踊れ、唯唯似つかわしく その12
今回はね、あたしでも死ぬかと思いました。
傷は大丈夫かよ……?
だからね、こういうことをする権利はあると思うんだな、あたし。
ぐおおおおおおおお!
万力のような力で挟み込まれ、頭をすり潰される……!
とばっちりな気もするが、完全にそうとも言い切れない!
ここは3日後の王都。大崩落する遺跡からなんとか脱出し、束の間の平穏を味わっているところ。
あの遺跡はと言えば、風水士の活躍により内部はひどく崩れており、もはや人が探索できる状況にはないだろう。
さて……報酬もきちんと頂いたしな。次回の利用も計画的にどうぞ。フフフ……
ひでえやつだよ。生きるので精一杯の人間からむしり取りやがって。
そこで言葉は途切れ、少しの間。――そして切り出すように続ける。
話を聞かなくていいのか……?
何の話だ?
わかってるくせに……
そう、ペッパーの件は片付いたが、レインの件は何も片付いていないのである。犯罪者だと言うなら自警団に突き出さねばなるまいが……
依頼人の事情に口は挟まんし、それで自分の行動を変えるのは性に合わないんでな。
ああ、手配書が出ているのか……まあ今回は、見なかったことにしてやる。
うん……
だが、と前置きし。
話をしたいのを止めるほどじゃない。……それなら、どう出る?
…………
そしてぽつりぽつりと語り始める――
あたしが父さんを殺したってのは……間違いじゃないんだ。
ペッパーにそそのかされた……そう言えるけど、手を下したのは……あたし。
……!
…………
いつしか他の面々も集まり、話を聞き入る。
当時、父さんはサートゥラクラッドのことをひた隠しにしてた。家の中に何か隠してるのはわかってたんだけど……
家族を危険に巻き込みたくなかったのかもしれませんね。
父さんがいないときを狙って、探してみたけど見つけられなくて。
何回目かの挑戦の時、ペッパーがくれたヒントのお陰で、見つけることができたんだ。
サートゥラクラッドのかけらをね。
!
どうしてそこまでして探し出そうとしたの?
父さんに認めてほしかったんだよ……
あたしだって遺跡探索できるって。危険な秘宝も怖くないって。
……子供っぽい話。
サートゥラクラッドの性質を何も知らなかったあたしは、父さんを驚かせてやろうと持っていったんだ。
借小屋にいた父さん。そこにはサートゥラクラッドのもうひとかけらがあったんだ。
……なるほど。読めてきたな。
あいつは、ペッパーは、父さんと話をしてとっくにサートゥラクラッドのことを知ってたんだと思う。
それであたしをそそのかして持って行かせた……今にして思えば、急かすようなことを言ってたと思う。
けど、最終的に持っていったのはあたしの意志……
父さんは……爆発に巻き込まれて死んだ……あたしのくだらない自慢の気持ち……そんなものに殺された…… ううっ……
……あなたは、よくご無事でしたね。
秘宝っていろんな種類があるんだ。一回だけなら、すごい衝撃から身を守る護符とかね。
当時、あたしは父さんからもらった護符をずっと身につけてた……それで生き延びたんだ。
粉々になった小屋の跡地で、あたし一人が呆然と佇んでた……
そしてすぐにペッパーが自警団を連れてきて、あたしを捕まえようとしたんだ。
オッホ、用意がいいこと……
……じゃあ嬢ちゃんはなんにも悪くねえじゃねえか! 俺が自警団の連中をぶん殴る!
一度出してしまった手配書だ。訂正させるのは少し骨だな……
なんにも悪くない、ってことは無いしね……あたしにも原因はある……
けど……捕まるわけにはいかない……捕まったら……
完全に白とは言えない。しかし、その過ちで親殺しの罪を贖えというのは酷な話だな。
なんとか自警団に掛け合えないのかよ、リチャード。
残念ながらわたし達の声では届かないでしょう。
器物破損、不遜行為……いろいろやらかしてます。自警団からはマークされてますからね。
そのまま行ったら、捕まるのわたしたちかもしれません。
哀れなるかな軽犯罪者集団……!
あたしは、さ。父さんの意志を継ぎたいんだ。
世に出るべきじゃない秘宝。サートゥラクラッドだって、まだいくつも眠ってると思う。そういうのを、しっかり封印していきたい。
いいんじゃないか?
積極的に力を貸すことは、ない。さりとてその意思表明に眉をひそめるでもなく。いいんじゃないかと、好意的に受け入れる。
そんな、穏やかな、束の間の安らぎにも似た空気が彼らを包んでいた。
その時――物々しく武装した連中が彼らを取り囲む!
リチャード……
現れたのはギルド懲罰委員会と、あの制服は……自警団!
これは委員長どの。何か用か?
その娘を渡してもらおうか。彼女には手配書が出ている。
何か事情があるのかもしれないけど、従ったほうがいいわリチャード。
…………
現実とは無情なもの。先程は応援するようなことを言ったが、目の前に法の番人が現れた以上、庇い立てする義理もない――
レインさん。こうなってしまっては、抵抗は悪手です。
ベルティーナさんは話のわかる方です。わたしたちも協力しますから、詳しい事情を話して……
……
軽く、肩をすくめる。
……それはどういう反応なのだろうか。どうにもならない境遇。これまでのレインなら、牙をむき強く反発したことだろう。
しかし今は。憑き物が取れたように、大きくため息をつくと。
あたしさ、少しズルをしていいかな?
! なんだ、抵抗するつもりか……!?
