踊れ、唯唯似つかわしく その5

巨人――!

巨大な拳の一撃を、全力で回避する。

リチャード

ハッ

天より瀑布の如く振り落とされる拳。持ち上げられるその瞬間を狙い斬りつける。……しかし。当てることには成功したものの、表層を薄く切り裂いた、のみ。有効打には程遠い……!

リチャード

ハッハッハッ 頑丈なことだ……!

拳の嵐をくぐり抜けつつ、接近する。狙いは――足。

リチャード

これでどうだ――!

飛び上がり、そのまま体重を乗せた一撃! 足の甲を縫い付けんばかりに突きつける……!

刀身の三分の一ほど突き刺さり、頭上からは地獄のような苦悶の唸り声が聞こえる。効いている……! 素早く剣を引き抜き、

リチャード

ぐぉ……ゴッ……ォア……ッ!

脱するのが僅かに遅かった……! 痛みに耐えかね縦横無尽に暴れだした巨人の暴風に、巻き込まれた。

吹き飛ばされ壁に叩きつけられるリチャード。肺の空気を無理やり押し出され、呼吸ができない!

レイン

リチャード! 

レイン

だああも、バッカじゃねえの、バッカじゃねえの……!

ポケットに手を入れる。

レイン

緊急事態だ。これで使うなとか言うなよ……!

リチャード

いいや、言うぞ俺は。

リチャード

そいつを使うのは最後の手段。俺がくたばった後にしてほしい。

リチャード

依頼人に戦わしたとあっちゃ、用心棒の面目が立たんのでな……!

かっこいいセリフだが、壁にめり込んだ状態で言う言葉ではない……! レインは頭をわしわしとかきむしる。

レイン

あーもう、あーもう! どうすりゃいいんだよ…・・!

レイン

あんたがやられちまったら、あたしだってピンチなんだぞ。それまで待ってられるかよ……!

リチャード

それについては信じてくれと言うしかないな。

レイン

いや、だからやられてんじゃん……!

リチャード

俺だけじゃなく、俺たちのことを。

リチャード

俺がここで耐えているのは――

またしても振り上げられた拳……!

―――――その時!

ほとばしる雷火! 痛みに耐えかね、巨人の拳はリチャード直撃のコースをわずかにそれる。

アルマド

リチャード! 無事ですか!

ククリ

あらまあまあ、随分ボロボロになっちゃったわね。それじゃ、後は任せてちょうだい。

スネイク

ヒェーーーー巨人!

リチャード

――頼りになる、仲間たちだ。

アルマド

わたしの詠唱が終わるまで援護をお願いします!

スネイク

よしきた。鉄砲玉なら任せろ!

リチャード

俺とスネイクで撹乱する。――行くぞ!

駆け出す二人。どれだけ強大な相手といえ一体。複数方向から攻撃に打つ手などあるはずがなく。

攻撃の手は定まらず、スキを狙われては切り裂かれダメージを負うのみ……!

そんなことはなかった……!

腕をカマのように構え、広範囲を狙った横殴りの嵐。さながら津波の如き様相……!

近づくことなどまるで叶わず、リチャードとスネイクは仲良く弾き飛ばされた。

スネイク

ヒギョーーーーーー!

ククリ

うへえ、あんなのほんと近づきたくないわね……オラァ!

アルマドが攻撃の対象になるのを防がねばならない。的確な射撃で腹・胸・顔を狙う。

見事! 的がでかいとは言え、さすがの命中力である。――――が。

ククリ

怯むって言葉を学習してこなかったのかしらーーー!?

リチャード

急所が人と違うのかもしれない! 攻撃を続けてくれ!

ククリ

はいはい、任せなさい……矢は大量に用意してありますからね。

どこから取り出したやら、万を超えるかと思えるような矢筒……!

アルマド

――――

いけない! 詠唱中の動けぬアルマドに、拳が迫る。

リチャード

させるか――――ッ!

