『ユリちゃん』

今回のお話には

笑い要素はございません。





知人の身辺にあった

少し不思議な話を載せます。


























私が前の職場にいた頃の話です。

在籍期間が長かった私の周りを見渡せば

転勤してきた頃から居るメンバーは

私以外に二人だけとなっていた。



そのうちの一人の長老はよく働くお方で

とても優しいお方でした。

褒めちぎると、

これを読んだ時に

「嘘くさい」

と言われそうなので

これ以上は割愛しますw



――とある日の残業後の帰り道。



チャリンコ通勤のナンチャイは

定時で帰っていた長老と出会いました。



長老はとても可愛い柴犬を

散歩させていました。

ナンチャイも柴犬が大好きなので

目からハートが出まくったのを

今でも覚えています。



その柴犬はユリちゃんと言いました。

月日とは無情なもので、

ユリちゃんにもお迎えが来ました。



長老の心には

大きな穴が空いたと思います。





























そして更に年月が経ちました。

ある年末、

長老はぽろりと口に零しました。

長老

もう
ユリちゃんの年賀状は
作れぬのだな……

ユリちゃんが元気な頃は

年賀状に写真を使用していたからだ。





もうユリちゃんがいなくなって

4、5年は経っている。





それでも年賀状を作る時期になれば

ユリちゃんの事を思い出してしまう。



長老がおセンチになってしまうのも

無理はなかった。

ナンチャイ

もうそんなに経ったんですねぇ。

そんな返事しか出来なかった。



ナンチャイも

ペットを飼っていた事があった。



当時としては超が付くほど珍しかった

シベリアンハスキーだ。

超が付くほど奔放に育てられ、

超が付くほどアホな犬だったが、

超可愛いかった。

小学生の頃から飼い始め、

高校の頃にお別れしたが、

今でも家族のように思い出す。



だから長老の気持ちが

少しは分かるつもりでいる。

そして不思議なことは

それから数日後に起こった。

ポストの中に

転居先不明で返送されてきた

葉書があったそうだ。



その葉書は年賀葉書。

ユリちゃんの写真が

載っているものだった。







不思議なのは

その年賀葉書を作ったのは

ユリちゃんが元気だった頃。



そう5年前の年賀葉書だったのだ。



郵便局に電話で問い合わせると

心当たりがないとのこと。


変そうされるにしても

当年中のはずだし、

仮に区分する棚に

去年の葉書があったとしても、

翌年には返ってくるはずだと。







長老は苦情を言いたかった訳ではない。

ぶっちゃけ、

葉書は何かしらの理由があって

どこかに残留していたはずだ。

普通なら少し怒ってもおかしくない。







だが長老は怒らなかった。

それどころか感謝したとのことだ。

長老

ユリちゃんが
私の元に帰ってきてくれた。

そう感じずにはいられなかった。





普通、

何年も残留してた(と予想)葉書なんて

しれっとゴミ箱に入れたら

バレやしないし、

苦情になる可能性はないに等しい。

むしろ時間が経ってからの返送では

苦情になる可能性の方が高い。



その経緯や真相は不明だが、

配達担当者は届けてくれた。

当然と言えば当然だが、

長老は嬉しかった。

目蓋をゆっくりと閉じた長老は、

長老

ありがとうございました

と伝え電話をきった。



長老の元に戻ってきたユリちゃんは、

今もリビングで

愛くるしい瞳を輝かせている。

第十八話 『ユリちゃん』

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