踊れ、唯唯似つかわしく その7

サートゥラクラッドのありかを示す秘宝の指し示すままに、遺跡を探索する。

スネイク

ほんと不思議な道具だよな。なんの力で動いてんだ~?

ククリ

盗掘者たちの、飽くなき怨念パワーってとこかしら?

スネイク

げええ、怖いこと言うなよ……

ククリ

宝を指し示すんだもの。これを巡って、いろんな争い、そして血が流れたんでしょうね……

わざとおどろおどろしい声で自説を披露するククリ。前を歩くスネイクの肩がビクビクとせり上がっていく……

アルマド

ふむ……なんの力で動くか、ですか。

アルマド

確かに不思議です。これでも術具については日々研究しているのですが、この秘宝の力の元がわからないのです。

アルマド

魔術に関わるものを使用する際、必ず、この場の精霊の量の変化が起こります。魔術師ならそれをゆらぎとして感じることができる。

アルマド

ですが、この秘宝からはそういったゆらぎを感じないのです。

スネイク

…………ン……ィ……ポ……?

無言! 眉間のシワ! 巨大難問に取り組むかのようなこんがらがった顔……!

ククリ

わかりやすく。

アルマド

おっと失礼。

アルマド

そうですね――

アルマド

ラオ・レン――

アルマド

例えばこの光ですが……触るとどうなりますか?

リチャード

まあ、数日間は苦しむことになるな。

素直に触ろうとしたスネイクの襟首を掴みながら。

アルマド

そのとおり。それは、この光が熱を持ってるからですね。

ククリ

火ってそういうものでしょ。

アルマド

ところが、世の中には熱くない光も存在するんです。

アルマド

触れてもやけどすることなく、暖かさもほとんどない。ただ煌々と輝き続ける――

アルマド

初めて見たときには驚きましたよ。いったいどうやって光ってるんだってね。

アルマド

その時と同じような感覚を、この秘宝にも感じるんです。

ククリ

あー……言いたいことわかってきたわ。

それを聞いて、口を挟んできたのは意外にもレイン。

レイン

……世の中なんて仕組みもわからないことの方が多いんだよ。

レイン

これはあれ、それはあれって分類したり、できちゃってたってことは、よっぽど狭い世界で生きてきたんじゃない? クスクス……

ククリ

喧嘩売られてるわよアルマド。どうする?

アルマド

言わせておきなさい。

大人……!

アルマド

とは言えわたしは魔術師ですからね。世の理を解き明かそうとする一派。

アルマド

今はわからないことも、研究が進み叡智が高まれば必ず――解き明かされる。そう信じていますし、そのように行動しなければならない。

レイン

…………

スネイク

なあなあ、嬢ちゃんよう。

レイン

……なに。

場の沈黙に耐えかね、コミュニケーションを取りに行くスネイク。社交性……!

スネイク

さっきの話がほんとだとして、お嬢ちゃんはどうしてえんだ? 兄貴に復讐してやりてえのか?

レイン

…………

レイン

前は、それも考えてた。

レイン

どうやって、惨たらしく殺してやろうだとか、

レイン

持ってるものを全部引っ剥がしてやって、絶望の中で死なせてやろうだとか――

胸の内の黒いものを吐き出すように、一言、一言。そして、自らそれを払い去るように首を振り。

レイン

それは今だってあるんだけど……

レイン

それより、父さんが集めたり封印したりした秘宝を、好き勝手に使われるのがほんとに我慢できないんだ。

レイン

どんな思いで父さんが活動してたか……まるで考えもせず……

レイン

あたしは、それを止めたい。

スネイク

ふ~~ん……

スネイク

でもよ、だったら自警団に頼りゃよかったじゃねえか。

スネイク

親殺しは確実なんだろ? すぐ捕まえてくれると思うけどな。

レイン

いや、だから、それができりゃ苦労しない……

スネイク

これが片付いたら、俺が一緒に自警団に行ってやってもいいぜ! な! な!

レイン

だああもっ、そうはならねえだろ! もういいだろ、この話はおしまいだ!

考えなしのスネイクがどこまで本気かはさておき、願ってもない提案のはず。それなのになぜか話を終わらせようとするレイン。どういうことだろうか?

「どちらが正しいか、部外者にどうしてわかる? 」先程のリチャードのセリフがよぎる――

リチャード

みんな、気をつけろ! 来るぞ!

