踊れ、唯唯似つかわしく その12

ククリ

今回はね、あたしでも死ぬかと思いました。

スネイク

傷は大丈夫かよ……?

ククリ

だからね、こういうことをする権利はあると思うんだな、あたし。

スネイク

ぐおおおおおおおお!

万力のような力で挟み込まれ、頭をすり潰される……!

とばっちりな気もするが、完全にそうとも言い切れない!

ここは3日後の王都。大崩落する遺跡からなんとか脱出し、束の間の平穏を味わっているところ。

あの遺跡はと言えば、風水士の活躍により内部はひどく崩れており、もはや人が探索できる状況にはないだろう。

リチャード

さて……報酬もきちんと頂いたしな。次回の利用も計画的にどうぞ。フフフ……

レイン

ひでえやつだよ。生きるので精一杯の人間からむしり取りやがって。

そこで言葉は途切れ、少しの間。――そして切り出すように続ける。

レイン

話を聞かなくていいのか……?

リチャード

何の話だ?

レイン

わかってるくせに……

そう、ペッパーの件は片付いたが、レインの件は何も片付いていないのである。犯罪者だと言うなら自警団に突き出さねばなるまいが……

リチャード

依頼人の事情に口は挟まんし、それで自分の行動を変えるのは性に合わないんでな。

リチャード

ああ、手配書が出ているのか……まあ今回は、見なかったことにしてやる。

レイン

うん……

だが、と前置きし。

リチャード

話をしたいのを止めるほどじゃない。……それなら、どう出る?

レイン

…………

そしてぽつりぽつりと語り始める――

レイン

あたしが父さんを殺したってのは……間違いじゃないんだ。

レイン

ペッパーにそそのかされた……そう言えるけど、手を下したのは……あたし。

ククリ

……!

アルマド

…………

いつしか他の面々も集まり、話を聞き入る。

レイン

当時、父さんはサートゥラクラッドのことをひた隠しにしてた。家の中に何か隠してるのはわかってたんだけど……

アルマド

家族を危険に巻き込みたくなかったのかもしれませんね。

レイン

父さんがいないときを狙って、探してみたけど見つけられなくて。

レイン

何回目かの挑戦の時、ペッパーがくれたヒントのお陰で、見つけることができたんだ。

レイン

サートゥラクラッドのかけらをね。

アルマド

ククリ

どうしてそこまでして探し出そうとしたの?

レイン

父さんに認めてほしかったんだよ……

レイン

あたしだって遺跡探索できるって。危険な秘宝も怖くないって。

レイン

……子供っぽい話。

レイン

サートゥラクラッドの性質を何も知らなかったあたしは、父さんを驚かせてやろうと持っていったんだ。

レイン

借小屋にいた父さん。そこにはサートゥラクラッドのもうひとかけらがあったんだ。

リチャード

……なるほど。読めてきたな。

レイン

あいつは、ペッパーは、父さんと話をしてとっくにサートゥラクラッドのことを知ってたんだと思う。

レイン

それであたしをそそのかして持って行かせた……今にして思えば、急かすようなことを言ってたと思う。

レイン

けど、最終的に持っていったのはあたしの意志……

レイン

父さんは……爆発に巻き込まれて死んだ……あたしのくだらない自慢の気持ち……そんなものに殺された…… ううっ……

アルマド

……あなたは、よくご無事でしたね。

レイン

秘宝っていろんな種類があるんだ。一回だけなら、すごい衝撃から身を守る護符とかね。

レイン

当時、あたしは父さんからもらった護符をずっと身につけてた……それで生き延びたんだ。

レイン

粉々になった小屋の跡地で、あたし一人が呆然と佇んでた……

レイン

そしてすぐにペッパーが自警団を連れてきて、あたしを捕まえようとしたんだ。

ククリ

オッホ、用意がいいこと……

スネイク

……じゃあ嬢ちゃんはなんにも悪くねえじゃねえか! 俺が自警団の連中をぶん殴る!

リチャード

一度出してしまった手配書だ。訂正させるのは少し骨だな……

レイン

なんにも悪くない、ってことは無いしね……あたしにも原因はある……

レイン

けど……捕まるわけにはいかない……捕まったら……

リチャード

完全に白とは言えない。しかし、その過ちで親殺しの罪を贖えというのは酷な話だな。

スネイク

なんとか自警団に掛け合えないのかよ、リチャード。

アルマド

残念ながらわたし達の声では届かないでしょう。

アルマド

器物破損、不遜行為……いろいろやらかしてます。自警団からはマークされてますからね。

アルマド

そのまま行ったら、捕まるのわたしたちかもしれません。

哀れなるかな軽犯罪者集団……!

レイン

あたしは、さ。父さんの意志を継ぎたいんだ。

レイン

世に出るべきじゃない秘宝。サートゥラクラッドだって、まだいくつも眠ってると思う。そういうのを、しっかり封印していきたい。

リチャード

いいんじゃないか?

積極的に力を貸すことは、ない。さりとてその意思表明に眉をひそめるでもなく。いいんじゃないかと、好意的に受け入れる。

そんな、穏やかな、束の間の安らぎにも似た空気が彼らを包んでいた。

その時――物々しく武装した連中が彼らを取り囲む!

ベルティーナ

リチャード……

現れたのはギルド懲罰委員会と、あの制服は……自警団!

リチャード

これは委員長どの。何か用か?

