踊れ、唯唯似つかわしく その6

スネイク

ぽけー

ククリ

冗談にしても笑えないわよリチャード。

リチャード

俺は冗談なんて言わんぞ。依頼に関してはな――

リチャードとレイン、そしてブラックガードの面々。向かい合い高まる緊張感!

アルマド

つまり、あなたはペッパー氏を裏切り、その盗賊団の娘に味方するということですね?

レイン

~~~~~~

リチャード

裏切るとか味方するとか、そういうことではないんだがな……

ククリ

問答無用! 行けスネイク!

スネイク

ええ! 俺!? お、俺、無理……

リチャード

そっちが無理でもこちらは容赦しないぞ。

スネイク

うわ、わ、マジかよ……!?

リチャード

行くぞスネイク、これは実戦だ!

リチャード

――――

勇ましく畳み掛けるリチャードが沈黙する。おでこに……重し付きの矢!

あまりの痛みにうずくまったところに、天から降る、無慈悲なおみ足。踵落とし。

ククリ

死に……あそばせッ

それを食らってはひとたまりもない。地に伏したままぐるぐると回転、回避する。

リチャード

フッ……ハッ

回転の勢い利用しそのままロス無く跳ね上がる。

――そこに!

アルマド

トリオン・レン!

リチャード

ぐああああぐッッッッ

雷系基本術。さほど威力は無いが、相手の行動を止めるには十分!

スネイク

うおおおおおおああああああ!

その頃にはすでに覚悟を決めたスネイク。右から左から息をつく間もなく繰り出される連撃を必死にさばくも、先程のダメージが仇となる……!

弾かれ、空を舞う剣。

リチャード

しまっ……!

身を守ることすらままならぬ。強烈な右ストレートが、リチャードの腹をえぐる。

リチャード

……………ッ……ァ……ッ

残念ながら――決着である。

リチャード

……うぐぐ、ぐ……

レイン

どうして……そこまで……

レイン

そもそもあんだけ連続で戦ってたんだから……無理だよ……

逃げられぬよう手首足首を軽く縛られたレインと、暴れ出さぬよう簀巻きにされたリチャード。

ククリ

どうしてはこっちのセリフよ。あなた、いったいどんな魔法を使ったのよ。

レイン

何もしてねーよ……こいつが、勝手に……

スネイク

とにかく、だ。ようやく捕まえた。

スネイク

楽しいおしおきの時間だぜ~~げっへっへ。

ククリ

あら、スネイクでもそんなこと言うのね。なにするつもり?

スネイク

え? ほっぺたをつねる。

かわいい……!

アルマド

さて……リチャードがここまでするんです。事情を聞かせてもらえませんか。

レイン

…………

レイン

あんたたちは、ペッパーがどんなやつか、知ってて依頼受けてんの?

レイン

そうだとしたらあんたたちも、とんだクズ野郎だ。

アルマド

……わたしたちは正義の味方ではありませんからね。

アルマド

依頼人に後ろめたいことがあろうと、相当の報酬をいただけるのであれば、こなす。

アルマド

それが、我らが事務所の方針です。

レインはすでに言葉もなく。その表情はどんどんと曇り、瞳の色は濁っていく。

アルマドは、ただ、と前置きし。

アルマド

事実関係を把握しておくのは重要だと、わたしは思います。

アルマド

あなたがなぜペッパー氏の邪魔をするのか。なぜ盗賊まがいのことをしているのか。教えてもらえませんか。

レイン

あんたたちが……あんたたちみたいなのがいるから……

レイン

なんで悪者ばかり……のうのうと好き勝手に……

レイン

あいつは、人殺しなんだぞ……そんなやつの言うことを聞くなんて……ッ

ククリ

……さすがに、それは聞き捨てならないわね。どういうこと?

レイン

あいつは……父さんを……罠にかけて殺したんだ。

レイン

骨董品や秘宝についての考え方は、父さんとペッパーで違ってた。

レイン

ペッパーは、貴重な秘宝を独り占めするために……父さんを……ッ

何ということだろう。それにペッパーとレインは兄妹と言っていなかったか。つまり、彼は親殺しの狂人だったと言うことなのか。

ククリ

……ワオ。

レイン

それでも依頼を続行するの? フン、とんだ道化だよね……

アルマド

………

しばし瞑目する――

アルマド

ちょっと、事情が変わりましたね。

アルマド

さすがに、殺しは大罪です。もしそれに協力したら、わたしたちも罪に加担することになる。

アルマド

その話が本当なら、少し考えなくてはなりませんが……

リチャード

いや、その必要はない。

レイン

!?

いつの間にか、意識を取り戻したリチャード。格好は相変わらず簀巻き状態だが。

リチャード

この前も言ったが、依頼人の事情など関係ない。

