踊れ、唯唯似つかわしく その10

ペッパー

面白い方々ですね。この期に及んで依頼ですか。

ペッパー

成し遂げられないことわかってるでしょう? 意味あるんですか?

ペッパー

うふふ、傷のなめ合いのようですよ……!

ククリ

腹たつ男ね!

だが実際、状況は厳しい……

ククリ

あっぶな……! この!

前衛に出て戦わねばならないククリ。なぜなら、こちら側には3人しかいなからだ。

リチャード

はっ!

・ ・ ・

アルマド

リチャード、危ない!

本来であればアルマドの大規模魔術で一網打尽にする手はず。しかし、リチャードたちのサポートで手一杯である。集中する時間も余裕もない!

スネイク

おらあァ!

スネイク

ひえええ!

そして向こう側では、スネイク一人が魔物に立ち向かっている。一番負担が大きく、危険な状況だ……!

スネイク

はーーー、はーーーッ

スネイク

やばくねえかこれ、ヤバ……

レイン

~~~~ッ~~~~~~ッ!

ペッパー

うーむ、これは時間の問題でしょうねえ。

ペッパー

粘った分だけ苦しみも大きくなると言うもの。おお! わたくし、今から悲しみで震えてしまいます!

リチャード

せめて、向こうと合流できればな!

アルマド

例の移動床はあちらですし、あの大ジャンプはスネイクほどの機動力がなければ……

ククリ

八方塞がり? 冗談じゃない……!

その時!

広間に飛び込んで来たのは――

フォッグ

アルマド! 例の魔道具についてわかったことがある! あんたの説明どおりなら、それは――

いつぞやの風水士。

ペッパー

むむっ どなたです……!?

ペッパー

まさか偶然迷い込んだとも思えませんが……生かしておくわけには行きませんね。

ペッパー

みなさま! こちらの相手も頼みますよ!

続々と現れる荒くれ者共! いったい何人の協力者がいるのか!?

フォッグ

ひええっ なんでゴタゴタしてんだあんたら。

ン、と首をかしげ。

フォッグ

いつものことか。

ククリ

それどーいう――

リチャード

フォッグ! いいところに! 力を貸してくれ!

言葉の応酬をしようとしたククリの、更に倍の声量でリチャードが叫ぶ。

フォッグ

フォッグ

そいつは「依頼」だな? へへッ後できっちり払ってもらうぜ……!

逡巡は一瞬――!

フォッグ

にゃべばっ!?

気を取られてはいけない! 敵は待ってはくれないのだ……!

ペッパー

むうううっ なかなかの身体能力ですね……!

フォッグ

手荒な歓迎だぜ……で、俺は何をすればいいんだ?

アルマド

実はピンチでしてね……戦力を分断されてしまったのです。

アルマド

フォッグ、あなたはあの大穴を渡れますか?

それに首肯する人などいるのだろうか? ゆうに大ホールほどの面積を持つ大穴。先程、己の口で無理だと言ったばかりではないか。――それに、

フォッグ

! 時間を稼いでくれ!

男たちの間をすり抜け、リチャードのもとに駆け寄る。

リチャード

タイミングが良すぎるんじゃないか、フォッグ?

フォッグ

へへへ、素直に嬉しいって言えよ。

フォッグ

いや違くて。あんたらのいさこざはこの際どーでもいいんだよ。

フォッグ

アルマドに頼まれて調べてたんだ。それが結構ヤバそうでさ……

フォッグ

向こう側のバケモン……わかるぜ、明らかに異質なやつだ。早くなんとかしねーとやばいぜ……

リチャード

こいつらの相手は任せろ! お前は自分の仕事に専念しろ!

答えはない。言われるまでもない。すでに完全な集中体勢である。

ククリ

時間稼いでくれはいいとしても、お陰で敵さんが増えちゃったんですけど!?

アルマド

わたしがサポートします! 今の時間で、遅延魔術をいくつか仕込めました!

己の持てうる技術を全て使い、彼の集中をサポートする!

フォッグ

行けるぜ!

フォッグ

大地の質は変化し続ける礫層の蠢き。今一度その境地に至れ――

フォッグ

解!

ペッパー

な、何事……

大地が蠢き、穴を、穴の上を道が伸びていく……!

フォッグ

へへへ、即席の橋だぜ!

フォッグ

さっさと渡りな、あんたら……!

スネイク

おおおおし行くぞーーー!

穴の上の、橋に飛び乗る二人。

リチャード

やるなフォッグ! この短期間で丈夫な橋を作り上げるとは。

フォッグ

え? 丈夫かは知らない。

スネイク

え?

橋はミシミシと音を立て、乗ったその場所から……崩れ落ちだす!

スネイク

じょ……冗談じゃねえええええ!

崩れるなら走るしか無い! 加えてレインは満足に動けぬのだ。手を取り、無理やり引っ張るように走り出す。

スネイク

ホッ ホッ……ホッ! 

レイン

ハァ、ハァ……うぐ……ぐ……

走れ走れ走れ、残り5歩、3歩、1歩……

レイン

あっ

スネイク

やべっ……およッ!

ひときわ大きな振動で、つないだ手が解けてしまう。スネイクは縁に到着。しかし、レインは。

あと一歩のところで届かない! 奇妙な一瞬の浮遊感の後、そのまま――

吹き荒れる風の渦に巻き込まれて、浮き上がる。

アルマド

ここまで来てくれれば、わたしの魔術でもなんとか。手荒ですみませんね。

レイン

いてえ……ちくしょう……乱暴すぎだろ……

穴の縁に転がるレイン。無傷とはいかない! けれどなんとか帰ってこれた!

