踊れ、唯唯似つかわしく その7
サートゥラクラッドのありかを示す秘宝の指し示すままに、遺跡を探索する。
ほんと不思議な道具だよな。なんの力で動いてんだ~?
盗掘者たちの、飽くなき怨念パワーってとこかしら?
げええ、怖いこと言うなよ……
宝を指し示すんだもの。これを巡って、いろんな争い、そして血が流れたんでしょうね……
わざとおどろおどろしい声で自説を披露するククリ。前を歩くスネイクの肩がビクビクとせり上がっていく……
ふむ……なんの力で動くか、ですか。
確かに不思議です。これでも術具については日々研究しているのですが、この秘宝の力の元がわからないのです。
魔術に関わるものを使用する際、必ず、この場の精霊の量の変化が起こります。魔術師ならそれをゆらぎとして感じることができる。
ですが、この秘宝からはそういったゆらぎを感じないのです。
…………ン……ィ……ポ……?
無言! 眉間のシワ! 巨大難問に取り組むかのようなこんがらがった顔……!
わかりやすく。
おっと失礼。
そうですね――
ラオ・レン――
例えばこの光ですが……触るとどうなりますか?
まあ、数日間は苦しむことになるな。
素直に触ろうとしたスネイクの襟首を掴みながら。
そのとおり。それは、この光が熱を持ってるからですね。
火ってそういうものでしょ。
ところが、世の中には熱くない光も存在するんです。
触れてもやけどすることなく、暖かさもほとんどない。ただ煌々と輝き続ける――
初めて見たときには驚きましたよ。いったいどうやって光ってるんだってね。
その時と同じような感覚を、この秘宝にも感じるんです。
あー……言いたいことわかってきたわ。
それを聞いて、口を挟んできたのは意外にもレイン。
……世の中なんて仕組みもわからないことの方が多いんだよ。
これはあれ、それはあれって分類したり、できちゃってたってことは、よっぽど狭い世界で生きてきたんじゃない? クスクス……
喧嘩売られてるわよアルマド。どうする?
言わせておきなさい。
大人……!
とは言えわたしは魔術師ですからね。世の理を解き明かそうとする一派。
今はわからないことも、研究が進み叡智が高まれば必ず――解き明かされる。そう信じていますし、そのように行動しなければならない。
…………
なあなあ、嬢ちゃんよう。
……なに。
場の沈黙に耐えかね、コミュニケーションを取りに行くスネイク。社交性……!
さっきの話がほんとだとして、お嬢ちゃんはどうしてえんだ? 兄貴に復讐してやりてえのか?
…………
前は、それも考えてた。
どうやって、惨たらしく殺してやろうだとか、
持ってるものを全部引っ剥がしてやって、絶望の中で死なせてやろうだとか――
胸の内の黒いものを吐き出すように、一言、一言。そして、自らそれを払い去るように首を振り。
それは今だってあるんだけど……
それより、父さんが集めたり封印したりした秘宝を、好き勝手に使われるのがほんとに我慢できないんだ。
どんな思いで父さんが活動してたか……まるで考えもせず……
あたしは、それを止めたい。
ふ~~ん……
でもよ、だったら自警団に頼りゃよかったじゃねえか。
親殺しは確実なんだろ? すぐ捕まえてくれると思うけどな。
いや、だから、それができりゃ苦労しない……
これが片付いたら、俺が一緒に自警団に行ってやってもいいぜ! な! な!
だああもっ、そうはならねえだろ! もういいだろ、この話はおしまいだ!
考えなしのスネイクがどこまで本気かはさておき、願ってもない提案のはず。それなのになぜか話を終わらせようとするレイン。どういうことだろうか?
「どちらが正しいか、部外者にどうしてわかる? 」先程のリチャードのセリフがよぎる――
みんな、気をつけろ! 来るぞ!
先陣を切っていたリーダーの鋭い声。慌てて前方を見やれば、モンスターの群れ。
仲良く登場ね。秘宝の守り手ってとこかしら!?
