踊れ、唯唯似つかわしく その10
面白い方々ですね。この期に及んで依頼ですか。
成し遂げられないことわかってるでしょう? 意味あるんですか?
うふふ、傷のなめ合いのようですよ……!
腹たつ男ね!
だが実際、状況は厳しい……
あっぶな……! この!
前衛に出て戦わねばならないククリ。なぜなら、こちら側には3人しかいなからだ。
はっ!
・ ・ ・
リチャード、危ない!
本来であればアルマドの大規模魔術で一網打尽にする手はず。しかし、リチャードたちのサポートで手一杯である。集中する時間も余裕もない!
おらあァ!
ひえええ!
そして向こう側では、スネイク一人が魔物に立ち向かっている。一番負担が大きく、危険な状況だ……!
はーーー、はーーーッ
やばくねえかこれ、ヤバ……
~~~~ッ~~~~~~ッ!
うーむ、これは時間の問題でしょうねえ。
粘った分だけ苦しみも大きくなると言うもの。おお! わたくし、今から悲しみで震えてしまいます!
せめて、向こうと合流できればな!
例の移動床はあちらですし、あの大ジャンプはスネイクほどの機動力がなければ……
八方塞がり? 冗談じゃない……!
その時!
広間に飛び込んで来たのは――
アルマド! 例の魔道具についてわかったことがある! あんたの説明どおりなら、それは――
いつぞやの風水士。
むむっ どなたです……!?
まさか偶然迷い込んだとも思えませんが……生かしておくわけには行きませんね。
みなさま! こちらの相手も頼みますよ!
続々と現れる荒くれ者共! いったい何人の協力者がいるのか!?
ひええっ なんでゴタゴタしてんだあんたら。
ン、と首をかしげ。
いつものことか。
それどーいう――
フォッグ! いいところに! 力を貸してくれ!
言葉の応酬をしようとしたククリの、更に倍の声量でリチャードが叫ぶ。
!
そいつは「依頼」だな? へへッ後できっちり払ってもらうぜ……!
逡巡は一瞬――!
にゃべばっ!?
気を取られてはいけない! 敵は待ってはくれないのだ……!
むうううっ なかなかの身体能力ですね……!
手荒な歓迎だぜ……で、俺は何をすればいいんだ?
実はピンチでしてね……戦力を分断されてしまったのです。
フォッグ、あなたはあの大穴を渡れますか?
それに首肯する人などいるのだろうか? ゆうに大ホールほどの面積を持つ大穴。先程、己の口で無理だと言ったばかりではないか。――それに、
! 時間を稼いでくれ!
男たちの間をすり抜け、リチャードのもとに駆け寄る。
タイミングが良すぎるんじゃないか、フォッグ?
へへへ、素直に嬉しいって言えよ。
いや違くて。あんたらのいさこざはこの際どーでもいいんだよ。
アルマドに頼まれて調べてたんだ。それが結構ヤバそうでさ……
向こう側のバケモン……わかるぜ、明らかに異質なやつだ。早くなんとかしねーとやばいぜ……
こいつらの相手は任せろ! お前は自分の仕事に専念しろ!
答えはない。言われるまでもない。すでに完全な集中体勢である。
時間稼いでくれはいいとしても、お陰で敵さんが増えちゃったんですけど!?
わたしがサポートします! 今の時間で、遅延魔術をいくつか仕込めました!
己の持てうる技術を全て使い、彼の集中をサポートする!
行けるぜ!
大地の質は変化し続ける礫層の蠢き。今一度その境地に至れ――
解!
な、何事……
大地が蠢き、穴を、穴の上を道が伸びていく……!
へへへ、即席の橋だぜ!
さっさと渡りな、あんたら……!
おおおおし行くぞーーー!
穴の上の、橋に飛び乗る二人。
やるなフォッグ! この短期間で丈夫な橋を作り上げるとは。
え? 丈夫かは知らない。
え?
橋はミシミシと音を立て、乗ったその場所から……崩れ落ちだす!
じょ……冗談じゃねえええええ!
崩れるなら走るしか無い! 加えてレインは満足に動けぬのだ。手を取り、無理やり引っ張るように走り出す。
ホッ ホッ……ホッ!
ハァ、ハァ……うぐ……ぐ……
走れ走れ走れ、残り5歩、3歩、1歩……
あっ
やべっ……およッ!
ひときわ大きな振動で、つないだ手が解けてしまう。スネイクは縁に到着。しかし、レインは。
あと一歩のところで届かない! 奇妙な一瞬の浮遊感の後、そのまま――
吹き荒れる風の渦に巻き込まれて、浮き上がる。
ここまで来てくれれば、わたしの魔術でもなんとか。手荒ですみませんね。
いてえ……ちくしょう……乱暴すぎだろ……
穴の縁に転がるレイン。無傷とはいかない! けれどなんとか帰ってこれた!
