合ちゃんだって、
みんなを困らせようとした
わけじゃないんだし……
へえー。
ご立派だね、女の友情ってやつは。
もっとも日良さんと雲母さんは、
友情というより
相互依存にしか見えないけど
そうごいぞん……って、
なんですか?
ん? 友達ってのは、
お互いに助け合うものだろ?
でも相互依存は、
相手に寄りかかって
傷を舐め合うだけなんだよ
玲也くん……。
私、そんなに怒らせるようなこと
言った……?
だからさっきも言っただろ。
徹夜したせいで疲れてるんだ。
それなのに日良さんは
下らない事ばかり言うし……
いい加減にしろ!!
なんでそんなに
若葉に絡むんだよ!
いいの、耀くん。
私もよく考えないで喋ったから
だったら次からはよく考えて、
その偽善的な価値観を
僕に押し付けないようにしてね
…………
玲也!
あんまりしつこいと殴るぞ!
やめてください、耀おにぃ……。
玲也おにぃも、若葉おねぇを
いじめないで下さい……
千雪……
…………
くしゅんっ
千雪ちゃん?
風邪引いちゃったかな……。
大丈夫?
わからないです……。
でも、さっきから
すごく寒いです……
やっぱり濡れた服を着てると
体温が奪われるね。
脱いで干しておこう
お前なあ……。
まだそんな冗談言ってんのか。
若葉と千雪が脱げるわけねえだろ
冗談じゃないよ。
女性陣と男性陣で、
別々の部屋に居ればいいだろ?
ああ、まあ。
そうだけど……
じゃあ私と千雪ちゃんは、
受付ロビーの方に行ってるね。
服が乾いたらノックするから
わかった
若葉は千雪の手を引いて、
スクリーンを出て行った。
若葉たちが出て行くと、
俺と玲也は上に着ていた物とズボンを脱いで、
席の背もたれにかける。
あのさぁ。
前から玲也に聞きたいことが
あったんだけど……
なんだい?
僕の愛を確かめたいのかな?
まじめに聞けよ。
お前、若葉のこと嫌いなのか?
…………
どうしてそんな事を
聞くんだい?
姫乃が殺されたとき、
若葉を犯人だと決め付けてただろ?
それからさっきの態度にしても、
つまんねえ事で若葉に絡んでたし
はあ……。
美崎はわかってないなあ
何だよ
確かに僕は、
日良さんにあまり良い印象は
持っていないね
やっぱりな……
でもそれは、
僕だけじゃないと思うよ
どういう意味だよ。
お前以外に若葉を
嫌う奴なんていないだろ
キミを好きな人はみんな、
日良さんを良く思ってないよ
はあ?
島に居た頃から、
日良さんは常に美崎の隣にいた
みんなだって美崎の隣に居たいのに、
日良さんは女房気取りで
美崎の周りをうろついていたじゃないか
なっ……!
女房気取りって、なんだよそれ!
若葉はそんなんじゃねえよ!
否定するのは自由だけどね。
みんなからは
そう見えたって話だよ
……チッ
そして何よりみんなの
反感を買った理由は、
美崎が日良さんに
心を許していた事にあるね
そりゃあ……。
若葉は家族みたいなもんだから。
うちの親と若葉の親は仲が良くて、
よく一緒に旅行にいったし……
うちの親が死んでからも、
若葉の親は色々と気に掛けて
くれたからな……
本土に移る時も、
近くに住もうと提案したのは
日良さんのご両親なんだっけ?
ああ、そうだ。
俺には兄貴しかいなくて
不安だったから助かったよ
でも、まさか……。
兄貴まで死んじまう
なんて……
ううっ……。
ぐすっ……
美崎……。
僕がキミを癒してあげる事が
できるのなら……
俺はふわりと優しく、何かに包まれた。
それが玲也の両腕だと気づいた時には、
胸板に顔をうずめる格好となっていたのだ。
えっ……?
お、おい待てよ
耀くん!玲也くん!
ちょっと来て!
どっ……どうした?
丁度いいタイミングで
若葉に声を掛けられたと思い、
ぐいと玲也を引き離す。
玲也は一つため息をつき、
閉まったままの扉に向かって返答した。
…………。
……なんだい、日良さん?
大変なの!
亜百合ちゃんの手紙が
置いて有ったの!!
手紙!?
急いで服を着た俺と玲也は、
受付ロビーに駆けつける。
若葉!!
亜百合の手紙は!?
受付に新品みたいに
綺麗な封筒が置いてあって、
なんだろう? と思って
中を開けたら……
手紙には、女の子らしい文字で
こう書かれていた。
お兄ちゃんへ。。。
傷つけてごめんなさい。
私なんかいなくなれば
いいんです。
最後にみんなへ。。。
ごめんなさい、さようなら。
亜百合
これじゃあまるで、
遺書じゃないか……
おい……。
嘘だろ?
