踊れ、唯唯似つかわしく その9

リチャード

なぜこんなところまで、依頼人。

ペッパー

あなた方が頑張っているのに、わたしだけ町でのんびりしているわけにはいきませんからね。

レイン

うそつけ! それでこんな危険なとこまで来るもんか。なにか企んでるだろ!

ペッパー

おお怖い。相変わらず狂犬のような人ですね。

ペッパー

盗賊に身をやつしたあなたに、お似合いの言動ですね。

お互いに険悪なムード。兄妹仲は最悪のようだ……

アルマド

ペッパーさん、不躾な質問を一つ。

アルマド

あなたがご自身の親を殺したという話を聞きました。それは……?

ペッパー

何を言っているんですか!?

ペッパー

どこからそんな話を、ははあ……レインですね。人を悪者にするとは何という外道でしょう。

ペッパー

いいですか、父を殺したのはレインの方なのですよ!

ククリ

!?

ペッパー

この通り、手配書だって出ています。

懐から取り出した手配書。そこにレインの情報が事細かに記されていた。

もともと彼ら依頼請負人は、様々な賞金首を獲物としているのである。その用紙、フォーマットは馴染みのものである……

アルマド

本物の、ようですね……

レイン

や、やめろ……やめろやめろ……

これはどういうことか。レインの話と正反対ではないか。

スネイク

全部、うそだったのか……?

反論もせずうつむき、肩を震わす。それが何よりも物語っている……

ククリ

リチャード、また騙されちゃったってこと?

リチャード

…………

ペッパー

さて、レインは後で捕らえるとして……

ペッパー

ついにサートゥラクラッドの片割れを見つけてくれたのですね。回収をお願いしますよ。

ククリ

できるわけないでしょ。近寄ったら爆発しちゃうのよ。

ペッパー

確かに、それは問題です……うーん。

そうだ! と手をうつ。

ペッパー

そこの娘を使うんです!

レイン

……?……!?

ペッパー

レインは丸腰なのでしょう? 向こう側にいる仲間の方に協力してもらえば、強制的に秘宝に近づけさせられるはず!

それはつまり犠牲になってもらうということ。炭坑のカナリアのごとく……!

スネイク

は!? ……は!?

ククリ

流石にひどくない? あなたたち兄妹なんでしょ?

ペッパー

……血の繋がりによる絆など、とっくに絶えてしまったのですよ。

ペッパー

父のこと。そして、わたしに対しても。

ペッパー

この娘は今まで散々わたしの事業の邪魔をしてきたんです。

ペッパー

搬送途中の秘宝を何度も奪われ、その際には大怪我をした者もいます。

ペッパー

あなた方だって、先程までレインに利用されていたのではないのですか。

ククリ

そりゃ……そうだけど。

確かに。一歩間違えば、犠牲になっていたのはスネイクの方だ。そう、文字通りあと一歩であった。

ペッパー

むしろこれは世のため! 危険な輩を排除できる絶好の機会なのです。

ペッパー

お願いしますよ皆様方! なんだったら、追加の報酬をお支払いしたっていいんですよ!

ククリ

追加のお賃金!?

目の色が変わる……!

リチャード

…………

リチャード

一つ、聞きたい。

これまで黙っていたリチャードが口を開く。

リチャード

あんたの提案は……俺たちとレインが行動をともにしていなければ成り立たない。

リチャード

一緒にいるのは、ただの偶然だ。……俺たちがレインと会わなかったらどうするつもりだったんだ?

ペッパー

まあまあ、仮定の話はいいじゃないですか。その時はその時で、知恵を絞ったでしょうから。

リチャード

なるほど。

リチャード

ならば俺の答えは、こうだ――

リチャード

ごめんだね!!

アルマド

ククリ

ペッパー

!?

リチャード

あんたは、秘宝の爆発のことを隠していた……つまり、最初から俺たちにヘマをさせるつもりだったな?

リチャード

俺たちが死んでも構わない……むしろ死んで欲しいと思ってたんじゃないか?

