踊れ、唯唯似つかわしく その11

フォッグ

俺が調べたことをざっくり説明するぜ。

スネイク

オラオラァ! 当たらなければどうってこと無いぜ……!

幽霊戦士と戦いから少し離れた場所。短時間で作戦会議をする術士組。

フォッグ

確かにこの国には、魔術とも風水術とも言えねー術理が存在してたみたいだ。

フォッグ

どうも、別世界からのエネルギーを利用する術らしい。

アルマド

堕法に近い……

アルマド

短期間でよく調べられましたね。

フォッグ

ほとんど俺の想像だけどな……けど、現物を見る限りあながち間違いじゃねえ。

フォッグ

原理まではわからねーから、具体的な対策はないけど……

フォッグ

別世界ってことは、どこかに穴があって……繋がってるってこった。

アルマド

それを潰せば!

フォッグ

さながら陸に打ち上げられた魚ってわけだ。行くぜ!

ククリ

術士組が抜けちゃって、サポートの仕事全部あたしに回ってくるんですけどぉ、

ククリ

大変なんですけどぉ、大変なんですけどおお!

ぼやきながらも一糸乱れぬ、精密な射出動作!

スネイク

ひええ、

スネイク

……なんちゃって、そう何度も食らうか、よ!

急制動したストップダッシュ。反応できぬ相手の裏の回り込み、

死角からの攻撃! 傷を負わせることに成功した! ……が、微塵も動揺は感じられない。浅いか……!?

リチャード

スネイク!?

死角から回り込むとき、逆に自分にも死角ができる――不自然な姿勢から振るわれた右手の剣に、反応が遅れた……!

思わず両手を交差させ急所を守るも、それでは防ぎきれない――

スネイク

…………っ…………?

しかし待てども、痛みは来ない。

ククリ

は……? え……?

ああ、ああ、信じられない。距離は5歩ほどもあるのに……! 幽霊戦士の振るった剣は中程から霞のように消え――

――なぜか離れた場所のククリの胸に突き刺さっていた。

ククリ

か、ガッ………ゴ…・・フッ……!

ククリ

……効いた……わ……ッ!

素早く引き抜き、更に距離を取る。

リチャード

ククリ!?

ククリ

だだ、大丈夫……そんなに深くない……ゴホッ

口から血を吐く。内蔵を傷つけている……!

リチャード

右手の剣に気をつけろ! あれは空間を飛び越えてくるぞ!

スネイク

そんなの、どうやって避けるんだよ……!

リチャード

振るうときのモーションを見切るしか無い!

リチャード

いいか、離れていても油断するな!

レイン

大丈夫なのかよ……!?

ククリ

ハッ……ハッ……心配されるほど……!

ククリ

ちょっと体、支えててくれる?

レイン

わ、わかった!

アルマド

……! 今のは……!

フォッグ

なんでえあれはよ……反則攻撃じゃね―か。

アルマド

いえ、攻撃そのものではなく。気づきませんでしたか?

フォッグ

何がだ?

アルマド

今のゆらぎに……

アルマド

もしかして……!

アルマド

……フォッグさん、あなたこの場の、念の総量って干渉できますか?

フォッグ

念には量っていう概念が無いんだけど……要するに、「やる気に」させればいいってことだな。

フォッグ

何か思いついた顔だな。いいぜ、やってやる。

二人が構えた瞬間――

リチャード

みんな気をつけろ! また剣が振るわれたぞ!

フォッグ

アルマド、危ねえ!

アルマドを襲う亜空間からの斬撃。近くにいたフォッグが、とっさの判断で蹴り飛ばす。

アルマド

いたた……感謝の度合いが減ってしまう救出方法。

そのときにはすでに集中体勢に入っているフォッグ。

フォッグ

大地の念は生命の揺籃。今ここに、猛れ。震撼せしめし命の震えを、どうか――

アルマド

念の脈動。そして魔術師たるアルマドの目には、空気中のあまねく存在している精霊の数が、倍増したように見えた。

びっしりと、隙間なく。術理に馴染みのない人間は普段精霊を見ることができぬが、仮に突然見えるようになってしまったら。閉塞感で気が狂ってしまうことは必須。そんな、量。

ある一箇所を除いて。すなわちそれが――

アルマド

そこです!!

