突然姿を見せたのは正体不明の青白い男――
リザだった。

 そのリザの登場に、全員が目を見開く。ただでさえ大変な状況なのに、不安要素の塊と言えるリザの登場は事態を悪化させるには充分だったからだ。ジュピターは初見だったが、話に聞く男だと一瞬で理解していた。



 しかしそんな状況下で一人、ロココだけがリザの登場を予見していたかのように動揺を見せなかった。

リザ

アルパガスよ。
今すグ排除しテやル。

ロココ

貴方が来るのは
分かっていた。
新型を使えば
必ず来るって……

リザ

アルパガス、
そンな事の為ニ
調和ヲ乱シたノか。

ロココ

この状況を突破するには
仕方なかったんだ。

 リザの登場に驚いていたハル達だが、現状に冷や汗が止まらなかった。

 なぜなら、宙に浮く魔物は消えていなかったからだ。新型刻弾で5,6体は消し去ったが、まだまだ予断を許せぬほどいるのだ。



 皆、満身創痍の状態だったが、唯一の希望だった本体撃破による消滅は、甘い幻想と思い知らされた。ユフィが苦悶の表情を歪めたが、アデルは諦めていなかった。

アデル

ロココは気付いていた。
状況を打開する為に……
ということはまさか、
リザに魔物を……

リザ

愚か者ガ。
何故我がユデアの子らニ
手を貸さねバなラんのだ。

アデル

そ、そんな……

リザ

パトリダの調和を守る為に
我はこコに居ルのだ。
パトリダの一部デあル
我が分身達を何故
排除セネばなラん。

ランディ

ッチ!
やっぱ話がヤバい方向に
行ってるじゃねーか。

 ランディは宙に浮く魔物に警戒しながら歯を食い縛る。今のリザの言葉で明確になった。状況はやはり最悪と言えるものになっていたのだ。



 宙に浮く魔物を生み出すあの魔物を倒す為だったとはいえ、新型を使用しリザを呼んでしまう結果。かつて、リザ一人に対して圧倒的戦力で抑え込まれた記憶が蘇ってきた。

 前回はダナンの強靭な毒耐性を知らなかったリザの不意を突けたが、今はダナンがいない。例えここにいても、多彩な戦術を持っていそうなリザに対抗しうるかは怪しい。それにリザももう油断はしてこないはず。



 リザの攻撃指令を待つように滞空する魔物達に囲まれ、ハル達は地上への階段を目前にして、完全に追い詰められた。

ロココ

大丈夫です。
帰れます。

ユフィ

!?

 これまでにない絶体絶命の状況下で、ロココは静かに言った。決して自信家でないロココの断定された言葉に、ユフィ達は光明を感じざるを得なかった。

リザ

こコに運命の者・ミラは
イない。
なラばアルパガスを前に
見逃す手はナい。
容赦はセん!

 リザは左手を胸の前方にゆらりと移動させた。宙に浮く魔物達に指示を出す寸前なのは誰にでも分かった。

ロココ

僕は知っていたんです。

リザ

それハもう聞いタ。

ロココ

ここから無事に帰る事も
知っている。

リザ

ジュピター

ロココ、
さっきから
何言ってんだ?

ロココ

夢で見たんです。
僕には未来が
見えるんです。

 突飛なことを語り出すロココは静かながら真剣そのものだ。全員が息を呑む中、ロココは告白とも言える言葉を続けた。

ロココ

ハッキリと全てが
見える訳では
ないんですが
確実なんです。
確実に起こる未来が、
僕には見えるんです。

アデル

そ、そんな事って……

ランディ

そう言えば
あの時の夢の話……
馬鹿みたいに笑って聞いてた
あれもそうかよ。

 ランディが思い出したのは、以前酒場で馬鹿騒ぎして話していたロココの夢の話。

 数十年後の皆の話だったが、すぐに象徴するような正夢になったあの夢のことだ。

アデル

あんなの
ただの偶然じゃ……

ロココ

僕もずっと
そう思っていました。
だけどどんどんと
見るようになって、
そして徐々に具体的で
現実的になって
僕怖くなって誰にも
言えなくなってしまって……

ジュピター

そんな事が、
いや力か?

ユフィ

人間が持つ未知なる力。
もしかしてロココは
それに目覚めて……

 ユフィの目的である、人間の未知なる力。それは妹のネピアを救う為の微かな希望。発言する人によりその能力は違うと伝えられているらしいが、ロココもそれらしい力に目覚めつつあるかもしれない。さしずめ『予知夢』と言ったところだろうか。

ランディ

それなら、俺達が
此処を出られる
予知夢でも見たのか?

ロココ

はい。

ジュピター

ホッ。
それならいいじゃん。

リザ

フッ。
そレは面妖な。
しかシそレが本当なラ
何故暗イ顔しカ零れぬ?

 リザが会話に入ってきたのは都合がよかった。だが、それに対するリザのセリフは核心を突いたものだった。



 皆、違和感を覚えていた。なぜ良い未来が見えているのに、ロココは浮かない顔をみせるのか?

 アデルは先ほど無理矢理気味に渡されたエキスの小瓶を思い出した。

 ユフィも思い出していた。ロココが怖くなったと語ったことを。

 ランディは凶示を司る流星を思い出した。

帰るメンバーに

入っていないんです

僕は……

 ~編章~     212、質問の核心

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