ククリ

!!

リチャード

そしてレインがいることを知ったら知ったで、こうやって姿を現す。

リチャード

あんたの提案通りレインを犠牲にしたとして……そのあと俺たちを生かして返すつもりはあるのか?

ペッパー

…………

ペッパー

ふふっ 気づいてしまいましたか?

ペッパー

わたしはサートゥラクラッドを使った大きな計画を考えていましてね……出どころや性質を知っている人を残したくないのですよ。つまり――

ペッパー

もちろん、皆さんにも死んでいただくんですよ……!

本性を現す依頼人……!

スネイク

て、てめえーーーー!

アルマド

どうやって? 依頼請負人4人を相手にするおつもりですか?

ペッパー

わたしがするわけ無いでしょう、そんな荒事!

ペッパー

みなさんやっておしまいなさい!

後ろから現れたのは、一見してオーラの違う男たち。さては専門家か……!?

武器を取り出し襲いかかってくる! すぐさま迎え撃つリチャードたち。

リチャード

ぐぐぐ……

鍔迫り合いをしつつ、呻くように言葉をこぼす。

リチャード

……俺は、依頼を誇りに思っている。

リチャード

どんな困難な依頼だろうと成し遂げるし、それに見合う報酬をいただくことが信頼関係。

リチャード

そうやって、ずっとやってきたんだ。

リチャード

ところが、あんたはどうだ? そもそもヘマをすることを求めた依頼だと……?

リチャード

こいつらなら、必ず成し遂げる。そう信じなかったというのか? そんな、そんなくだらない……

リチャード

そんなくだらないものは、依頼でもなんでも無い……!

ペッパー

何をごちゃごちゃとわからないことを。

ペッパー

あなた方には死んでもらい、わたしは無傷でサートゥラクラッドを回収する。こんな素敵な計画がありますか!

ペッパー

むしろ、役に立てることを誇ってほしいですねえ!

ククリ

だ・れ・が!

リチャード

ペッパー……あんたに言っておくことがある……

リチャード

あんたとの契約は――破棄させてもらう!

ペッパー

ご自由にどうぞ!

ペッパー

今更それがなんだって言うんです。破棄?? ププ、そうされたところでお命は頂戴しますよ!

ククリ

きいいいいい悔しい……!

リチャード

うぐっ ぐぐぐ……!

どれだけ啖呵を切ってみせても。理不尽に毅然と立ち向かっても。襲いくる暴力の前には意味がないのだ――

ペッパー

ふふふ、そしてこんなことに時間を使っていていいんでしょうかね。

ペッパー

さきほど見ていましたけど、レインはサートゥラクラッドを使ったのですよね。

ペッパー

それを使うと何が起こるか、まさか知らないわけではないでしょう?

決して暖かくはない遺跡の内部。その温度が、更に下がった、気がした。

いつの間にか、ペッパーの背後に現れた真っ黒な騎乗の幽霊戦士。

アルマド

何奴……!?

魔物はペッパーにもリチャードたちにも気を払わず、その後方――大穴に向けて駆け出す。音もなく。

そのまま穴の上を、おお、なんと――

ククリ

浮いてるじゃないのーー!

駆け抜けたのである……!

その向かう先は――

レイン

な……なんだお前なんだ!?

レイン

うわあああああああ!

スネイク

はーーーはーーー危ねえなあもう……

命を刈り取る勢いで振るわれた大剣。満足に動けぬレインに避けるすべもなし。だが次の瞬間、襟を捕まれ乱暴に引きずられたことで事なきを得た。

レイン

ゴホッゴホッ……ありがと……

リチャード

スネイクすまん、そいつを守ってやってくれ!

スネイク

無茶言ってくれるぜ……! 護衛は柄じゃねえんだ!

レイン

なんで、なんでなんでいつも、こんな化け物があたしを襲うんだ……!

