両手に消えゆく剣を握ったランディは、恨めしそうに魔物を睨む。
宙に浮く魔物はゆっくりと旋回しながらランディの方へ鼻を利かせた。
傷の一つも……
つけられなかったのか。
両手に消えゆく剣を握ったランディは、恨めしそうに魔物を睨む。
宙に浮く魔物はゆっくりと旋回しながらランディの方へ鼻を利かせた。
ランディは宙を舞う魔物の口内に荒ぶる風を見ていた。それは吸い込まれそうな風であり、身に危険を感じざるを得ない風だった。
だが全身全霊の剣を放ち、それが全く歯が立たなかった結果が、ランディの現実味を薄れさせていた。
ランディー!
ゥォゲッ!
ブピッツ!
ハルの決死のダイブは、間一髪、風の攻撃からランディを助け出した。
そして自分は無茶苦茶な体勢で地面にすっ転び、意味不明な悲鳴を上げバウンドした。
ハルキチ……
まったく……
無茶しやがる。
ランディッ!
そのまま階段まで逃走よ!
ユフィはアデルにハンドシグナルで何かを伝えながらランディに指示を出した。
それと同時に自身は単身で、宙に浮かぶ魔物に対して左側に走り出す。宙に浮かぶ魔物は、大きな動きを見せたユフィに反応した。黄金の翼を器用に動かしユフィに相対したのだ。
お二人共、
こちらです。
早く!
!?
アデルは、ロココとジュピターに声を掛ける。その声は静かでいて、緊急性が伝わる語調だった。
そしてアデルの言うこちらというのは、ユフィとは逆側・右側からの逃走経路だった。
ユフィはハルがランディを助けた直後、ランディに逃走を促した。それと同時にこの右側の逃走経路と作戦を、アデルにハンドシグナルで伝えていたのだ。
自分が囮になって
オイラ達を……
ジュピター、
急いで!
クソッ!
は、はい!
ハンドシグナルで伝えられたアデルも、今それが分かったジュピターとロココも、この作戦に従うしかなかった。自分達のリーダーを非常に危険な囮役にするのだ。抵抗する気持ちしかないほどだが、そのユフィは既に動いているのだ。
この状況では、ユフィの作戦に乗るしかない。乗らねば逆にチームの足を引っ張る形となるからだ。
ああっ!!
アデルの後ろを走るロココが、足元の瓦礫につまずいてしまった。この逃走作戦を重々理解しているからこそ悲壮感が走る。
だが、その悲壮感を上回る光景がロココの前に広がった。
あああぁぁぁ
前面の地面に液体が広がっていく……
胸元に大事にしまっていたエキス――皆がロココだけの為に必死に集めてくれたもの。
それが無情にも小瓶から地面に流れていく光景だった。