事件現場を聞いてすぐに家を飛び出した小岩くんを追って、私はその背中を追いかけました。
 私、村島和には気になることが二つあります。
 一つは、小岩くんがお父さんとあまり仲がよくないかもしれないこと。あれはあれでうまくいっているのかもしれませんが、どうせならもっと仲良くしてあげればいいのにと思ってしまいます。
 そしてもう一つは、これから向かう先で起こったという事件のこと。しかも殺人事件だというじゃないですか。警察にも解決できないような事件が本当に小岩くんと私で解決できるのでしょうか。
電車に乗って一時間近く、学校の近くとは雰囲気がすっかりと変わって潮の香りが海の方から風に乗ってきます。

あの、どこに行くんですか

まったく途中で諦めるだろうと思っていた僕が甘かったよ

当然です。小岩くんを一人で行かせるなんて危ないですから

僕を一体何だと思っているんだ

 だって小岩くんってほとんど人と話しませんから、お巡りさんと何かトラブルでも起こさないかと心配になってしまいます。
 もう見慣れてしまった小岩くんの諦め顔を横に見ながら、私たちがやってきたのは港の倉庫街でした。
 こういうところは、物語では決まって危ない人たちが銃や違法なお薬を取引しているものです。今回起こった事件ももしかするとそういう危ない人絡みなんじゃないかと疑ってしまいます。

そんなに不安そうな顔をするなら帰ったらいいんじゃないか

いえ、危険ならなおさら小岩くんを一人にしておけません

もう警察は来ている。君の隣よりよっぽど安全さ

 そう言われるとなんだか私も危険な人物みたいに聞こえるんですが、きっと気のせいです。
 港の倉庫街を地図もなく進んでいく小岩くんについていきます。一度聞いただけで、すっかり目的地が頭の中に入っているみたいです。すると、テレビドラマで見たことのある黄色いテープが見えてきました。

本当に事件が起きてるんですね

当たり前だろう、そう聞いてきたんだから

 小岩くんは立入禁止の文字も気にせず、ロープをくぐり抜けます。その瞬間すぐにお巡りさんに止められてしまいました。

ちょっと君、ここは立入禁止だよ

何故ですか

殺人事件があったんだよ。立入禁止って書いてあるでしょ

わざわざ出向いてあげたというのに

 あー。あー。やっぱり私の予想通り、不満そうな顔で小岩くんはお巡りさんを睨んでいます。

私たち、シャーロック、小岩米介さんに言われてきたんです。どなたが米介さんを知っている刑事さんはいませんか?

うーん、高校生を呼んでいないと思うよ。間違いじゃ

矢継

あー。っとすんません。そいつらは俺が呼んだんです

 くしゃくしゃのベージュのコートに身を包んだ刑事さんが頭を掻きながらこちらへ歩いてきます。紺色の制服を着ているとお巡りさんって感じですけど、こういうコートを着ていると刑事さんって感じがします。タバコをくわえてヘラヘラと笑っているところがなんとなくベイカーさんと同じ雰囲気をしています。

矢継(やつぎ)さんが?

矢継

えぇ。こう見えても名探偵でね。今回の事件について協力してもらおうと思いまして

でも、高校生に見せるなんて

矢継

だからガイシャを運び出してから呼んだんじゃないですか。血痕くらいならケンカして見たことくらいあるでしょう。そら、こっちだ

僕はそういう人間じゃないんだが

 小声で文句を言う小岩くんをなだめて、私は刑事さんの後をついていきます。なんだかワンコというあだ名が今はよく似合っているように感じてしまいます。

矢継

それにしても彼女を連れてくるとは思ってなかった。米介と違って息子は進んでるね

勝手についてきただけだ。邪魔なら追い返す

矢継

ふーん、まぁ名探偵に助手はつきものだしな

助手!

 刑事さんの一言に思わず声を上げてしまいました。まさにその通りです。シャーロックホームズもワトソンという素晴らしい助手とともに難事件を解決していました。私がその立場に立てるなんて。
 助手。なんていい響きなんでしょうか。

助手を名乗るなら少しくらい役に立ってくれるといいが

 いいでしょうとも。小岩くんが認めざるをえないくらいの大活躍をしてみせますから。

五話:現場にいない犯人を追え!(事件編)Ⅰ

facebook twitter
pagetop