ペッパー

まさか、まだ気づいていないのですか?サートゥラクラッドの力を。

リチャード

その口ぶり……何を知っているペッパー。

リチャード

とんでもない威力の魔道具ってだけじゃないんだな?

ペッパー

うふふ、あんなもの……! ただのおまけです!

ペッパー

サートゥラクラッドは召喚機。この世ならざる、冥の生き物を呼び出し使役させるのです。

アルマド

そんな危険な代物が……!?

確かに、レインが秘宝を使ったタイミングで必ず危険な怪物が現れていた。そういうからくりだったのか……!?

ククリ

召喚~~? ただ暴れまわるだけじゃない。そんなのどーすんよ……!

ククリ

自分で召喚して、自分の命を召し捕ってもらってたら、世話ないわね!

怪しげな男のナイフさばきをチョップでいなす。日頃の鍛錬の成果……!

ペッパー

仕組みを知らなれければそうなりますね。何も知らずに、己の召喚した存在に殺されたものも多数いたのでしょう……

レイン

召喚……? 冥の生き物……? そんな話、知らない……

ペッパー

ご敬愛の父殿から教えてもらえませんでしたか。彼もこれは、トップシークレットにしていましたからね……

ペッパー

秘密にするのはご英断だったと思います。こんなことが世に出れば、世界は冥の生き物によって混沌に飲み込まれてしまう。

ペッパー

けれど、父の愚かなところは、その秘宝すらも封印してしまおうとしていたのです!

ペッパー

愚か! 使わなくてどうするんです! もう! これがあればどれだけ世の中の構造を変えられることか……!

レイン

やめろ! 父さんの意志を踏みにじるんじゃねえ!

ペッパー

死んだ人間の意志をとやかく言うのは不毛というもの。残された秘宝をわたしがどうしようが、勝手でしょう。

ペッパー

そしてレイン、あなたに父の意志がどうこうと言ってもらいたくないですね!

ペッパー

父の命を奪ったあなたに!

レイン

うわああああああああああ!

レイン

ああ……あ、……ッ……

意気消沈するレイン。ただ、状況は彼女を待ってくれない。

死の波濤――!

スネイク

うぐぐ、ぐぐぐ……

スネイク

ナイフで受け止めんのは無理あるぜ……

レイン

なんであんた……

スネイク

気に入らんが仕方ない。リチャードの頼みだしな。

スネイク

それに、あんたはさっき俺を止めてくれた。これはその借りの返しみたいなもんだ。

レイン

え、だって……もともと……ハメたのはあたし……

スネイク

俺はわかんねえんだ! そういう難しいの!

軽やかに笑う……!

ククリ

やれやれ、リチャードに続きスネイクまでやられちゃった。なかなかの魔性よねほんと。

レイン

いや、いやいや、あたしの問題なのか……?

こんな状況で何を、と思うことだろう。だが、この極限状況で、確かに彼女の心を軽くした。

ペッパー

不思議ですねえ。彼女が大うそつきで、何度も妨害してきたことは明確なのに。なぜかばおうとするんです?

それには答えず。

リチャード

レイン。あんたは、どうしたい?

リチャード

こんな状況になっても、諦めない心があるなら。そして俺たちは依頼請負人だ――

レイン

は? 何? 依頼? ……や、だって……

レイン

だって。そいつの言う通り嘘をついて……もうあたしのことなんて信じられるわけ……

リチャード

前にも言ったが、それは関係ない。

リチャード

あんたが今まで何をしようが、どういう人間だろうが、それは判断に値しない。

リチャード

ただ依頼という一点にのみ真摯に願い、こちらを信用するなら――

リチャード

俺はいつだって聞き届ける。

レイン

―――――!!

レイン

あ……あ……

レイン

助けて……あたしを……

レイン

そして……あいつ……

レイン

ペッパーを倒して……!

リチャード

聞き入れた!!

響き渡る大音声。

ブラックカード事務所、新たな依頼の受諾、完了である――――!

続く

40 踊れ、唯唯似つかわしく その9

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