レイン、お前はまだ満足に動けまい。後ろで目立たないようにしていろ。
チッ……わかったよ。
よし、先行くぜ! 援護頼む!!
HOOOOOOO――HOOOOOO――
また不定形野郎がいるな。
今度は一瞬で片付けてやる。覚悟しろ!
カカッ……ッ……!
おらよっ!
スネイクの、体術を含めた巧みな剣さばき。倒すまで行かなくとも、敵の足は止まり、無防備な背中をさらけ出す。
そこに――
フッッッッッ ハッッッ
グギャーーーーーーー!!
勢いをつけた、リチャードの重い一撃! 骸骨は骨を粉砕され、上半身と下半身がバラバラに地に散らばる。
ガガッ……ガッ……
しかし! 躯はまだ動く! じわりじわりと生者を狙う……
地獄の業火! 骨は灰となり風にさらわれた……!
…………
あっっ!?
戦いの場面から少し離れた後方、壁を背にしたレインから短い悲鳴。
なんと言うことだろう。天井の隙間から、不定形のモンスターが壁を伝って降りてきたのだ。そんなところから現れるとは夢にも思わぬ。気づいたときには体にまとわりつき、
やめろようわ……! わ……!……!……!
もがけばもがくほどまとわりつくモンスター。助けを呼ぼうにも皆、前方の戦いに夢中だ。そしてついに口も塞がれ
ぅ…………ぁ……
こんなとこで……? え、だ……だって、
混乱。背を這い寄る悪寒。そうしたものも最初のうちだけ。呼吸を止められ、胸が頭が、ただ、ただ、痛み、痛み、痛、痛、痛痛痛痛
そして衝撃。何かを叩きつけられたような。思わず咳き込み、荒々しく呼吸をする。肺に入る空気が、逆に痛くて、痛くて――
呼吸できていることに、気づくのが遅れた。
おい、死んでないか!?
あ……あ……?……ゴホッゴホッ
ようやく回復してくる視界。汗だで肩を上下させる男と、周りに散らばる、先程まで自分を苦しめていたモンスターの残骸。
助けて……くれたのか……?
当然だろう? 生きててもらわねば報酬がもらえない。
レインの無事を確認すると、再び戦いの舞台に戻っていくリチャード。その背を見送りつつ、ポツリとこぼす――
どうして……
みんな、これを見てくれ。
戦いも終わり、再び探索に戻った一行。壁を探っているリチャードが、声を上げた。
重々しい扉と、その隣にこれみよがしにはめ込まれた、石版。何やら文字が書かれているようだが――
これは……ううむ、わたしには読めません。おそらくリーグレン以前の王朝と言われるものの文字なのでしょう。
こうなることがわかっていたら、勉強しましたのに。
どことなく悔しげなのが可愛らしい。
アルマドに読めないんじゃ無理よね~~でも一応、見とこうかな。
皆、どれどれという感じで石版を眺めていくが、読めぬとわかると諦めて離れていく。
…………
どうだ? 何かわかったか?
あたしに読めるわけないだろ。
それもそうか。
仕方あるまい。何かの罠だと困るが……気をつけて行くしかない。
扉をくぐる一行……!
リチャード。
……を、引き止める声。
あたしの地図も、そっちの秘宝も、この先を示してる。
サートゥラクラッドの片割れはもう、すぐそこにあるはず。
つまり、あんたは約束を守ってくれたわけだ。
ここまで守ってくれたこと、感謝してる。
だから、こっから先は、また敵同士だ――
どっちが先に秘宝を手に入れるか、競争だよ!
そう言うと、返事も聞かずに走り出す。
あっ
目指すは奥へ、奥へ。秘宝に向かって、一直線に――! とっさのことに、スネイクも、ククリも引き止めるのが間に合わない!
「あっ」じゃないわよ馬鹿!
待ちやがれ!
続く