囮になった走るユフィの目にも、ロココが転倒しエキスが小瓶から流れる光景が飛び込んでくる。
眼前には、宙に浮く魔物が黄金の翼を揺らして大きく口を開けようとしていた。
!!
囮になった走るユフィの目にも、ロココが転倒しエキスが小瓶から流れる光景が飛び込んでくる。
眼前には、宙に浮く魔物が黄金の翼を揺らして大きく口を開けようとしていた。
ランディを狙った時と同じく、口内に風を溜め込んでいるのが正面から見てとれる。他の誰でもなく真っ直ぐ自分に飛んでくる攻撃に対し、ユフィは全神経を集中させなければならなかった。
エキスが……
ロ、ロココ……
はっ!?
エキスはどうしようもない。
早く立て!
ロココ!
どうしたんだ!?
…………
攻撃の瞬間を見極めようとするユフィは、仲間達とは逆の方向に移動する。宙に浮く魔物はユフィに照準を合わせながら、更に口を大きく広げる。
ランディへの攻撃ならとっくに攻撃しているタイミングだが、まだ口内に風を溜めている。そして広げた口をドンドンと広げていく。風は口内だけでなく、宙に浮く魔物の身体をも膨らませている。
ユフィは直感的に理解した。
これは一点を狙ったランディへの攻撃と違う――――もっと、もっと広範囲……。避けようのない程の……
なんかあれ
ヤバいっすよ。
後ろからそれを見るハル達にもそれが分かった。特にそれを目の当たりにしたランディには、はっきりとユフィの危機が分かった。
分かってたよ。
俺の素手の攻撃なんかが
効かないなんてよ。
バリアみたいなもんが
あんだもんな……
風を溜めながら、攻撃対象をランディに向けようとする宙に浮く魔物。ランディの意図は叶ったが、ランディもあの風を避ける術を思いついていない。
狙うなら私を狙いなさい!
ランディと同じ気持ちで音速の鞭を奮うユフィ。だがそれはランディが確認したというバリアに弾き返される。
何も効かないバリア……
ユフィの攻撃に反応すら見せなかった宙を浮く魔物は、ロココの方へ過敏に鼻を向けたと思いきや背けた。
臭いに過敏に反応……
背けた鼻を振り払うように左右に振り回す――
チーギックのエキス……
なにブツブツ言ってんだ!
早く立てっ!
ジュピターさん!
このエキスです!
このエキスが
奴の弱点かもしれません!
ロココはエキスを零してしまった。だがその失態も含めた様々な状況から導きだしたのは、この強敵を破る光明だった。
ロココが小瓶に僅かに残るエキスを、ジュピターの長剣に丁寧に振り掛ける。その雫は刃を伝い剣先に走る。水滴は剣の輝きを増大させるようにキラリと光を放った。
ジュピターは迷いのないロココの行動に目を見開らかされた。そして次の瞬間には、地を蹴った。
宙に浮く魔物の風が暴風なら、対するジュピターが生んだ風は疾風だった。