その瞬間だった──
──爆発音のようなものが聞こえたのは。
なんだ!?
トイレの方が
ピカッと光りました……
俺たちはトイレへと駆けつける。
男子トイレが……
燃えている……
どうして?
なんで?
この燃え方に、破片の散り方……。
誰かが爆弾を
仕掛けたとしか思えないよ!
(誰かって……亜百合が?
いや、そんなわけない。
きっと島に潜んでる殺人犯が……)
早く火を消さないと
火事になっちゃいます……
確か向こうに
消火器が有ったよね
うんっ、取りに行こう!
はい……!
みんなに続いてトイレから一歩踏み出した、
その時……。
トイレの前の床に、
人間の手首が落ちているのに気づいた。
(ひでえ……。
今の爆発で吹っ飛んだんだ。
爆風の中に人がいたなんて……)
吐き気を催しそうになるのをこらえて、
みんなの後に続いて消火器を
取りに行こうとした……が。
(ちょっと待てよ?
手首に付いてる袖って……。
亜百合の服に
そっくりじゃないか?)
三人が消火器を持って駆けつけて、
ホースから勢い良く白い煙を噴き出させる。
(そんな、まさか……。
亜百合が……?
嘘だろ……?)
何をしてるんだ美崎!
早く消火するんだ!!
!!
俺はその声で我に返り、
玲也が持って来た消火器を
慌てて手に取る。
そして、一通り火を消し終わった時に……。
俺たちは“それ”を目にする事となった。
ボヤ程度で済んで良かったね。
……ん?
お人形が転がってます……
千雪が真っ白くなった
“ソレ”に触れようとした。
触るな!!
俺は千雪を後ろから抱きしめ、
そして手が届かない位置まで
引きずるように歩く。
なんですか、
耀おにぃ……?
ひどい、これは……
にん……げん……?
そこに横たわる物の正体を確かめようと、
若葉が近づく。
俺たちが消火器を使ったせいで
顔や髪、身体は真っ白になっていたが、
爆風でちぢれた長い髪と、
所々が焦げた服装には見覚えがあった。
まさか、そんな……
最悪の事態が頭をよぎり、
千雪を抱き締めたままよろめく。
そんな俺を横目にして、
若葉は横たわる“ソレ”の顔から
消火器の粉を払った。
……ッ!?
若葉が床に尻もちを付く。
若葉の背中で隠れているから、
俺と千雪からは横たわる人物の顔が
見えなかった。
しかし、玲也は自ら近づき……。
こ、これは……。
顔がグチャグチャじゃ
ないか……
ぐちゃぐちゃ?
千雪が“ソレ”に近寄ろうとしたので、
潰れんばかりに強く抱き締める。
やめろーっっ!
見るな!!
……っ!?
あ、耀おにぃ……。
怖いです……
…………
それまで顔面を蒼白させて
わなわなと震えていた若葉が、
糸が切れた操り人形のように倒れてしまった。
若葉!
倒れた若葉に駆け寄り、
そして俺は見てしまった。
そこに横たわる“ソレ”が、
明らかに息をしておらず、
手足であったと思われるパーツや、
顔であったと思われる箇所が……
爆発でめちゃくちゃになっているのを。
うっ!
うぐっ……!!
胃が空っぽになってしまうくらいに、
大量の胃液をその場に吐き出した。
玲也はそんな俺に……。
いや、その場に横たわる“ソレ”に、
冷めた眼差しを送っている。
……ロビーに行ってるよ、美崎。
行こうか元宮さん
耀おにぃが苦しそうです。
若葉おねぇも
倒れちゃいました……
差し出された玲也の手を振りほどき、
千雪がこちらに向かって来ようとした。
その手を強引に玲也が引っ張る。
勘弁してよ。
キミにギャンギャンワンワンと
わめかれたら面倒なんだ。
黙ってこっちに来いよ
……っ!?
…………ごめんなさい
しゅんとした千雪は、
玲也に連れられてトイレを出て行った。
千雪に冷たくする玲也を、
怒鳴りつけてやりたかった。
俺のすぐ横で気を失っている若葉を、
介抱してやりたかった。
でも、俺の意識は……。
何よりも、目の前の“ソレ”が誰なのかを
確かめることに向いていた。
女性と思われる胸のふくらみに手を置き、
消火器で真っ白になった服を
何度も何度も払いのける。
なんなんだよ、これ……。
やめてくれよ……
もう、やめてくれよ……
俺は、横たわる人物の胴体に頭を乗せ、
涙を流した。
なぜならそこに表れたのは、
あいつとまったく同じ服だったから……。
亜百合……
そう……。
そこに横たわる死体は、亜百合だったのだ。
いちいち、ホモ発言に笑ってしまう
面白いです
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