リチャード

依頼請負人と依頼人の関係は、ただ依頼のみ。それ以外のことなんて考える必要がないんだ。

レイン

いや、いやいやいや。話聞いてたのかよ? その依頼人が人殺しの犯罪者なんだぞ?

リチャード

お前が、嘘を言っている可能性だってある。

レイン

あ……あ……?

リチャード

ペッパー氏はお前のことを盗賊と呼んでいるんだな?

リチャード

そしてレイン、お前はペッパー氏のことを人殺しと。

リチャード

お互いがお互いを罵ってるわけだ。部外者に、どうやって真実がわかる?

リチャード

だったら俺は、そこに立ち入らない。頼まれた依頼にのみ、全力を捧げよう。

自信満々のリチャード。ある意味、潔い。しかしそれは一方で――

スネイク

……リチャードよ。俺が言うのもなんだが、それは流石に考え無しじゃねえか?

スネイク

そんなんだと、腹黒いやつに利用されちまうぜ……

リチャード

だろうな。

ククリ

だろうなって……

リチャード

どうせ、人を利用しようとするやつは、どれだけ警戒したって利用してくるんだ。それを避けようとするのも大事だが――

リチャード

本懐を忘れるのは論外だ。依頼請負人が依頼を全うせず、どうする? 

アルマド

……まあ一理ありますね。

ククリ

じゃあ、秘宝をペッパーさんに渡すって依頼のことは忘れてないわけね?

ククリ

それ聞いて安心したわ。縄は、解いてあげる。

リチャードの縄をほどいていく。しかし、当然と言うかレインの拘束はそのままだ。

レイン

チクショウ……なんだよそれ……

レイン

用心棒をするとかなんだとか、結局お仲間と合流するための……口実かよ……

レイン

あんなに戦ってくれるなんて、って少しでも思ったあたしが……バカ、み、た、い。

レイン

結局……口ではいろいろ言ってたくせに……悪者の味方かよ……

レイン

ペッパーは人殺しだって言ってんだろ……! なんでそんなやつにばっかり、話聞くやつが、出てきやがるんだ……!

レイン

馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎……!

レイン

あたしを助けてくれるやつは、だれも……いなかったのに……

絞り出すような憤り。振り上げた拳の落とし所が無いかのような。

その拳も拘束された今、ただ身を震わすことだけが許された行為。

リチャード

…………

レイン

あたしを……助けてよ……

リチャード

…………

それに、リチャードは――

ククリ

リチャード!?

レイン

……どういうつもり?

拘束具を切り払い、自由にしたのだ。

リチャード

言ったとおり、俺は依頼を重要視する。

リチャード

レインを秘宝のもとに連れて行く、それまで身を守ると約束した。

リチャード

ならば俺はそれを全うするだけだ――

ククリ

ズコ―――――

ククリ

まったくもう、めんどくさいんだから……

アルマド

こうなってしまえば仕方ありません。反抗しないのであれば、連れていくしかないでしょう。

リチャード

それに俺の言ったとおり、サートゥラクラッドを使わずにいてくれたからな……

リチャード

その代わりの戦力は必要だろう。

レイン

………………

レイン

……つくづく、変なやつだよ。あんた……

レイン

けど、秘宝のところまで連れて行ったところで、あたしに渡す気はないんだろ。

レイン

そんなの、意味あんの……?

リチャード

そうしたら、そのとき改めて喧嘩、だな。

リチャード

お前の持ちうるあらゆる手段を使って、奪ってみろ。もちろん俺たちも容赦しないがな――

レイン

強いやつが好き勝手言いやがって……あたしにできることなんて……

ククリ

じゃあ行きましょうか?

ククリ

宝石の片割れはここにあるわ。もう片方がこの先にあるのよね?

レイン

え!? なんでまだ持ってんだ? ペッパーに渡してなかったのかよ?

何故か驚きの色を示すレイン。

アルマド

なぜです?

アルマド

確かにわたしたちも一度は彼に渡そうとしたのですが。

アルマド

「あなた方が持っている方が安心だから」とのことで、そのまま預かっているんです。

レイン

いや……別にいいけど……

レイン

それってつまりそういうことかよ……

レイン

ペッパー……お前ほんと、どこまでも……

レイン

(だったら、あたしもそれを利用してやる――)

レイン

わかった。行こう。

様々な思惑を抱え、一行は奥に進む――!

続く

37 踊れ、唯唯似つかわしく その6

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