先陣を切っていたリーダーの鋭い声。慌てて前方を見やれば、モンスターの群れ。

ククリ

仲良く登場ね。秘宝の守り手ってとこかしら!?

リチャード

レイン、お前はまだ満足に動けまい。後ろで目立たないようにしていろ。

レイン

チッ……わかったよ。

スネイク

よし、先行くぜ! 援護頼む!!

HOOOOOOO――HOOOOOO――

リチャード

また不定形野郎がいるな。

リチャード

今度は一瞬で片付けてやる。覚悟しろ!

カカッ……ッ……!

スネイク

おらよっ!

スネイクの、体術を含めた巧みな剣さばき。倒すまで行かなくとも、敵の足は止まり、無防備な背中をさらけ出す。

そこに――

リチャード

フッッッッッ ハッッッ

グギャーーーーーーー!!

勢いをつけた、リチャードの重い一撃! 骸骨は骨を粉砕され、上半身と下半身がバラバラに地に散らばる。

ガガッ……ガッ……

しかし! 躯はまだ動く! じわりじわりと生者を狙う……

地獄の業火! 骨は灰となり風にさらわれた……!

レイン

…………

レイン

あっっ!?

戦いの場面から少し離れた後方、壁を背にしたレインから短い悲鳴。

なんと言うことだろう。天井の隙間から、不定形のモンスターが壁を伝って降りてきたのだ。そんなところから現れるとは夢にも思わぬ。気づいたときには体にまとわりつき、

レイン

やめろようわ……! わ……!……!……!

もがけばもがくほどまとわりつくモンスター。助けを呼ぼうにも皆、前方の戦いに夢中だ。そしてついに口も塞がれ

レイン

ぅ…………ぁ……

レイン

こんなとこで……? え、だ……だって、

混乱。背を這い寄る悪寒。そうしたものも最初のうちだけ。呼吸を止められ、胸が頭が、ただ、ただ、痛み、痛み、痛、痛、痛痛痛痛

そして衝撃。何かを叩きつけられたような。思わず咳き込み、荒々しく呼吸をする。肺に入る空気が、逆に痛くて、痛くて――

呼吸できていることに、気づくのが遅れた。

リチャード

おい、死んでないか!?

レイン

あ……あ……?……ゴホッゴホッ

ようやく回復してくる視界。汗だで肩を上下させる男と、周りに散らばる、先程まで自分を苦しめていたモンスターの残骸。

レイン

助けて……くれたのか……?

リチャード

当然だろう? 生きててもらわねば報酬がもらえない。

レインの無事を確認すると、再び戦いの舞台に戻っていくリチャード。その背を見送りつつ、ポツリとこぼす――

レイン

どうして……

リチャード

みんな、これを見てくれ。

戦いも終わり、再び探索に戻った一行。壁を探っているリチャードが、声を上げた。

重々しい扉と、その隣にこれみよがしにはめ込まれた、石版。何やら文字が書かれているようだが――

アルマド

これは……ううむ、わたしには読めません。おそらくリーグレン以前の王朝と言われるものの文字なのでしょう。

アルマド

こうなることがわかっていたら、勉強しましたのに。

どことなく悔しげなのが可愛らしい。

ククリ

アルマドに読めないんじゃ無理よね~~でも一応、見とこうかな。

皆、どれどれという感じで石版を眺めていくが、読めぬとわかると諦めて離れていく。

レイン

…………

リチャード

どうだ? 何かわかったか?

レイン

あたしに読めるわけないだろ。

リチャード

それもそうか。

リチャード

仕方あるまい。何かの罠だと困るが……気をつけて行くしかない。

扉をくぐる一行……!

レイン

リチャード。

……を、引き止める声。

レイン

あたしの地図も、そっちの秘宝も、この先を示してる。

レイン

サートゥラクラッドの片割れはもう、すぐそこにあるはず。

レイン

つまり、あんたは約束を守ってくれたわけだ。

レイン

ここまで守ってくれたこと、感謝してる。

レイン

だから、こっから先は、また敵同士だ――

レイン

どっちが先に秘宝を手に入れるか、競争だよ!

そう言うと、返事も聞かずに走り出す。

リチャード

あっ

目指すは奥へ、奥へ。秘宝に向かって、一直線に――! とっさのことに、スネイクも、ククリも引き止めるのが間に合わない!

ククリ

「あっ」じゃないわよ馬鹿!

スネイク

待ちやがれ!

続く

38 踊れ、唯唯似つかわしく その7

facebook twitter
pagetop