案内されたのはたくさんある倉庫のうちの一つでした。
 コンテナがたくさん積まれた中に一か所だけ白い線が引かれている場所があります。乾いて赤黒くなった血の跡が広がっていて、ここが殺人現場だったことがわかります。

矢継

ガイシャは南亮介(みなみりょうすけ)。近くの建設会社の社長をしている。死亡推定時刻は昨日の深夜一時、プラスマイナス三十分ってところだ

血痕を見ると撲殺のようですね。深夜帯なら倉庫にくる人間は限られてくる。被疑者は絞られてくるでしょう

矢継

話が早くて助かるな。実際すでに殴ったやつは見つかっている。近くを走ってる暴走族だ。未成年なんで名前は伏せるが、こいつらはガイシャを殴ったことを認めている

それなら事件は解決しているじゃないか。僕がわざわざ来ることもない

 私をおいてけぼりにして、二人はどんどん話を進めていってしまいます。

矢継

まぁ、待ちなって。問題はここからだ。検視の結果、死因が出たんだが、こいつが中毒死、つまり毒殺だったんだ。
ガイシャは昨夜午後7時頃から近くの居酒屋で会社の仲間と飲んでいたそうだ。会社と言っても家族と親戚ばかりの親族経営だったそうだ

矢継

その後午後十時頃、港に資材を見に行く、と言って一人で別れた。他の社員もお開きとなってそれぞれ別れている。この倉庫は会社で借りているものでガイシャのポケットからシャッターの鍵が見つかっている

気になるな。撲殺じゃなかったと?

矢継

アコニチンが出た。ただ暴走族が殴った傷には生体反応があった

ふむ、奇妙だね

ちょ、ちょっと待ってください。私にもわかるように説明してください!

 生体反応? 毒で死んじゃったことと暴走族さんが殴ったこととの関係がよくわかりません。

矢継

助手はまだまだ探偵見習いってトコか。生体反応っていうのは生きてる人間にだけ起こるケガや病気に対する反応のことだ。殴られたら腫れたり熱を持ったりするだろ

それがあったということは殴られた時点では被害者は生きていたということだ。アコニチンは服毒後二、三十分程度で中毒死する即効性の毒だ。つまり暴走族に殴られた後アコニチンを飲まされたということになる

うーん、暴走族さんは何時頃に被害者さんを殴ったんでしょうか

矢継

それが夜だったのは間違いないが何時かまではわからないと言うんだ。倉庫に入っていったガイシャを追いかけて金をせびろうとしたところ口論になり殴ったが、反応がなくなったので怖くなって逃げた、と言っている。時間がわかればいいんだが、聞き込みしようにも目撃者がいない。死亡推定時刻が絞れるんだが

つまり、それがわかればいいんですね!

 推理はできませんが、聞き込みだったら私にもできます。小岩くんがびっくりするくらいの情報を集めて帰ってきてあげますから。

ただいま戻りました!

 近くのお家を何軒か回って戻ってきましたが、捜査は難航しているようで小岩くんは難しい顔で黙ったまま、いつものように右手で金色のコインをくるくると回しています。

何かわかったような顔をしているね。期待はしていなかったんだけど

もちろんです。私は助手ですから!

助手にした覚えはないんだけどね

 小岩くんはそう言って首を振りますが、私はめげません。こうして言い続けていればいつか小岩くんは認めてくれるような気がしますから。
 私は持っていたメモを開いて、聞いてきたことをしっかりと確認しました。

五話:現場にいない犯人を追え(事件編)Ⅱ

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