踊れ、唯唯似つかわしく その3

スネイク

どど、ど、どーすんだよ、リチャードが落ちちまったぞ。リチャードが!

アルマド

落ち着いて。焦っていては、いい策も浮かびません。

スネイク

そんなこと言ったって、ど、ど、ど、

ククリ

……行くわよスネイク。構えて。

スネイク

は? 何が、

スネイク

うわっッッッッと!

強烈なケリをバク転で回避する。立ち上がったところに

間髪入れずに追撃、追撃!

スネイク

うわたっ、た、ほっ!

突き出される拳を手の甲でそらす。弾いた、その僅かなスキを狙い強烈な突き。狙いは右脇腹。決まる、そう思った瞬間。

スネイク

あ……?

相手の体はすでにそこになく、構えを解いた状態。

ククリ

少しは落ち着いたかしら?

スネイク

あ~~~すまね……

今やすっかり冷静を取り戻したスネイク。気合とともに両手で頬をペチリ。

ククリ

それで、どうしましょうかアルマド?

アルマド

もう、考えるのわたしばっかじゃないですか……

ククリ

体使ってない分だけ考えなさいよ。我が事務所は怠け者に厳しいわよ。

アルマド

はいはい、わかりましたよ……

アルマド

……状況が最初と変わっています。一度戻って仕切り直しをしましょう。

アルマド

リチャードなら大丈夫。一人でも持ちこたえてくれるはずです。

ククリ

賛成。あの小娘のこととか、依頼人に聞いてみたいしね。……スネイクも、それでいいわね?

スネイク

おうともよ。

スネイク

そうと決まれば俺は止まらん。出口までの先陣は任せろ!

弾丸のように飛び出していく男、スネイク。

ククリ

あれま。行っちゃった。じゃああたしたちも遅れないようにしなきゃね。

ペッパー

女と交戦した……!?

アルマド

向こうはペッパーさんのことをご存知のようでしたよ。心当たりはありませんか?

ペッパー

そうですね……お恥ずかしながら、商売敵はたくさんいますからね。心当たりありすぎるほどです。

ペッパー

と、言いたいところですが、今回のことならおそらく見当がつきます。

ククリ

ふむ。

ペッパー

最近、わたしの事業を狙って襲ってくる盗賊団がいるんです。蒐集した骨董を奪ったり、壊したり……やりたい放題なのです。

ペッパー

その女が盗賊団のリーダーなのでしょう。……みなさん、お願いがあります!

ペッパー

女は今回もわたしの邪魔をしようと言うのでしょう。あなた方の話を聞く限り、どこからかサートゥラクラッドのことを知ったに違いありません。

ペッパー

彼女に先を越されてはなりません。どうか妨害に負けず宝石の片割れを見つけていただきたいのです!

スネイク

任せろ。俺もあの女には一泡吹かせてやろうと思ってたんだ……!

ククリ

ちょっと待ってスネイク。

ククリ

その妨害って、最初に無かった話よね。

ククリ

つ・ま・り・追加仕様ってことよね? 当然費用がもらえるってことでよろしいのよねえ~?

ペッパー

ひええっ そんな……!

抜け目ない商売人感覚……! ブラックガード事務所のお台所事情が決して劣悪でないのも、ククリの金銭感覚があればこそ!

レイン

う……う……うん……?

目が覚めたかい、お嬢さん。

レイン

だ……れ……

怖い夢でも見ていたかな。

BFOOOOOOOOOO!

レイン

は? え……?

急激に回る血。軽い痛みすら伴いつつ、急激に視界に飛び込んだもの。

それは、優しい誰かの微笑みなどではなく。荒い息を吐きつつ獰猛に迫るモンスターの顔……!

レイン

うわあああああああ!

レイン

!?……あううッ!

尻もちをついた状態から立ち上がろうとしたところに激痛。足だ。足を捻ってしまっている!

BUFOッ! BUFOッ!

