踊れ、唯唯似つかわしく その8
うぅ、うう…痛……ッ……
うおおお逃さんぞォォォ!
足を痛めているはずです。すぐ追いつける……!
扉の向こうには巨大な大穴が広がっていた。そして大穴を越えた、その向こう。
サートゥラクラッド……! 台座に静かに鎮座した宝石こそ、彼らの目的。
しかし、そこへの道のりは大きな穴によって絶たれてしまっている。渡るための橋も何も無いように思えるが……
はぁ、はぁ、これだ・・・!
穴の端にたどり着くと、岩の一つにしがみつく。なんの変哲もない岩。気でも狂ったか?
――いや。おお、こんなことがあっていいのか。岩が不気味に振動しはじめたかと思うと。
ちょうどレインのいるあたりの地面に、四角く亀裂が入る。そしてゆっくりと、しかし確実に動き出した……!
い、移動床!?
そのまま、穴の表面を何事も無いかのように浮きながらすべっていく。
どういうことだよ! なんであいつがそれを知ってんだよ!
……さっきの石版。
お前、読めていたな……!
こうでもしなけりゃ出し抜けないだろ!お先!!
遅れて到着した彼らも縁の岩をペタペタと触ってみるが、どれも反応なし。移動床は一つだけだったのだろうか……?
どーするよどーするよ。ここまできて、全部あいつに奪われちまうぜ。
ああだこうだ言っている間に、レインは大穴の3分の1を越えたところ。
……スネイク。あなた、あそこの足場まで飛べますか?
は!?
落ち着いて前方を見れば、底なしの空洞と思われた大穴も、石筍のような細い足場が転々と存在しているではないか。
ああ……んー……そりゃ1つ目は届くけどよ。でもその先は全然距離が違うぜ。
わたしの魔術のアシストがあれば……どうでしょう?
!
そいつぁ、行けるって答えるしかねえな!
ちょちょ、ちょっと、流石に無理じゃない? 落ちたらどうす―――
聞かぬ、静止は。反省するのは失敗してからだ……!
助走をつけ大きく跳ねる……!
1つ目の足場にたどり着く……!
ああ! あ!? 危ねえやつだな……
けど、そっから先はどうやったって無理だろ!
次の足場までは、距離にして先程の2倍……!
お構いなく飛び出す。そこに!
強烈な追い風……!
アイイイイィィーーーー!
2つ目の足場にも……無事到着!
ふぅっ ひやひやさせるわね……!
嘘だろ……おい!
予想外の出来事の焦りだすレイン。まだ10歩程度先行しているとはいえ、何分移動床の速度が遅い。このままでは――
――まだ、大穴の3分の2を渡り終えたところ……!
イヤァーーーーーーー!
風のアシスト! ……いや、それでも届かぬ!
まだまだァーーーーーー!
天井に向けて鉤付きロープを投擲する。まさか!
天井にはたくさんの鍾乳石が垂れ下がっており、そこだけ幾分低くなっている。そのひとつ。ひときわ大きな鍾乳石に、鉤付きロープが突き刺さる……!
そのまま、振り子の要領で更に距離を稼ぐ。
イヤッッッッッホーーーーーーーッ!
したたか……!
しかし果たしてその行動は、賢い作戦と呼べるだろうか……!?
スネイク・・・・!
鍾乳石が重みに絶えきれず、根本から折れたのだ!
ウワーーーーーーーーー!!?
谷底へ真っ逆さま……!
……に、ならず! 次なる足場に、ぎりぎりでしがみつくことに成功した。
ふーーーッふーーーッ 死ぬかと思った……!
無茶極まりない大立ち回りを繰り返し、しかし決して心折れず。そして! ついに……!
ああっあっっっ……そんな……!
レインを、追い抜いた……!
行け! スネイク! 宝石を回収しろーーーー!
今度こそ、しっかりと大地を踏むスネイク。向こう側の大地に、たどり着いた!
そんなそんなそんな……! ここまで、来て……!?
あたし、勝ってたじゃんか……勝ってたじゃんか……ッ
思わず振り上げた拳を地面に叩きつける。
結局勝てない……悔しい、悔しい……!
ハァ……ハァ……
けど……どっちにしろ、あたしの勝ちだよ。
消し飛んじまいな……!
意味深なセリフ。しかし前を走るスネイクには届かない。もはや彼を阻むものは何も無い。全力疾走で、確実に宝石までの距離を詰める……!
それをなぜか、慌てるでもなく静かに見つめるレイン。
スネイクの疾走。壁際の、宝石が鎮座した台座まで15歩の距離、10歩、7歩―――
ダメだーーーーーーーーー!!
―――――――ッ
走る極太の閃光――
それはスネイクと秘宝を遮るように横切った。漂う焼け焦げたような匂いと、背中を伝う冷や汗。ビリビリとした空気の震えが余韻として残る。
サートゥラクラッド……! なぜ、このタイミングで……使った……?
お願い、その片割れに、触らないで……
それにあんたが触れると、むちゃくちゃな規模の爆発が起きるんだ。……巻き込まれたら、間違いなく……死ぬ。
あたしが言っても信じてもらえないかもしれないけど……
……!? どういうことだよ!
それがサートゥラクラッドのしかけなんだ……
対になるかけらを近づけると、大きな爆発を起こして、そのエネルギーの中で……サートゥラクラッドが完成する……
だから、サートゥラクラッドが完成するためには必ず誰かが犠牲になる……
衝撃の新事実。しかし――
あなたを信じるにはいささか根拠に欠ける……申し訳ありませんが。
ふん……どうせそうだろうさ……
まあ、宝石を取られたくなくて、口からでまかせ言ってると考える方が自然でしょうね。
もしその話が本当なら、黙ってりゃいいじゃない。そうすりゃ、勝手にスネイクが死んで、秘宝が自分のものになる。
仮定の話だとしても、いい気はしない……!
…………
何も……何も……
死ななくても、いいんじゃないかって、思っただけだよ……!
今更嘘なんてつくかよ。信じられないなら、あと2歩くらい近づいてみなよ。
恐る恐る歩み寄るスネイク。
お、おっっおッッッッッ!?
なんと! スネイクの持つサートゥラクラッドの片割れが不気味に輝き出すではないか……!
ストップ! それ以上近づいちゃダメだ!
マジかよ。怖ええなあもう……
…………
嘘ではない……失礼しました。
どうしますリチャード? このままでは宝石を回収できませんが――
いーこと考えた。
その宝石、もう一個のところに放り投げたらいいんじゃない? そしたら近づかなくても――
それができたらいいんだけどね……
父さんのメモに書いてある。誰かが持っていかないと効果が無いみたいなんだ。
もし投げちゃったりしたら、結局回収に行かないといけなくて、その瞬間……ボンッだよ。
ダメじゃん……!
…………
む、む、む……
一度ペッパー氏と相談が必要だな。面倒だが戻って、
その時――!
それにはお呼びませんよ皆様方!
現れたのである当の本人が!
ペッパーーーーーァッ!!
よくもここまで顔を出しやがったな……!
殺してやる……!
続く