踊れ、唯唯似つかわしく その4
…………
セントファーンの町中を進むアルマド。遺跡にも向かわず、どこへ?
噴水広場に入ったところで足を止める。ベンチに、見知った顔。
よお。言伝受け取ったぜ。
呼び出してすみません。術理に詳しい方の話を聞きたかったので。
真っ暗な輝き……赤い宝石、ね。確かに術理を封じ込めた魔道具ってのはこの世にあるけどよ。
けど、魔術師のあんたが違和感を感じたんだ。普通じゃないと思ったんだろ?
ええ。あれは魔術特有の匂いのようなものが感じられなかった。
リーグレンは、アサタやエドリアに比べると魔術や風水術がそこまで盛んじゃないって思ってたけどよ。
そういう、謎の術が栄えてたのかもしれねーな、昔は。
おたくらが探してる秘宝だかも、リーグレン設立以前のものなんだろ? こりゃあ、きっと何かあるぜ。へへ、わくわくするな。
……フォッグさん。
わーってるよ。こんな俺でも術理使いだ。危険な術をいたずらに放置はしねーよ。
よし、任せろ。俺の方でも、その奇妙な術のこと調べてみるよ。
助かります。わたしは手が離せませんのでよろしくお願いします。報酬は――
いいって、いいって今回は。
術のことは俺も興味惹かれるし。それにあんたにはいつもメシをおごってもらってるしな。
おごったつもりは一度もありませんけど。
ええ!? メシ食べる時はあんたが払う手はずになってなかったっけ?
その理屈どこから来るんですか……全部ツケてますからね。
細かいやつだな……
はい、到着。準備はいいわね、あなたたち。
よしきた。でかいモンスターだろうがなんだろうが、かかってこいってんだ。
依頼を優先するのであれば、まずは宝石の片割れを探しましょう。
リチャードも、その過程で合流できる可能性が高いはず。
競争って感じね、ふふ。
二度目の遺跡探索の始まりである――
ボアーーーーーー!
ラオ・レン――
bloooooooooood!!
blooooo…………――――
はあっ きりないわね……!
ですがこの程度であれば……行ける!
へへーっ!俺ら遺跡探索のプロだぜ! この程度の遺跡、鼻歌で攻略できるよなあ!
人聞きの悪い。盗掘の常連みたいな表現、やめてもらえます?
ふたりとも、これ見てくれる?
行き止まりの壁に、2つの出っ張り。
うおっ、これもしかして、どっちが正解でしょう! ってやつ!?
うかつに触んないでね。
さて、手がかりもないし、どうしたもんかね。こういうのって、ハズレ引くとだいたい、ザ大騒ぎ! になるじゃん。
少し待っていてください。
カムナ・レン
風系基本魔術。威力を最小にし、反響音を探る。
こちらのスイッチと天井の間に、空洞を感じます。
チラリ。天井を一瞥し。
よく見ると天井に四角く線が見えますね……おそらく、あそこから何か落ちてくる罠なのではないでしょうか?
つまり、正解はその逆――
なんと! 壁が横にスライドし、地下へ向かう階段が現れたではないか!
おみごと♪
すげえぜアルマド! アルマドこそが真の遺跡探索家――
だから違います。
食い気味の否定……!
一方のリチャード達。
一応自己紹介しておこうか。俺はリチャード。御存知の通り依頼請負人だ。
うん。
いや、うん、ではなくあんたのことも教えてくれると助かるんだがな?
あたしのことなんて、どーだっていいだろ……
それだとずっとあんた呼ばわりだが……
~~~~~~~~~~
……レインだよ。
職業は……フン、なんとなくバレてるよね。盗賊まがいのことして生きつないでるよ。
そうか。
いや、そうかって、そんなことしてる理由とか聞かないのかよ? 逆に拍子抜けなんだけど……
依頼人の個人的な事情には立ち入らない。それが俺のルールなんでね。
ああそう……
さて、どうやって秘宝を探す?
ああ……地図があるんだよ。骨董商だった父さんが残してくれたやつ。あたしはこいつでここまで来たんだ。
地図? なんでそんなものがあるんだ。お前の父親何者……
骨董商の父親? 最近似たような話を聞いたばかりだな。
どうせペッパーからでしょ。そりゃそうだよ、あいつとは兄妹だから。
は? 何? そうなのか。初耳だぞ……
フン、無関心気取ってるからそうなるんだよ……
兄妹の殺し合いに巻き込まれちゃったね。おめでと……くくっ。
まあ……それはいい。
じゃあ、驚かされついでに、これだけは聞いておこうか。
レインの持っている宝石について教えてくれ。
そのとんでもない力は何なんだ? それに、どことなくサートゥラクラッドにも似てる気がする――
……これも父さんの形見。あたしが取り返すことができたのは、この宝石と地図だけ。ほかはみんなペッパーに奪われてしまった。
あたしも詳しく知らないけど、多分似たようなものなんじゃないかな……
サートゥラクラッドのかけらが対になってるってのは聞いてる? あたしが持ってるこれは――きっと、サートゥラクラッドが結合したもの。
待て。話がおかしくないか? サートゥラクラッドはこの遺跡にあるんだろ? なんで結合後の宝石をレインが持ってるんだ?
そんなもの、サートゥラクラッドのかけらがたくさんあるからに決まってんじゃん――
!
ふぅ、とため息をつき、軽く瞑目するリチャード。そして半ば自分に確認するように。
整理させてくれ……サートゥラクラッドはこの遺跡に封じられている。しかし、それだけでなく――
いろいろな他の場所にも封印されており……お前が持っているのはその一つだった、と言うことか?
そーいうこと。
知られざる事実。この国は、まだまだ解き明かされていない謎が満ち溢れている――
しかし妙だな。そんなにたくさんあれば、冒険者の間で話題になってもよさそうなものだが……
ああ、と相づちを入れつつ。
……骨董商はさ、ただ曰く有りげな品物を売るだけじゃないんだ。
かつては乱世で使われたりした魔具とか……今の世に出しちゃいけないようなもの。
そういうのを人知れず闇に葬るのも仕事のうち。昔、父さんはそう言ってた。
……なるほど。それが正しいかは俺は判断できんが……強い意志を持っていたようだな。
それに、サートゥラクラッドが見つかってなかったのはもっと簡単な話で、
――――
何か言ったか?
いや……何も。
こいつは味方じゃないんだ。全部教えたら、有利にさせちゃう……
……まあいい。
それで、次はどっちへ向かう?
んー、ちょっと待って。
ここって多分、地図のここの地下だよな……だったら、……
こっちに行こう。
任せろ。
その時、奥からズリズリと耳障りな音が反響する……!
ブクブクブク……
プクプクプク……
ボヤ……ボャ……ャ
不定形の怪物ども……! 武器による攻撃の効きにくい相手だ。アルマドがいなくては苦戦を強いられるだろう――
うーー気持ち悪いッ……全部ぶっ飛ばしてやるよ!
待てレイン。あんたは手を出すな。
は?
いや、だって、めちゃくちゃいるじゃん。あんた一人でどうやって倒すんだよ……
ちょっと思うことがあるんでね――あんたに頼るのは最後の手段だ。
レインを置き、敵の群れに突撃するリチャード。
プクプクプク……
薙ぎ払うも、剣は切り裂くこと叶わず。その体に刀身が埋まってしまう……!
ふむ。
言わんこっちゃない……! かっこつけてるからだバカ!
剣が刺さったままのモンスターは、さしたる痛痒も見せず剣の柄に向けて少しずつ這っていく。
リチャードは敵を真っ二つにするのを諦め、モンスターがぶら下がったままの剣を大きく振り回す。振り落とすつもりだ! しかし、
あ
場所が悪かった。振り回した剣は壁にぶち当たり、哀れなモンスターは圧死! ……残骸がボトリと地に落ちる。
…切れずとも、物理的なダメージが効かないわけじゃないんだな?
うおおおおおおおお!
グミ――――――!!
柔らかいモンスターの土手っ腹に、剣の平を叩きつける。パァァン……! 水面に木の板を叩きつけたような炸裂音! モンスターは細切れに吹き飛ぶ。
よし、行ける!
後ろ! 気をつけろ!
レインが声をかけるまでもなく。後ろに忍び寄っていた者の攻撃を、振り向くよりも早く剣でさばく。
UOOーーーーーーーーーーー!
ムッ……!
弾いたはいいが、それは腕や体当たりなどではなかった。細くしなる触手……! 触手は素早く、ぐるぐると剣に巻き付く。ガッチリと押さえつけられ、これでは振るうことができない!
チッ……! 力比べか? 受けて立とうじゃないか……!
ああもう、ああもう、見てらんない……!
吹きとばせサートゥルス……!
よせッ―――
……フガ……
絞られたエネルギー。宝石から放たれたそれは、モンスターの体に風穴をあけ貫通していった。焼け焦げたような風穴を晒し、モンスターはグズグズと崩れ落ちた。
フフン。あたしだって、威力の調整くらいできるんだ。
…………
もはや動く敵はいない。なのになぜかリチャードは厳しい表情。
……なんだよ。怒ってんの? 手を出したから……だって、普通にピンチだったじゃんか。
…………
それには答えず――――
!? チッ……どこでもいい、伏せていろ!! 頭を守れ……!
は? な、なん――
前触れもなく、“それ”は再び現れた――
―――――巨人――――!
うああ、あ……また……
やはり……な……!
こんな遺跡で、異常な強さの怪物。あんたと交戦すると、それに引き連られるかのように現れる怪物。
その宝石! そいつがこの怪物共を引き寄せてるんだ!!
え!? あ、え……え!?
いいか! 二度とそいつを使うな! 使えば更に厄介な敵が現れる。
なんとかしてこれで終わりにするんだ!!
む、無理だよこんな怪物相手に……! サートゥラクラッドがなきゃ……!
そいつはやってみなきゃ……わからんぞ。俺たちは邪神を倒したことだって、ある――
一呼吸。
お手並み拝見と行こうかデカブツ! お前を地に叩き伏せてやる!!
裂帛の気合……!
続く
リチャードの見せ場ですね…!
多数のモンスター相手にも怯まず、最後の啖呵も格好いい…さすが主人公!
そしてサートゥラクラッドとは何なのか?レインも何かを隠しているし、謎が深まります…!