踊れ、唯唯似つかわしく その4

アルマド

…………

セントファーンの町中を進むアルマド。遺跡にも向かわず、どこへ?

噴水広場に入ったところで足を止める。ベンチに、見知った顔。

フォッグ

よお。言伝受け取ったぜ。

アルマド

呼び出してすみません。術理に詳しい方の話を聞きたかったので。

フォッグ

真っ暗な輝き……赤い宝石、ね。確かに術理を封じ込めた魔道具ってのはこの世にあるけどよ。

フォッグ

けど、魔術師のあんたが違和感を感じたんだ。普通じゃないと思ったんだろ?

アルマド

ええ。あれは魔術特有の匂いのようなものが感じられなかった。

フォッグ

リーグレンは、アサタやエドリアに比べると魔術や風水術がそこまで盛んじゃないって思ってたけどよ。

フォッグ

そういう、謎の術が栄えてたのかもしれねーな、昔は。

フォッグ

おたくらが探してる秘宝だかも、リーグレン設立以前のものなんだろ? こりゃあ、きっと何かあるぜ。へへ、わくわくするな。

アルマド

……フォッグさん。

フォッグ

わーってるよ。こんな俺でも術理使いだ。危険な術をいたずらに放置はしねーよ。

フォッグ

よし、任せろ。俺の方でも、その奇妙な術のこと調べてみるよ。

アルマド

助かります。わたしは手が離せませんのでよろしくお願いします。報酬は――

フォッグ

いいって、いいって今回は。

フォッグ

術のことは俺も興味惹かれるし。それにあんたにはいつもメシをおごってもらってるしな。

アルマド

おごったつもりは一度もありませんけど。

フォッグ

ええ!? メシ食べる時はあんたが払う手はずになってなかったっけ?

アルマド

その理屈どこから来るんですか……全部ツケてますからね。

フォッグ

細かいやつだな……

ククリ

はい、到着。準備はいいわね、あなたたち。

スネイク

よしきた。でかいモンスターだろうがなんだろうが、かかってこいってんだ。

アルマド

依頼を優先するのであれば、まずは宝石の片割れを探しましょう。

アルマド

リチャードも、その過程で合流できる可能性が高いはず。

ククリ

競争って感じね、ふふ。

二度目の遺跡探索の始まりである――

ボアーーーーーー!

アルマド

ラオ・レン――

bloooooooooood!!

blooooo…………――――

ククリ

はあっ きりないわね……!

アルマド

ですがこの程度であれば……行ける!

スネイク

へへーっ!俺ら遺跡探索のプロだぜ! この程度の遺跡、鼻歌で攻略できるよなあ!

アルマド

人聞きの悪い。盗掘の常連みたいな表現、やめてもらえます?

ククリ

ふたりとも、これ見てくれる?

行き止まりの壁に、2つの出っ張り。

スネイク

うおっ、これもしかして、どっちが正解でしょう! ってやつ!?

ククリ

うかつに触んないでね。

ククリ

さて、手がかりもないし、どうしたもんかね。こういうのって、ハズレ引くとだいたい、ザ大騒ぎ! になるじゃん。

アルマド

少し待っていてください。

アルマド

カムナ・レン

風系基本魔術。威力を最小にし、反響音を探る。

アルマド

こちらのスイッチと天井の間に、空洞を感じます。

チラリ。天井を一瞥し。

アルマド

よく見ると天井に四角く線が見えますね……おそらく、あそこから何か落ちてくる罠なのではないでしょうか?

アルマド

つまり、正解はその逆――

なんと! 壁が横にスライドし、地下へ向かう階段が現れたではないか!

ククリ

おみごと♪

スネイク

すげえぜアルマド! アルマドこそが真の遺跡探索家――

アルマド

だから違います。

食い気味の否定……!

一方のリチャード達。

リチャード

一応自己紹介しておこうか。俺はリチャード。御存知の通り依頼請負人だ。

レイン

うん。

リチャード

いや、うん、ではなくあんたのことも教えてくれると助かるんだがな?