ペッパー

きぃぃぃぃ何ということ……!

ペッパー

けれどまあ、一人増えたところで。

リチャード

知らないのか? 俺たちは、「4人」の依頼請負人なんだぞ?

ククリ

準備万端。

すでにククリは、スネイクが来たことで後方に下がっている。矢筒から矢を取り出し、その頃には。

敵の間を縫う稲妻スネイク。速い、速い。

攻撃を当てようとするも、すでにそこに姿はなく。敵はいたずらにスキを作るのみ。

リチャード

おおおおおおおお!

そのスキを見逃す男ではない!

ぐおお……お……

リチャード

一人……!

当然危険なリチャードが放って置かれるはずもなく。数を利に群がろうとする相手の、振り上げた武器を、

吹き飛ばす矢!

アルマド

みなさん離れて!

アルマド

トリオン・セイレーン!

広間を覆う無慈悲なイカヅチ。敵は己の制御を失い、バタバタと倒れていく。

ペッパー

そんな! みなさん……!

残るは、ペッパー一人のみ。

ククリ

あたしたちに喧嘩を売ったこと、牢屋で後悔しなさい!

ペッパー

そんなァッーーーー!

タコ殴りにしたペッパーを、身動きできぬよう縛り上げる。意識があるのかないのか、ううう、と呻くペッパー。

スネイク

よっしゃー、一件落着、

スネイク

じゃねえ……!

忘れてはいまいか! もっとも厄介な存在が残ったままだ。

ククリ

アルマド、さっきのあれやってよ! 凍らせるやつ!

アルマド

先程からいろんな魔術を試しているのですが……どれも効きが悪い……

アルマド

術に耐性があるのかもしれません!

リチャード

厄介だな……!

苦戦を強いられつつも、戦うしか無い彼ら。その後方で。

ペッパー

くくく……わたくし、まだ終わっていませんよ。

縛られた手首をなんとか動かしてポケットを弄るペッパー。取り出した赤い宝石は――

レイン

サートゥラクラッド……!? なんで持ってんだ!?

ペッパー

なんでっておかしな話。あなたと一緒でしょう。父が残したものをもらってきたんです。

ペッパー

見せてあげましょう、レイン! これの真の使い方を!

掲げられた宝石から怪しき輝きが広がり……!

どういうわけか幽霊戦士は動きを止めた。

リチャード

! チャンス……!

スネイク

ぐおおおおーーー!

前の倍にも匹敵する苛烈さで暴れだした幽霊戦士。だめだ。全く近寄らせてくれない!

その幽霊戦士がひと駆けでペッパーのもとにたどり着く。何を――

縄を切り裂き自由の身にしたのである……!

ペッパー

ご苦労。

ペッパー

さあ、行きなさい。冥の生き物よ。彼らを皆殺しにしなさい。

再び暴れまわる幽霊戦士。その苛烈さたるや、今までの比ではない……! みな、自分の身を守るので精一杯だ!

ククリ

どういうこと? なんであいつの言いなりになっての!?

ペッパー

言ったでしょうサートゥラクラッドは召喚機だと。これが本来の使い方なのです!

スネイク

なんてこった。こんなの使役されたら勝ち目がねえぜ……

アルマド

サートゥラクラッド……すでに持っているじゃないですか。なぜ今回さらに欲しがろうとしたのですか。

ペッパー

一つ二つでは足らないのですよ。わたくしの計画ではね……

ペッパー

さあ、命令です! 殲滅を開始しなさい!

フォッグ

ばか! あいつらの行動原理が何かわからないんだぞ! うかつに――

呼び声に呼応するが如く――幽霊戦士が手を掲げると、おお、何もない上空から、禍々しい剣がゆっくりと降りてくるではないか――

剣は掲げられた右手に収まった。試し振りをするように薙ぎ払う。二刀流――

それと同時に天から墜ちて来たもの……黒い雨。それがペッパーの体を包む。

ペッパー

え―――――

…………

雨はすぐに収まったが……ペッパーは黒く染まったまま……

そのままグズグズと崩れ落ちた……

ククリ

…………

レイン

ああ……ああ……うわあああああああ!

スネイク

なんだよなんだよ何が起きたんだ……!?

アルマド

フォッグ、これは……

フォッグ

言わんこっちゃない、闇の存在になんかに頼み事するからだ……

フォッグ

あいつは多分、「代償」を払わされたんだ。

リチャード

まさかと思うが、ペッパー氏の命を奪ってパワーアップしたってことじゃないだろうな?

フォッグ

俺に聞くなよ。知らねーよ。

アルマド

そう思って構えた方が良さそうですね……

スネイク

倒すアテあんのかよ……?

フォッグ

俺とアルマドを……自由にさせてくれ。時間が欲しいんだ。

アルマド

フォッグ?

フォッグ

やりながら話す! 俺も初めてなんだ、失敗しても……恨むなよ!

ククリ

どうかしら、化けて出るかもね……!

フォッグ

その時は、おばけがおばけを祟るってことか。怖ぇーな! 

フォッグ

じゃあ真面目に行くとしますか……!

リチャード

いいだろう。俺の命、お前たちに預けよう。

アルマド

ええ、「わたしたち」も。

命を預けるのは術士組も同じこと。リチャードたちが戦ってくれるからこそ、策を練れるのだ。

リチャード

行くぞ! おおおおおおッ!

雄叫びをあげ、幽霊戦士に突撃していく!

続く

41 踊れ、唯唯似つかわしく その10

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