人里離れた森の中。
魔女の家を、二人の少女が訪ねてきていた。

さてそれじゃ、願いごとの詳細を聞きましょうか。
二人とも、そこのイスに掛けてちょうだい。

…………。

チバリ様。お客用のイスは調剤皿が占領していて座れませんよ。
積み重なって塔になってますもん。

あら大変。
床に下ろしておくわね。

これでよし。
はい、どうぞ。

ノーラ。お客様方にお茶を。

今、用意しますね。

…すっごく、散らかってるのね。

ようやく口を開いたのは、
二人の客のうち、
髪の短い少女だった。

二人はおそるおそる
イスに腰かけた。

まあ、いいわ。
自己紹介させてちょうだい。

あたしは、ローズレッド。
隣にいるのが、妹のスノーウィ。

スノーウィです。

この森のほとりの村に住んでいる者よ。

お話は、恋を叶えてほしい、だったわね。

ええ。
去年の雪の日から村に滞在している男性がいるの。スノーウィが、その人に一目ぼれしてしまって。

でも、旅人だから、いつ村を去ってしまうかわからない。
この恋は、今すぐにでも成就させなきゃいけないの。

恋を叶える薬は、希少な材料が多いので、それだけでも高くつきます。
急いで作るとなると、さらに対価を上乗せすることになりますが。

四つのカップを運んできながら、
ノーラが会話に加わった。

わかってるわ!
お金のことなら、心配は――

…待って。これ、何のお茶?

ああ。
少し苦いかもしれないですね。

いや、苦いというかそれ以前に…

青いんだけど。

青は鎮静の色なんです。
魔女の家に来て緊張しているでしょうから、リラックスしてもらおうと思って。

リラックスどころか、恐怖が高まってるんだけど。

なんでよりにもよってお茶を青くした?

他になかったので…

それで。
お金は払えるの?

ええ!
ちゃんと、用意してあるわ。

にこっ

それなら結構。
喜んで力を貸すわ。

ただし、ひとつだけ。
あなたたち自身にも、働いてもらわなきゃならないことがあるわ。

何をすればいいの?

簡単なことよ。恋のお相手を、村外れまで呼び出してちょうだい。私たちが森の中から、彼の姿をうかがえるように。

それさえ済めば、あとは待つだけ。
三日後には、完成した薬を渡すと約束するわ。代金は、この袋にいっぱいの金貨でどう?

ねえ、ローズ。
この袋にいっぱいって、大金だわ。

いいえ、スノーウィ。
想像していたよりは、安く済みそうよ。

金貨は、薬と引き換えで渡すわ。それでいい?

契約成立ね!

久しぶりのお客で、私も嬉しいわ。
このお茶は歓迎のしるしよ。遠慮せず、飲んでちょうだい。

えっ

その瞬間。

金貨のための袋を見せたとき以上に、
二人の顔に動揺が走ったのだった。

結局飲まずに帰っちゃったわね。

礼儀知らずな人たちですねぇ。
それに、あまり物を知らないようです。魔女への対価がお金だけだと思い込んでる。

金貨なんかで済ませて、よかったんですか?

確かに、体の一部をもらったり、仕事をしてもらったりでも良かったけど…
今は別段、切らしている材料も、してもらいたいこともないのよね。

なんにしたって、久々の仕事。
気合い入れていきましょ~

カチャ

チバリはカップを手にとり、口を付けた。

まずっ!

失礼な。

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