ジュピター

ッシィッ!

 キュイン!
  シュンッ!        
 ザン!           
ガッ    
 ガッ  
  ガッ
  ザク!  ズバッ!
    ビッ!
 バシッ!
シュ! ピッ! チュン! スラン!
          デュシュッ!

ザッ!    
ビッ!  
    ザン!    

     スァンッ!

 ジュピターの疾風のような剣は、宙に浮く魔物のバリアを明らかに破った。そして続く烈風のような超連撃は、バリアを失った魔物を一瞬のうちに切り裂き細切れにしたのだ。

ハル

うおおぉぉぅぅ
おおおおおおお
ぉぉっ!!!

 迷宮中に広がりそうなハルの歓喜は、全員の感情を表現したようだった。



 剣を失ったランディは大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと息を吐き笑顔を漏らす。ユフィも珍しく安堵を表情に現した。アデルは目元を和らげつつ、胸に両手を重ねロココに駆け寄る。

 ロココはその場にへたり込み尻もちを付く。

アデル

ロココ、凄い!
本当に凄いです。

ユフィ

あの状況でよく分かったわね。

 全員がロココの場所に集まってきたが、ロココはへたり込んだまま俯いている。



 あまりの安堵に全員が気付いていなかったが、チーギックから得たエキスが地面のシミになっていた。

ハル

あああぁぁ!!
こ、これって!?

 勝利の余韻は一瞬に消し飛び、重い空気が場を暗くした。危機を脱したが、ロココの目的であるエキスを失ってしまったからだ。



 ロココは深く俯いていたが、集まって来ていたハル達に口角を上げ笑顔を振舞った。

ロココ

良かった。
確信はなかったんですけど、
本当に効果がありましたね。

 エキスの事など何も気にしない素振りのロココ。

ロココ

ジュピターさんの
攻撃が凄すぎて
僕なんて何してるか
分からないくらいでした。

 ロココは笑顔を不自然なほどに崩さない。

ロココ

臭いに反応してましたし、
その反応って
嫌っているような反応だし、
何故嫌うのかって考えたら
自身の弱点だからかもって。
かなり辻褄が合うなと……

 笑顔で話し続けるロココ。その言葉を止めたのは、後ろからロココを抱きしめたアデルだった。



 必死に場を暗くさせまいと言葉を続けるロココを見かねて、アデルの身体は独りでに動いたようだ。

ロココ

わわわ、
ア、アデルさん!?
ど、どうしたんですか!?

 アデルは気丈に振舞うロココを痛ましく思い、無言でロココを抱擁し続ける。

ロココ

あ!?

ロココ

もしかして…………

ロココ

エキスの事ですか?

 思いのほか、ロココがエキスの話に触れた。そして、地面に転がる小瓶を眺めてから、ハル達の沈んだ表情を見回した。

ロココ

じゃ~ん♪
この一本は無事ですよ。
ユフィさんとリュウさんが
念の為に2本目を作って
くれてたのお忘れでしたか?

ハル

はへ?

ジュピター

そぉ~いやぁ~
そうだっけか?

ランディ

皆、緊張しすぎて
忘れてたっつー感じか。

ユフィ

私は忘れてなかったわよ。

アデル

えええええ
ぇぇぇっ~!?

 ロココを神妙に抱擁していたアデルは、顔を真っ赤にして、ロココから両腕を離した。そして、そそくさと皆の傷の具合を見始めた。



 全員、旋風によるダメージがあちこちに見られる。アデルはずっと顔を真っ赤にしたまま、治癒の指輪の集中を続けた。

アデル

ふぅ~。
これで皆さん終わりました。

 まだ耳が赤いアデルは、ロココの治療を終えた。連続で集中したせいかまだ照れているのか、足元がふらついてる。



 長剣を失ったランディは、ユフィから短刀を譲り受けた。そして傷も癒えたハル達は、地上へ帰還を始めた――――

 ~編章~     209、赤に染まる抱擁

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