その娘を渡してもらおうか。彼女には手配書が出ている。

ベルティーナ

何か事情があるのかもしれないけど、従ったほうがいいわリチャード。

リチャード

…………

現実とは無情なもの。先程は応援するようなことを言ったが、目の前に法の番人が現れた以上、庇い立てする義理もない――

アルマド

レインさん。こうなってしまっては、抵抗は悪手です。

アルマド

ベルティーナさんは話のわかる方です。わたしたちも協力しますから、詳しい事情を話して……

レイン

……

軽く、肩をすくめる。

……それはどういう反応なのだろうか。どうにもならない境遇。これまでのレインなら、牙をむき強く反発したことだろう。

しかし今は。憑き物が取れたように、大きくため息をつくと。

レイン

あたしさ、少しズルをしていいかな?

! なんだ、抵抗するつもりか……!?

それには答えず。

レイン

リチャード、言ったよね。「秘宝の前までは用心棒をする」って。

レイン

それって、どの秘宝の前まで?

リチャード

……?

レイン

あたしはこれからいろいろな秘宝を探す旅に出たい。そう言ったよね――

レイン

ここで投げ出すのは、依頼を自分で放棄してるのも同然、じゃない?

リチャード

……!

ククリ

いやそれヘリクツ……

レイン

あたしは別にそれでもいいけどさ。

レイン

あれだけ依頼に固執してたあんたが、許せるの? 自分を。

煽りおる……!

リチャード

ぐぐぐ……うごごご……!

レイン

あたしはこの国の、すべての秘宝を見つける。その眼前に必ず、たどり着く。……そのための用心棒が必要だ。

レイン

あんたにそれを任せたいと思ってるんだけど、どうかな?

ええい、無駄話はもうよい! 来い!

乱暴に腕を掴む自警団。――を、

腕を、振り払う!

なっ……!?

リチャード

難儀な依頼を引き受けたものだ……!

ベルティーナ

やめてリチャード! 今暴れられたら、かばいきれない……!

リチャード

俺は依頼を裏切らない。

リチャード

いいだろうその依頼、続行させてもらおう……!

ククリ

オヤマーーッ あたし今、幻を見てるのかしらーーー!?

ククリ

いやいや、その選択はまずいでことくらいわかるでしょ……!

アルマド

損得勘定で動く人ではありませんでしたね……そう言えば。

アルマド

しかしリチャード、ここを切り抜けられますか!? 彼らを傷つけるわけにもいかない――

危険な匂いを察知した自警団が、距離を詰めてくる――

突然の破壊音! リチャードが構わず暴れだしたか!? ……いや!

フォッグ

やーやー、みなさん今日は絶好の暴れ日よりですなあ……!

現れた風水士が、町を、破壊している……!

ベルティーナ

!? あああ!??! この不良依頼請負人ーーーーー!

くそっ! こいつも放っておけない! 取り囲め……!

エイカース

僕も手助けする!

更に現れる依頼請負人。ややっ しかし彼も相当な破壊魔ではなかったか……!?

フォッグ

お? かかってくるかエイカース?

フォッグ

どっちが強いか手合わせと行こうぜ……!

スネイク

ど、どうなってやがんだあ?

エイカース

今のうちに逃げて! 僕らが時間をかせぐから!

リチャード

くくく……

リチャード

恩に着るぞふたりとも! よし、俺たちも行くぞ!

走り出すブラックガード事務所と、レイン。

レイン

ここまで騒がしい出発は予想してなかったけど……

ククリ

不思議ねえ、実はあたしもなのよ……!

くそう、待て、待てーーーー!

スネイク

ホッ、ホッ、またまた追いかけっこかあ? なんだか楽しくなってきたなーー!

ククリ

チクショウその得な性格が羨ましい。

アルマド

どこまでもわたしたちらしい門出と言ったところでしょうか? ドタバタして、大暴れして――

アルマド

いや……!? そんなはず!? あのですね、わたしはもっとスマートなんですよ……! これは一体何なんですか!?

さしものアルマドもキャパを超える……!

リチャード

引き受けたからには任務を果たす。……必ずな。

リチャード

その代わり、あんたの覚悟を見せてもらうぞ、レイン。

レイン

望むところだよ。秘宝をすべて見つけるまで、わたしは、

レイン

諦めたり―――――――しない!

王都にあまねく依頼請負人の姿あり――!

せい、ハッ……!

うむ。なかなか筋がいいなお前は。

本当ですか……!

そろそろ休憩にしませんか。ユーキも。

ジェニー!

彼らは時に暴れ、時に暗躍し、表と裏とを問わず民とともにあり続けた。

ふう、ふう、あとはこれを運んで……

あまり無理をしてはいけませんよ、ワカバさま。

ええ、せっかく救っていただいた命ですもの。粗末にする気はありませんよ。

ですが、ようやく村をここまで復興できたのです。もう少しだけ。

今度はきちんと皆さんの声に、耳を傾けなくてはいけませんね。わたしを支えてくださいね――

目的も信念も人それぞれ。それでも彼らは、己の道を貫きその生き様を謳歌し続ける。

・ ・ ・

どうしましたかな陛下。ぼんやりして。

アッ さてはお勉強に飽きて来ましたねーーー? いけませんよムフォーフォー。

今日の教材は、このセオドア自ら手がけた特別品にございます。それに飽きるとはつまり……!

――いえ。

この間のことを、思い出していたんです。

どこか危なっかしくて、けれど生き生きとした彼らのことを。

今もお元気で、やっているでしょうか――

これは、そんな依頼請負人たちの物語―――!

王都で踊る黒きマインダー 完

43 踊れ、唯唯似つかわしく その12

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