きぃぃぃぃ何ということ……!
けれどまあ、一人増えたところで。
知らないのか? 俺たちは、「4人」の依頼請負人なんだぞ?
準備万端。
すでにククリは、スネイクが来たことで後方に下がっている。矢筒から矢を取り出し、その頃には。
敵の間を縫う稲妻スネイク。速い、速い。
攻撃を当てようとするも、すでにそこに姿はなく。敵はいたずらにスキを作るのみ。
おおおおおおおお!
そのスキを見逃す男ではない!
ぐおお……お……
一人……!
当然危険なリチャードが放って置かれるはずもなく。数を利に群がろうとする相手の、振り上げた武器を、
吹き飛ばす矢!
みなさん離れて!
トリオン・セイレーン!
広間を覆う無慈悲なイカヅチ。敵は己の制御を失い、バタバタと倒れていく。
そんな! みなさん……!
残るは、ペッパー一人のみ。
あたしたちに喧嘩を売ったこと、牢屋で後悔しなさい!
そんなァッーーーー!
タコ殴りにしたペッパーを、身動きできぬよう縛り上げる。意識があるのかないのか、ううう、と呻くペッパー。
よっしゃー、一件落着、
じゃねえ……!
忘れてはいまいか! もっとも厄介な存在が残ったままだ。
アルマド、さっきのあれやってよ! 凍らせるやつ!
先程からいろんな魔術を試しているのですが……どれも効きが悪い……
術に耐性があるのかもしれません!
厄介だな……!
苦戦を強いられつつも、戦うしか無い彼ら。その後方で。
くくく……わたくし、まだ終わっていませんよ。
縛られた手首をなんとか動かしてポケットを弄るペッパー。取り出した赤い宝石は――
サートゥラクラッド……!? なんで持ってんだ!?
なんでっておかしな話。あなたと一緒でしょう。父が残したものをもらってきたんです。
見せてあげましょう、レイン! これの真の使い方を!
掲げられた宝石から怪しき輝きが広がり……!
どういうわけか幽霊戦士は動きを止めた。
! チャンス……!
ぐおおおおーーー!
前の倍にも匹敵する苛烈さで暴れだした幽霊戦士。だめだ。全く近寄らせてくれない!
その幽霊戦士がひと駆けでペッパーのもとにたどり着く。何を――
縄を切り裂き自由の身にしたのである……!
ご苦労。
さあ、行きなさい。冥の生き物よ。彼らを皆殺しにしなさい。
再び暴れまわる幽霊戦士。その苛烈さたるや、今までの比ではない……! みな、自分の身を守るので精一杯だ!
どういうこと? なんであいつの言いなりになっての!?
言ったでしょうサートゥラクラッドは召喚機だと。これが本来の使い方なのです!
なんてこった。こんなの使役されたら勝ち目がねえぜ……
サートゥラクラッド……すでに持っているじゃないですか。なぜ今回さらに欲しがろうとしたのですか。
一つ二つでは足らないのですよ。わたくしの計画ではね……
さあ、命令です! 殲滅を開始しなさい!
ばか! あいつらの行動原理が何かわからないんだぞ! うかつに――
呼び声に呼応するが如く――幽霊戦士が手を掲げると、おお、何もない上空から、禍々しい剣がゆっくりと降りてくるではないか――
剣は掲げられた右手に収まった。試し振りをするように薙ぎ払う。二刀流――
それと同時に天から墜ちて来たもの……黒い雨。それがペッパーの体を包む。
え―――――
…………
雨はすぐに収まったが……ペッパーは黒く染まったまま……
そのままグズグズと崩れ落ちた……
…………
ああ……ああ……うわあああああああ!
なんだよなんだよ何が起きたんだ……!?
フォッグ、これは……
言わんこっちゃない、闇の存在になんかに頼み事するからだ……
あいつは多分、「代償」を払わされたんだ。
まさかと思うが、ペッパー氏の命を奪ってパワーアップしたってことじゃないだろうな?
俺に聞くなよ。知らねーよ。
そう思って構えた方が良さそうですね……
倒すアテあんのかよ……?
俺とアルマドを……自由にさせてくれ。時間が欲しいんだ。
フォッグ?
やりながら話す! 俺も初めてなんだ、失敗しても……恨むなよ!
どうかしら、化けて出るかもね……!
その時は、おばけがおばけを祟るってことか。怖ぇーな!
じゃあ真面目に行くとしますか……!
いいだろう。俺の命、お前たちに預けよう。
ええ、「わたしたち」も。
命を預けるのは術士組も同じこと。リチャードたちが戦ってくれるからこそ、策を練れるのだ。
行くぞ! おおおおおおッ!
雄叫びをあげ、幽霊戦士に突撃していく!
続く