間に滑り込むリチャードの捨て身のガード。顔面にぶち当たる。痛い! ただそのお陰で、拳の進行を食い止めることに成功、

していない……! わずかに速度を緩めたのみ。依然リチャードごと押し込みながらアルマドに迫る!

スネイク

脱出だ! 行くぞウフォーーーーー!

スネイクの秘策! アルマドの後ろから大きく上体を低くして滑り込み……股の間から顔を出す。

何事……!? なんと、肩車である!

アルマド

――――

アルマドを抱えたまま右へ左へ駆け抜け、嵐のような巨人の攻撃をかわすスネイク。

アルマドが黙って肩車を受け入れるわけもないが……!? ……幸いかな、詠唱に集中しており異論を挟む余裕はなさそうだ。

スネイク

ホッ

スネイク

ホフッ

スネイク

ホッホ……ヒ―!

軽やかに避ける! 避ける……! 上でアルマドが揺れる、揺れる……!

しかし機動力を得た魔術師。動きが止まりがちの彼らにとってこのアシストは強力な武器となりえる……!

アルマド

――よし、行けます! ぐええ、なんですかこの場所……

アルマド

ですが、この程度で集中は切らしませんよ――

アルマド

ファーバ・アトカシア!!

地より湧き出る氷柱……! 氷系広範囲魔術。その柱に触れた存在は瞬時に凍結し体の自由を奪われる!

そして!

終わらない終わらない……! 幾重にも連なる氷柱が周囲の温度を確実に奪っていく!

巨人は足を、腕を固められ身動きできず。なおも動こうと無理やり体を震わすも――

拳は、肩の付け根からもろく崩れ落ちた。

更にもがく巨人の左手首が、右足が腿から、そして支えを失った上体が地面に落下し――

――地に堕ちては粉々に砕け散った――

アルマド

――さようなら、です。

物理的な体をもつ存在なら避けようもない、必殺の恐ろしい魔術である……!

スネイク

おっしゃーーーー! 勝ったぜーーー!

ククリ

やっぱりこうでなきゃね。4人揃ってたらあたしたち、もしかして無敵なんじゃあない?

リチャード

言わずもがなというやつだ。

アルマド

それはいいんですが、何故かわたし吐き気がするんですが、ちょっと横に、

秘策の後遺症!

レイン

まさか本当に勝っちまうだなんて……

戦いも収まり、後方からレインが歩いてくる。

リチャード

信頼には答えねばならんからな。

レイン

別に信じてねーし……

ククリ

あっその娘。リチャード、とっ捕まえて!

リチャード

捕まえる? なぜだ?

スネイク

なぜってオメー、そいつも秘宝を狙ってんだろ? 敵じゃねえか。

レイン

……!

再び緊張していく空気。そもそも彼らの第一目的は秘宝なのだ。何を優先するかなど考えるまでもない。レインは、どんな状況になろうと対応できるよう、体勢を整えていく――

リチャード

……なるほど、こうなってしまうか。

その中でリチャードだけが、何故か――薄く笑う。……楽しくて、仕方がないとでも言うように。

リチャード

ククリ。さっきのセリフにこう返そう。「娘を捕まえろ? それはできない」

レイン

!?

ククリ

は! へ!?

リチャード

俺は、依頼を受けてしまったからな……こいつを無事秘宝のもとまで連れていくと。

リチャード

それを邪魔するなら、お前たちといえど、容赦はしない。

武器を構え、まるでレインを守るかの姿勢。これはいったいどういうことか……!

ククリ

えええ、どーしてそーなるのーーー!?

スネイク

イカれちまったのかよリチャード!?

レイン

ば、ばか……よくわかんないけどバカじゃねーのあんた……

リチャード

どうかな? この上なく冷静なつもりなんだがな……フフッ、フッ

第二ラウンドの火蓋が切られてしまうのか……!?

アルマド

どなた、か、後で、顛末教えて、くれます……?

休んでいて話題に出遅れるアルマド……!

続く

36 踊れ、唯唯似つかわしく その5

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