明彦と結月がいつも待ち合わせている道に差し掛かった所で敬一が言う。
アキ君とユズちゃん、待ち合わせの様子だけでも面白いから見ていて本当に飽きないんだよね。何で毎回あんな初々しい反応出来るのさ
明彦と結月がいつも待ち合わせている道に差し掛かった所で敬一が言う。
面白いって御前なぁ……でもケイは彼女との待ち合わせとかも全然緊張しなさそうで羨ましい
そう? 新鮮さ無いから相手からするとつまらないと思うけど
最初の相手でも緊張とか無かったのかケイは?
特に表情を変える事無く言う敬一に明彦は問い掛けてみる。
うーん……そもそも俺の場合来る者拒まず去る者追わずって感じだからね。自分から告白して付き合った事とかも一切無いし、表情が読めるのもあって緊張とか全然だったよね。
それよりか両親と対面する方が緊張した位
両親の前で緊張するのか?
ま、うちはほら……アキ君の普通とは多分掛け離れた家庭だからさ。
成績良くないと合わせる顔が無いって思いながらずっとやって来てるから俺
悪い、嫌な事を思い出させたな……
敬一は何でも無い事のように言うが、敬一がその事に悩んでいた小学生の頃を知っている明彦は反射的に謝る。
その出来事が敬一にどんな想いをさせてきたのか……わかる気がするからだろう。
もう又そういう顔する。そりゃ小さい時はそれが苦しかった事もあるけど……慣れちゃうとどうって事無いんだよ。だから俺より君が悲しそうな顔しないの。
全く優し過ぎるのも困りものだよね……
自分の事のように落ち込んだ表情をする明彦を見ているとかえって面白くなってくる。
ま、そんなアキ君に俺は救われているんだろうけどね
口に出す事は絶対に無いが、それは常日頃から思っている事だ。
思わず微笑んで立ち止まった時、突然進行方向から声がした。
あの……神谷敬一君……だよね?
声の主を視線で追えば……長い髪を下ろした眼鏡の少女が立っていた。
君は……
珍しい事に敬一は固まる。
そんな敬一の様子も構わず、彼女は嬉しそうに笑う。
それから早口で捲し立てるように言った。
やっぱりその声、敬一君! すっごく見た目変わってて驚いたよ。でも又逢えるなんて……嬉しいな。
私……ずっと待ってたんだよ。いつか戻ってきた敬一君に逢えるかも知れないから星華市に住みたくて、星華女子高に高校も決めたの! 小学校の時に居たんだってこの市の話をする時、とても嬉しそうだったから!
でもこんな早く会えるなんて。やっぱり私達は赤い糸で結ばれてるんだね!
言いながら近寄ってくる彼女に思わず敬一は下がる。
その間に割って入るようにして明彦が言った。
ケイ、知り合いか?
…………
明彦の問い掛けに敬一は沈黙し、その後見た事のないような険しい表情で首を振った。
知らない。俺はこんな子知らないよ
……わかった
絞り出すように答えた敬一に明彦は応じ、彼女との間に身体を割り込ませた。
そういう訳だから……通してくれないか。彼の事を思うなら……当然そうしてくれるな?
明彦にしては珍しく低く険しい声で告げる。
敬一君? そんな……時間が経ったら好きになってくれるって……
今はその時じゃないという事だ。わかるだろ
詰め寄ろうとする彼女に更に明彦は続けた。
畳み掛けるように言う明彦に対し、流石に彼女も状況が悪い事を悟った様子で道を空ける。
敬一君、私……絶対に諦めないから。又名前を呼んで並んで歩いて……好きだって言ってくれるまで!
だって私と敬一君は運命で結ばれてるんだから!!
その台詞に静かに蒼褪める敬一の手を明彦が引いた。
ケイ、行こう
……うん
どこかぼんやりとしながら何とか返事をした敬一はよろめくように歩き出す。
その手が離れないよう、明彦がきつく握ったのを感じた。