暴走族さんについてですが、近くのおばあちゃんが昨日の深夜零時四十五分頃に走っていく音を聞いたと言っていました。旦那さんが漁師だったので今でも深夜に目が覚めることがあるのだそうです。すでに旦那さんは亡くなっているそうなのですが、素敵な夫婦愛ですね

必要な情報だけ抜き出してくれ。つまり暴走族は深夜一時前にここに来たということだな

はい。それから昨日夜更かししてゲームをしていた高校生も同じ時間にバイクの音を聞いています。昨日は他の時間にはバイクの音を聞いていないそうです

矢継

ほう、すごい情報収集能力だ。まだ聞き込み中とはいえ、うちの若手より優秀だ

人と仲良くなる能力だけは恐ろしいからね

 私が持ってきた話を聞いて、矢継さんと小岩くんは顎に手を当てながら感心しています。どうですか。これで私が優秀な助手だということが証明されたのではないでしょうか。

証言が正しいとするなら、やはり暴走族が嘘をついていて、殴った後に毒を飲ませたことになる

矢継

しかし、そりゃおかしいだろう。アコニチンは有名なトリカブトに含まれる毒で、入手自体は可能だろうが、頭空っぽの族が使うとは思えん。殺すだけならそのまま殴り殺せばいい

ということは当然、毒殺の方面で調査しているんだろう? 容疑者のアリバイと行動を聞こう

 小岩くんが目を光らせると、矢継さんはやれやれ、とおでこをかいておもしろくなさそうに息を吐きました。また二人だけで、私をおいてけぼりにしてしまったようです。

矢継

毒殺されるとすればやはり飲んでいたヤツらの可能性が高い。昨夜、一緒に飲んでいたのは三人だ。

矢継

一人目はガイシャの妻の麻奈美(まなみ)夫人。ただ、飲み始めてすぐに家庭のことで口論になりすぐに店を出ている。確かに八時過ぎに娘が帰宅したことを確認している

矢継

二人目は息子の拓也(たくや)。十時まで居酒屋にいて、その後家に戻っている。飲み過ぎを注意したところガイシャに逆上されて一発殴られたそうだ。その後は何とかなだめて最後まで付き合ったらしいが。妻が十時過ぎに帰ってきたと証言している

矢継

三人目はいとこの信之(のぶゆき)。同じく十時まで居酒屋にいて、その後会社に忘れ物をしたと言って戻っていった、と拓也が証言している。帰宅は11時頃だったそうでと家族が証言している。忘れ物についてもルアーだそうで趣味の釣りで使うものを見せるために持っていったらしい。これも裏がとれている

矢継

料理は大皿や小鉢様々あったし、回し飲みなんかもあったそうだから誰でも毒を入れるチャンスはあっただろうな

なんだかケンカばかりしていますね

矢継

ちょっと血気盛んなオヤジだったんだろう。大きなトラブルこそないものの小競り合いや口論は多かったみたいだな。それに全員毒を飲ませたと推定される深夜一時頃には家にいてアリバイがある

それじゃもしかすると私たちが知らない誰かが倉庫に来て毒を飲ませたかもしれないんですか?

矢継

その可能性は否定しない。他に現場に来た人間がいないかは捜査中だが、目撃者もいないもんでどうしたもんか

それで私たちが呼ばれたんですね

矢継

それでも族がいつ来たかわかっただけでも前に進んださ。来てもらってよかったよ

 矢継さんはそう言ってくれますが、ここまで来て何もできずに帰るなんて。そういえば、小岩くんはさっきから何も話していないような。

矢継

犯人が瞬間移動でもできるって言うんなら話は別なんだけどな

 あ、そういうのはちょっと、そう思って私が振り返るのと同時に、あの金色のコインがピンと高い音を立てて、宙を舞いました。

これは超能力でも魔法でもない。トリックだ

わかったんですか!?

少なくともトリックはわかったよ。犯人もだいたい見当はついているが、さらに警察が調べればすぐに特定できるだろう

矢継

本当か? まぁいい、とにかく聞かせてくれ

 矢継さんが興奮気味にふかしていたタバコをもみ消しました。いつもなら小岩くんの雄弁な推理を聞く前に自分で少しでも推理したいのですが、今はそんな状況じゃありません。私も口元に微笑みを浮かべた小岩くんが話し始めるのを静かに待つのでした。

五話:現場にいない犯人を追え(事件編)Ⅲ

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