アルマドは狙ったのは化け物そのものではなく、天井付近の、何もない空間。

フォッグ

フォッグ

おい、もしかしてそこが……!

アルマド

ええ、そこだけ精霊の数が異様に少ない。「穴」があります!

アルマド

そこが別世界からの供給路!!

フォッグ

それなら――

フォッグ

遠慮はいらねーなァァァァ!

荒れ狂う紫雷……!

リチャード

!!

術士でない彼らには、何が起きているかわからぬ。だがしかし、ショックを受けたようにビクリと体を震わす敵に気づかぬほど……迂闊でもない――!

リチャード

今だ! 機を逃すな……!

リチャード

これで終わりだ! おおおおおおおお!

すべてを乗せた、上段斬り。上の騎士を、下の軍馬を、全て貫いて……叩き切った――!

幽霊戦士は、色を失い灰色の粉のようになって――風にさらわれていった――

スネイク

か……か――――

スネイク

勝ったーーーーーーーー! イヤッホォォォォォォーーーーーー!

ガッツポーズ! ぴょんぴょんと飛び跳ねる。そして近くの人に抱きつく!

リチャード

抱きつかれた相手は、渋面!

アルマド

やりましたね……

フォッグ

へへ、へ……集中しすぎて鼻血出そうだぜ……

アルマド

傷は痛みますかククリ。

ククリ

まあなんとか……ちょっと血が足りなくてフラフラするけど……ね。

スネイク

大丈夫かよおい、大丈夫かよおい、俺の血、飲むか……?

優しさ……! …………か?

レイン

ペッパー……馬鹿なやつだよ……ほんとに……

力に溺れた者の末路。自業自得とはいえ、あまりにも悲惨、物哀しさを感じる……

リチャード

お前の親父さんはサートゥラクラッドを封印しようとしていた。ペッパーはそう言っていたな……

リチャード

こうなることがわかっていたのかもしれんな……

レイン

父さん……

リチャード

で、レイン。あんたはそれでもその宝石しか、自分にはないと言うつもりか?

レイン

フン……お説教は聞き飽きたよ。

穴の縁に近寄り、少しだけ瞑目する。そして。

サートゥラクラッドを……放り投げた!

赤い輝きは大地の深き闇に飲み込まれ――すぐに見えなくなった。

リチャード

……いいんだな?

レイン

今度から、力が必要なときは、「人」に頼ることにするよ。

まさに。それこそが、依頼請負人の意義でもある。

ククリ

あーあ。ちょっともったいない気もするけど。売り飛ばせば、さぞ大金になったでしょうね。

スネイク

よーし、俺もパーッと捨てるぜ……!

ぐるぐると腕を回し、力の限り放り投げる――

リチャード
ククリ

勢いが……勢いがつきすぎだ! かけらは大穴を通り越して、向こう側の地面をゴロゴロと転がる。

そして……あちら側のかけらと揃ってしまった。

ククリ

おバカーーーーーーーーーー!!

スネイク

どど、どどどどどうしよう。爆発しちまうんじゃなかったけ!

レイン

…………

レイン

まあ、人が触らなきゃ大丈夫だよ。それがなきゃ、ただ転がってるだけだから。

アルマド

最後の最後にビックリさせるのやめてもらえます?

フォッグ

これなら、普通はこの大穴越えられないし、俺みたいな風水士が来ても、

フォッグ

爆発で死ぬだけってことか。悪用はされなさそうだな。

ふと、顎に手をやる。

フォッグ

……複数人で計画的にやってきたらどうするかな。

フォッグ

……後顧の憂いは、断っとかないとな。

リチャード

何を考えているフォッグ……!

嫌な予感しかしない……!

フォッグ

逃げ出す準備だけはしておけよ、リチャード、みんな。

フォッグ

俺が、ここを歴史の彼方に葬り去ってやるぜ!!

膨れ上がるエネルギー……!

リチャード

走れみんなーーー!

ククリ

あんたの知り合いロクなのいないわねーー!?

最後まで騒がしい依頼請負人どもである……!

続く

42 踊れ、唯唯似つかわしく その11

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