レイン

あたしのことなんて、どーだっていいだろ……

リチャード

それだとずっとあんた呼ばわりだが……

レイン

~~~~~~~~~~

レイン

……レインだよ。

レイン

職業は……フン、なんとなくバレてるよね。盗賊まがいのことして生きつないでるよ。

リチャード

そうか。

レイン

いや、そうかって、そんなことしてる理由とか聞かないのかよ? 逆に拍子抜けなんだけど……

リチャード

依頼人の個人的な事情には立ち入らない。それが俺のルールなんでね。

レイン

ああそう……

リチャード

さて、どうやって秘宝を探す?

レイン

ああ……地図があるんだよ。骨董商だった父さんが残してくれたやつ。あたしはこいつでここまで来たんだ。

リチャード

地図? なんでそんなものがあるんだ。お前の父親何者……

リチャード

骨董商の父親? 最近似たような話を聞いたばかりだな。

レイン

どうせペッパーからでしょ。そりゃそうだよ、あいつとは兄妹だから。

リチャード

は? 何? そうなのか。初耳だぞ……

レイン

フン、無関心気取ってるからそうなるんだよ……

レイン

兄妹の殺し合いに巻き込まれちゃったね。おめでと……くくっ。

リチャード

まあ……それはいい。

リチャード

じゃあ、驚かされついでに、これだけは聞いておこうか。

リチャード

レインの持っている宝石について教えてくれ。

リチャード

そのとんでもない力は何なんだ? それに、どことなくサートゥラクラッドにも似てる気がする――

レイン

……これも父さんの形見。あたしが取り返すことができたのは、この宝石と地図だけ。ほかはみんなペッパーに奪われてしまった。

レイン

あたしも詳しく知らないけど、多分似たようなものなんじゃないかな……

レイン

サートゥラクラッドのかけらが対になってるってのは聞いてる? あたしが持ってるこれは――きっと、サートゥラクラッドが結合したもの。

リチャード

待て。話がおかしくないか? サートゥラクラッドはこの遺跡にあるんだろ? なんで結合後の宝石をレインが持ってるんだ?

レイン

そんなもの、サートゥラクラッドのかけらがたくさんあるからに決まってんじゃん――

リチャード

ふぅ、とため息をつき、軽く瞑目するリチャード。そして半ば自分に確認するように。

リチャード

整理させてくれ……サートゥラクラッドはこの遺跡に封じられている。しかし、それだけでなく――

リチャード

いろいろな他の場所にも封印されており……お前が持っているのはその一つだった、と言うことか?

レイン

そーいうこと。

知られざる事実。この国は、まだまだ解き明かされていない謎が満ち溢れている――

リチャード

しかし妙だな。そんなにたくさんあれば、冒険者の間で話題になってもよさそうなものだが……

ああ、と相づちを入れつつ。

レイン

……骨董商はさ、ただ曰く有りげな品物を売るだけじゃないんだ。

レイン

かつては乱世で使われたりした魔具とか……今の世に出しちゃいけないようなもの。

レイン

そういうのを人知れず闇に葬るのも仕事のうち。昔、父さんはそう言ってた。

リチャード

……なるほど。それが正しいかは俺は判断できんが……強い意志を持っていたようだな。

レイン

それに、サートゥラクラッドが見つかってなかったのはもっと簡単な話で、

レイン

――――

リチャード

何か言ったか?

レイン

いや……何も。

レイン

こいつは味方じゃないんだ。全部教えたら、有利にさせちゃう……

リチャード

……まあいい。

リチャード

それで、次はどっちへ向かう?

レイン

んー、ちょっと待って。

レイン

ここって多分、地図のここの地下だよな……だったら、……

レイン

こっちに行こう。

リチャード

任せろ。

その時、奥からズリズリと耳障りな音が反響する……!

ブクブクブク……

プクプクプク……