それには答えず。
リチャード、言ったよね。「秘宝の前までは用心棒をする」って。
それって、どの秘宝の前まで?
……?
あたしはこれからいろいろな秘宝を探す旅に出たい。そう言ったよね――
ここで投げ出すのは、依頼を自分で放棄してるのも同然、じゃない?
……!
いやそれヘリクツ……
あたしは別にそれでもいいけどさ。
あれだけ依頼に固執してたあんたが、許せるの? 自分を。
煽りおる……!
ぐぐぐ……うごごご……!
あたしはこの国の、すべての秘宝を見つける。その眼前に必ず、たどり着く。……そのための用心棒が必要だ。
あんたにそれを任せたいと思ってるんだけど、どうかな?
ええい、無駄話はもうよい! 来い!
乱暴に腕を掴む自警団。――を、
腕を、振り払う!
なっ……!?
難儀な依頼を引き受けたものだ……!
やめてリチャード! 今暴れられたら、かばいきれない……!
俺は依頼を裏切らない。
いいだろうその依頼、続行させてもらおう……!
オヤマーーッ あたし今、幻を見てるのかしらーーー!?
いやいや、その選択はまずいでことくらいわかるでしょ……!
損得勘定で動く人ではありませんでしたね……そう言えば。
しかしリチャード、ここを切り抜けられますか!? 彼らを傷つけるわけにもいかない――
危険な匂いを察知した自警団が、距離を詰めてくる――
突然の破壊音! リチャードが構わず暴れだしたか!? ……いや!
やーやー、みなさん今日は絶好の暴れ日よりですなあ……!
現れた風水士が、町を、破壊している……!
!? あああ!??! この不良依頼請負人ーーーーー!
くそっ! こいつも放っておけない! 取り囲め……!
僕も手助けする!
更に現れる依頼請負人。ややっ しかし彼も相当な破壊魔ではなかったか……!?
お? かかってくるかエイカース?
どっちが強いか手合わせと行こうぜ……!
ど、どうなってやがんだあ?
今のうちに逃げて! 僕らが時間をかせぐから!
くくく……
恩に着るぞふたりとも! よし、俺たちも行くぞ!
走り出すブラックガード事務所と、レイン。
ここまで騒がしい出発は予想してなかったけど……
不思議ねえ、実はあたしもなのよ……!
くそう、待て、待てーーーー!
ホッ、ホッ、またまた追いかけっこかあ? なんだか楽しくなってきたなーー!
チクショウその得な性格が羨ましい。
どこまでもわたしたちらしい門出と言ったところでしょうか? ドタバタして、大暴れして――
いや……!? そんなはず!? あのですね、わたしはもっとスマートなんですよ……! これは一体何なんですか!?
さしものアルマドもキャパを超える……!
引き受けたからには任務を果たす。……必ずな。
その代わり、あんたの覚悟を見せてもらうぞ、レイン。
望むところだよ。秘宝をすべて見つけるまで、わたしは、
諦めたり―――――――しない!
王都にあまねく依頼請負人の姿あり――!
せい、ハッ……!
うむ。なかなか筋がいいなお前は。
本当ですか……!
そろそろ休憩にしませんか。ユーキも。
ジェニー!
彼らは時に暴れ、時に暗躍し、表と裏とを問わず民とともにあり続けた。
ふう、ふう、あとはこれを運んで……
あまり無理をしてはいけませんよ、ワカバさま。
ええ、せっかく救っていただいた命ですもの。粗末にする気はありませんよ。
ですが、ようやく村をここまで復興できたのです。もう少しだけ。
今度はきちんと皆さんの声に、耳を傾けなくてはいけませんね。わたしを支えてくださいね――
目的も信念も人それぞれ。それでも彼らは、己の道を貫きその生き様を謳歌し続ける。
・ ・ ・
どうしましたかな陛下。ぼんやりして。
アッ さてはお勉強に飽きて来ましたねーーー? いけませんよムフォーフォー。
今日の教材は、このセオドア自ら手がけた特別品にございます。それに飽きるとはつまり……!
――いえ。
この間のことを、思い出していたんです。
どこか危なっかしくて、けれど生き生きとした彼らのことを。
今もお元気で、やっているでしょうか――
これは、そんな依頼請負人たちの物語―――!
王都で踊る黒きマインダー 完
>硫酸さん
ありがとうございます!彼らの冒険はまだまだ終わらない・・・けれど彼らは自分の意志で、自分の足で、これからの物語を紡いでいく!本当に、本当にご愛読と応援ありがとうございました・・・!感謝で胸がいっぱいです!
(๑✪∀✪ノノ゙✧パチパチパチパチ
間に合った!胸いっぱいの大団円!
終わってしまうのは残念ではありますが、途中参加ででも最後まで応援できてほんとーに素敵な経験ができました!
ストリエは終わっても、ここで繋がった縁はまだまだ続いていきます・・・よね!
>ロールさん
ロールさんがいなかったらこの作品はこういう形にならなかったと思ってます。誇張ではなく、本当に。彼らを好きになって貰えて、毎話毎話追いかけてもらえて。本当に、本当に、ありがとう・・・!制作はこれからも続けて行きますので、引き続きよろしくお願いします・・・!
フォッグ登場時にテンションあがったー!
それに完結まで向かい、成し遂げたことは素晴らしい財産だと思います。
楽しい作品をありがとうございました♪
>ナンチャイさん
ずっと欠かすこと無く更新を続けられ、そしてストリエを盛り上げてくれたナンチャイさんにそう言ってもらえるとほんと感無量です・・・ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました!