踊れ、唯唯似つかわしく その8

レイン

うぅ、うう…痛……ッ……

スネイク

うおおお逃さんぞォォォ!

アルマド

足を痛めているはずです。すぐ追いつける……!

扉の向こうには巨大な大穴が広がっていた。そして大穴を越えた、その向こう。

サートゥラクラッド……! 台座に静かに鎮座した宝石こそ、彼らの目的。

しかし、そこへの道のりは大きな穴によって絶たれてしまっている。渡るための橋も何も無いように思えるが……

レイン

はぁ、はぁ、これだ・・・!

穴の端にたどり着くと、岩の一つにしがみつく。なんの変哲もない岩。気でも狂ったか?

――いや。おお、こんなことがあっていいのか。岩が不気味に振動しはじめたかと思うと。

ちょうどレインのいるあたりの地面に、四角く亀裂が入る。そしてゆっくりと、しかし確実に動き出した……!

アルマド

い、移動床!?

そのまま、穴の表面を何事も無いかのように浮きながらすべっていく。

スネイク

どういうことだよ! なんであいつがそれを知ってんだよ!

リチャード

……さっきの石版。

リチャード

お前、読めていたな……!

レイン

こうでもしなけりゃ出し抜けないだろ!お先!!

遅れて到着した彼らも縁の岩をペタペタと触ってみるが、どれも反応なし。移動床は一つだけだったのだろうか……?

スネイク

どーするよどーするよ。ここまできて、全部あいつに奪われちまうぜ。

ああだこうだ言っている間に、レインは大穴の3分の1を越えたところ。

アルマド

……スネイク。あなた、あそこの足場まで飛べますか?

スネイク

は!?

落ち着いて前方を見れば、底なしの空洞と思われた大穴も、石筍のような細い足場が転々と存在しているではないか。

スネイク

ああ……んー……そりゃ1つ目は届くけどよ。でもその先は全然距離が違うぜ。

アルマド

わたしの魔術のアシストがあれば……どうでしょう?

スネイク

スネイク

そいつぁ、行けるって答えるしかねえな!

ククリ

ちょちょ、ちょっと、流石に無理じゃない? 落ちたらどうす―――

聞かぬ、静止は。反省するのは失敗してからだ……!

助走をつけ大きく跳ねる……!

1つ目の足場にたどり着く……!

レイン

ああ! あ!? 危ねえやつだな……

レイン

けど、そっから先はどうやったって無理だろ!

次の足場までは、距離にして先程の2倍……!

お構いなく飛び出す。そこに!

強烈な追い風……!

スネイク

アイイイイィィーーーー!

2つ目の足場にも……無事到着!

ククリ

ふぅっ ひやひやさせるわね……!

レイン

嘘だろ……おい!

予想外の出来事の焦りだすレイン。まだ10歩程度先行しているとはいえ、何分移動床の速度が遅い。このままでは――

――まだ、大穴の3分の2を渡り終えたところ……!

スネイク

イヤァーーーーーーー!

風のアシスト! ……いや、それでも届かぬ!

スネイク

まだまだァーーーーーー!

天井に向けて鉤付きロープを投擲する。まさか!

天井にはたくさんの鍾乳石が垂れ下がっており、そこだけ幾分低くなっている。そのひとつ。ひときわ大きな鍾乳石に、鉤付きロープが突き刺さる……!

そのまま、振り子の要領で更に距離を稼ぐ。

スネイク

イヤッッッッッホーーーーーーーッ!

したたか……!

しかし果たしてその行動は、賢い作戦と呼べるだろうか……!?

ククリ

スネイク・・・・!

鍾乳石が重みに絶えきれず、根本から折れたのだ!

スネイク

ウワーーーーーーーーー!!?

谷底へ真っ逆さま……!

……に、ならず! 次なる足場に、ぎりぎりでしがみつくことに成功した。

スネイク

ふーーーッふーーーッ 死ぬかと思った……!

無茶極まりない大立ち回りを繰り返し、しかし決して心折れず。そして! ついに……!

レイン

ああっあっっっ……そんな……!

レインを、追い抜いた……!

リチャード

行け! スネイク! 宝石を回収しろーーーー!

今度こそ、しっかりと大地を踏むスネイク。向こう側の大地に、たどり着いた!

レイン

そんなそんなそんな……! ここまで、来て……!?

レイン

あたし、勝ってたじゃんか……勝ってたじゃんか……ッ

思わず振り上げた拳を地面に叩きつける。

レイン

結局勝てない……悔しい、悔しい……!

レイン

ハァ……ハァ……

レイン

けど……どっちにしろ、あたしの勝ちだよ。

レイン

消し飛んじまいな……!

意味深なセリフ。しかし前を走るスネイクには届かない。もはや彼を阻むものは何も無い。全力疾走で、確実に宝石までの距離を詰める……!

それをなぜか、慌てるでもなく静かに見つめるレイン。

スネイクの疾走。壁際の、宝石が鎮座した台座まで15歩の距離、10歩、7歩―――

レイン

ダメだーーーーーーーーー!!

スネイク

―――――――ッ

走る極太の閃光――

それはスネイクと秘宝を遮るように横切った。漂う焼け焦げたような匂いと、背中を伝う冷や汗。ビリビリとした空気の震えが余韻として残る。

リチャード

サートゥラクラッド……! なぜ、このタイミングで……使った……?

レイン

お願い、その片割れに、触らないで……

レイン

それにあんたが触れると、むちゃくちゃな規模の爆発が起きるんだ。……巻き込まれたら、間違いなく……死ぬ。

レイン

あたしが言っても信じてもらえないかもしれないけど……

スネイク

……!? どういうことだよ!

レイン

それがサートゥラクラッドのしかけなんだ……

レイン

対になるかけらを近づけると、大きな爆発を起こして、そのエネルギーの中で……サートゥラクラッドが完成する……

レイン

だから、サートゥラクラッドが完成するためには必ず誰かが犠牲になる……

衝撃の新事実。しかし――

アルマド

あなたを信じるにはいささか根拠に欠ける……申し訳ありませんが。

レイン

ふん……どうせそうだろうさ……

ククリ

まあ、宝石を取られたくなくて、口からでまかせ言ってると考える方が自然でしょうね。

ククリ

もしその話が本当なら、黙ってりゃいいじゃない。そうすりゃ、勝手にスネイクが死んで、秘宝が自分のものになる。

スネイク

仮定の話だとしても、いい気はしない……!

レイン

…………

レイン

何も……何も……

レイン

死ななくても、いいんじゃないかって、思っただけだよ……!

レイン

今更嘘なんてつくかよ。信じられないなら、あと2歩くらい近づいてみなよ。

恐る恐る歩み寄るスネイク。

スネイク

お、おっっおッッッッッ!?

なんと! スネイクの持つサートゥラクラッドの片割れが不気味に輝き出すではないか……!

レイン

ストップ! それ以上近づいちゃダメだ!

スネイク

マジかよ。怖ええなあもう……

リチャード

…………

アルマド

嘘ではない……失礼しました。

アルマド

どうしますリチャード? このままでは宝石を回収できませんが――

ククリ

いーこと考えた。

ククリ

その宝石、もう一個のところに放り投げたらいいんじゃない? そしたら近づかなくても――

レイン

それができたらいいんだけどね……

レイン

父さんのメモに書いてある。誰かが持っていかないと効果が無いみたいなんだ。

レイン

もし投げちゃったりしたら、結局回収に行かないといけなくて、その瞬間……ボンッだよ。

ククリ

ダメじゃん……!

リチャード

…………

リチャード

む、む、む……

リチャード

一度ペッパー氏と相談が必要だな。面倒だが戻って、

その時――!

ペッパー

それにはお呼びませんよ皆様方!

現れたのである当の本人が!

レイン

ペッパーーーーーァッ!!

レイン

よくもここまで顔を出しやがったな……!

レイン

殺してやる……!

続く

39 踊れ、唯唯似つかわしく その8

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