ボヤ……ボャ……ャ

不定形の怪物ども……! 武器による攻撃の効きにくい相手だ。アルマドがいなくては苦戦を強いられるだろう――

レイン

うーー気持ち悪いッ……全部ぶっ飛ばしてやるよ!

リチャード

待てレイン。あんたは手を出すな。

レイン

は?

レイン

いや、だって、めちゃくちゃいるじゃん。あんた一人でどうやって倒すんだよ……

リチャード

ちょっと思うことがあるんでね――あんたに頼るのは最後の手段だ。

レインを置き、敵の群れに突撃するリチャード。

プクプクプク……

薙ぎ払うも、剣は切り裂くこと叶わず。その体に刀身が埋まってしまう……!

リチャード

ふむ。

レイン

言わんこっちゃない……! かっこつけてるからだバカ!

剣が刺さったままのモンスターは、さしたる痛痒も見せず剣の柄に向けて少しずつ這っていく。

リチャードは敵を真っ二つにするのを諦め、モンスターがぶら下がったままの剣を大きく振り回す。振り落とすつもりだ! しかし、

リチャード

場所が悪かった。振り回した剣は壁にぶち当たり、哀れなモンスターは圧死! ……残骸がボトリと地に落ちる。

リチャード

…切れずとも、物理的なダメージが効かないわけじゃないんだな?

リチャード

うおおおおおおおお!

グミ――――――!!

柔らかいモンスターの土手っ腹に、剣の平を叩きつける。パァァン……! 水面に木の板を叩きつけたような炸裂音! モンスターは細切れに吹き飛ぶ。

リチャード

よし、行ける!

レイン

後ろ! 気をつけろ!

レインが声をかけるまでもなく。後ろに忍び寄っていた者の攻撃を、振り向くよりも早く剣でさばく。

UOOーーーーーーーーーーー!

リチャード

ムッ……!

弾いたはいいが、それは腕や体当たりなどではなかった。細くしなる触手……! 触手は素早く、ぐるぐると剣に巻き付く。ガッチリと押さえつけられ、これでは振るうことができない!

リチャード

チッ……! 力比べか? 受けて立とうじゃないか……!

レイン

ああもう、ああもう、見てらんない……!

レイン

吹きとばせサートゥルス……!

リチャード

よせッ―――

……フガ……

絞られたエネルギー。宝石から放たれたそれは、モンスターの体に風穴をあけ貫通していった。焼け焦げたような風穴を晒し、モンスターはグズグズと崩れ落ちた。

レイン

フフン。あたしだって、威力の調整くらいできるんだ。

リチャード

…………

もはや動く敵はいない。なのになぜかリチャードは厳しい表情。

レイン

……なんだよ。怒ってんの? 手を出したから……だって、普通にピンチだったじゃんか。

リチャード

…………

それには答えず――――

リチャード

!? チッ……どこでもいい、伏せていろ!! 頭を守れ……!

レイン

は? な、なん――

前触れもなく、“それ”は再び現れた――

―――――巨人――――!

レイン

うああ、あ……また……

リチャード

やはり……な……!

リチャード

こんな遺跡で、異常な強さの怪物。あんたと交戦すると、それに引き連られるかのように現れる怪物。

リチャード

その宝石! そいつがこの怪物共を引き寄せてるんだ!!

レイン

え!? あ、え……え!?

リチャード

いいか! 二度とそいつを使うな! 使えば更に厄介な敵が現れる。

リチャード

なんとかしてこれで終わりにするんだ!!

レイン

む、無理だよこんな怪物相手に……! サートゥラクラッドがなきゃ……!

リチャード

そいつはやってみなきゃ……わからんぞ。俺たちは邪神を倒したことだって、ある――

一呼吸。

リチャード

お手並み拝見と行こうかデカブツ! お前を地に叩き伏せてやる!!

裂帛の気合……!

続く

35 踊れ、唯唯似つかわしく その4

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