レイン

うわ、うわ……! 近寄んな! 消えろ! 消えろォォォ!

いやいやをするように手を前に突き出すも、それで止まるような敵がいようか……!

…………

火が出るかと思うほどの剣閃が走ったかと思うと。僅かな間ののち、モンスターは自分の最期にも気づかぬ顔で崩れ落ちた。

その後ろから、代わりに現れたのは――

リチャード

目が覚めたようだな。

レイン

あんた……

リチャードはどこから見つけたものか、板切れを抱えている。チラリ、少女の足を一瞥してうなずく。

リチャード

やっぱり捻ったようだな。

リチャード

少し痛いが、我慢しろ。

そう言うと、足に板をあてがい紐で縛りだした。満足な道具もない中だが、応急処置にはなろう。

レイン

あ……ありがと。なんで……さっきまで争ってた相手に。

リチャード

別に敵と言うわけじゃないだろう。

リチャード

見捨てていけば、くたばるだろうと思ったからな……こんな日の当たらない地下で死んだとなったら、流石に寝覚めが悪い。

レイン

フン、大きなお世話……誰がくたばるってんだよ。あたしはこの通り、

足に力を入れ立ち上がろうとし、

レイン

――――――――ッ―――ァ……!

レイン

………………ショウ……

レイン

チクショオオオ――ッ!

己の無力さに打ち震えるかのように。

レイン

こんなとこで……止まってる、だなんて……このままじゃ、奪われちまう、あいつに……あいつに全部……!

リチャード

…………

それを見て、リチャードは何を思うのだろう。

リチャード

なあ、あんた。

リチャード

あんたの望みは何だ?

レイン

なんの話だよ……あんたには関係ないだろ……ペッパーの手下なんかに……言うもんか。

リチャード

サートゥラクラッドは対になった宝石だという。

リチャード

一つはおそらくククリ達が手に入れてくれただろう。残り一つ。俺はそれを探すつもりだが、お前は?

レイン

…………

レイン

そんなことしたら……あたしは、あんたを殺す……殺してでも、奪ってやる……

呪詛のようなつぶやき……!

リチャード

その執着ぶり、どうせ諦めるつもりなんて、無いんだろうな。

嘆息、そしてニヤリ。

リチャード

その足で、一人で目的地まで行くのは辛かろう。

リチャード

一つ、提案だ。俺が、用心棒をしてやってもいいぞ――?

レイン

……は?

レイン

何言ってんの? あんたさっき、ペッパーに雇われたって……あたしは、あいつと敵対してんだぞ?

リチャード

俺への依頼は「秘宝を回収してくること」。あんたに提案するのは、「秘宝までの道中を守ってやること」。

リチャード

そこに矛盾は、発生しないんだな――

レイン

いやいやいや、そんなの屁理屈じゃん……

レイン

どっちにしろペッパーにバレたら裏切りと思われるよ……何それ意味分かんない……そこまで金が欲しいの?

リチャード

我が事務所も金食い虫が3人もいて資金繰りが大変なんでね……

リチャード

金がむしり取れそうな案件には、意地でも齧りつくって腹づもりさ。

リチャード

それに、あんた、一人でやってきたってことは秘宝を探す当てがあるんだろ?

リチャード

俺の当ては仲間のもとに置いて来てしまったからな。俺の方も、あんたと一緒に行けると助かるんだがな?

リチャード

どうする? このままここで死ぬか、金とプライドを払って助けてもらうか。難しくない選択だと思うがな――?

悪魔的誘い……!

レイン

――――

それに少女は――

レイン

そんなの……あたしだって生きたいよ……でも……

レイン

…………ッ…………

レイン

あたしを裏切ったら、殺してやるから……

リチャード

それは、好意的な反応と見て良さそうだな?

リチャード

よろしく、依頼人。

かくして、ここに奇妙な契約関係が生まれたのだった……!

続く

34 踊れ、唯唯似つかわしく その3

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