チーギックを捕え、ロココが見守る中、その角からエキスを抽出しているリュウとユフィ。その時間に、怪我人はアデルの治癒の指輪の恩恵を受けて体を休めた。

 一番重症と言えるハルも随分と回復したようで、もうタラトに愚にも付かないつまらない話をしている。

リュウ

よし、これでよし。

ユフィ

いえ、
これだけ稀少なエキスよ。
何かの拍子で失ったら大変。
もう一本分抽出するわよ。

 ロココの目的であるエキスを、必要分抽出成功したが、念の為、もう一つ分の抽出を始めるユフィ。シャインは「限界まで搾り取るのよ」と息巻いているが、どうやら次の一回で限界のようだ。

シャイン

これだけ稀少なエキスなら
むふふ♪

 シャインの目元口元顔全体がゆるゆると緩んだ。ソロバンを頭の中で叩いて計算したガロンの額は、膨大なものだったからだ。「当然一番活躍したアタシが……」などと良からぬ考えも心から洩れている。



 リュウ達が抽出している間、チーギックは拘束され、ランディとフィンクスが厳重に見張っていた。

フィンクス

ところで抽出が終わったら
コイツはどうするんだ?

シャセツ

切り捨てるだけだ。

アデル

えっ!?

ジュピター

なんかやりづれーよな。
無抵抗な奴やんのは。

アデル

そうですよ!
ジュピターの言う通りです。
残酷すぎます!

フィンクス

でも魔物だぞ。
コイツがまた俺達に牙剥いて
くるかもしれねーんだぜ。

シェルナ

それはそーだけど
私もアデルの意見と一緒。
次は捕える必要ないからそん時は
ぶっ飛ばせばいいんだよ。
いやぶっ飛ばす!!

シャイン

ホントは討伐したほうが
報酬多くなるけど、
もう散々完璧なまでに
身ぐるみ剥いだから
アタシは逃がしてもO.K.よ。

フィンクス

おっ!?
珍しいなシャイン。
目の前に落ちてる金
拾わないなんて。
てっきり反対するかと……

シャイン

馬鹿ねぇ~。
コイツから得られる
魔気の報酬なんて、
エキスの売却益に比べれば
微量も微量。
そんなら野放しにして
またエキス溜まってたら
頂くだけじゃん。
アタシならコイツを
捕まえる方法なんて百万通りは
考えつくわ。

フィンクス

って、そうゆうことか。

シェルナ

それにしても
今回の捕える計画って
予め用意してたんだよね?
シャインのイタズラって
計画したらいつもグズグズに
なるのに……

フィンクス

そりゃモチロン、
企画から準備に到る迄、
全て俺が考え実行したからだ。

シェルナ

なる。
フィンクスは計画性、
シャインは瞬発性のイタズラに
特化してるんだったよね。

ランディ

まぁ、俺も捕まえてボコボコに
してやるつもりだったが
目的の物は頂いたし
どうでもよくなっちまったな。

アデル

そ、それじゃあ……

シェルナ

リュウ、いいよね?

 アデルに同調していたシェルナが、抽出作業中のリュウに確認する。

 するとリュウはゆっくりとシェルナの方へ向き、手に持った小瓶を見せた。

リュウ

二本目~。
これで安心だな。
ってなわけで、
いいんじゃないか。

 小瓶の中にはエキスが満たされていた。そしてリュウの返事を受けて、アデルとシェルナは胸を撫で下ろした。



 そして、チーギックの縄が解かれ放たれた。迷宮ではあまりお目に掛かれない捕縛、そしてそこからの解放。チーギックは視界から消える際に、こちらに絡みつくような視線を飛ばして闇に消えた。

リュウ

ロココ、良かったな。

ロココ

こ、これが……

 ロココはリュウからエキスの入った小瓶を両手で丁寧に受け取る。その手は目的の物を手にし震えている。

 「おいおい、落とすなよ」とリュウが優しく声を掛ける。それを受けてロココは両手を胸の前でギュッと握り、ここに居る全員に頭を下げた。

ロココ

みなさん本当に
ありがとうございました!

 頭を下げたままのロココはそのまま動かないでいる。肩が大きく上下し興奮気味だ。様々な思いで胸が一杯なのだろう。

ロココ

普通に討伐するだけなら
簡単だったのに……
凄く、凄く危険を冒して……
僕なんかのために……
これでバロックも……
ほ、本当に…………
なんとお礼を言えばいいのか……

 途切れ途切れの言葉だが、溢れる感謝は全員の心に間違いなく届いた。

 ユフィが何も言わずにロココの肩にそっと手を置く。そして顔を上げたロココに、落ち着いた声で言葉を返した。

ユフィ

それは何よりも貴方が負けずに
此処まで来た結果よ。
そして困難と知りながら
『友人を必ず助ける』と
決意した結果。
貴方のその固い決意がなければ
成し得なかったことなのよ。
……胸を張りなさい。

 ロココは目に熱いものを溜めながら、もう一度、深々と頭を下げた。そしてユフィの言う通り、胸を張り顔を見せた。瞳は潤んでいたが笑顔だった。



 それは迷宮に初めて降りてきた頃の、泣いて動けなかったロココではなかった。

ジュピター

でもこれで最後なんだよな……
オイラ達がロココと探索するのって

ハル

何言ってんすかジュピター。
これで友達がやっと治るんすよ。
良い事じゃないっすか。
良かったんすよ、凄いっすよ、
目的を達成したんすから……

ロココ

皆さんのおかげです。
本当に……。
あれだけ難しいと思って……

ロココ

!?
ハ、ハルさん!?

ハル

良がったんす。
うう、ううっ。グス。
ロココォ~
ほ、ほんどうに……
良がっだっすねぇ〜。

 必死に涙を堪え笑顔を見せたロココだったが、ハルの方が堪えきれず涙を見せた。



 「ったく……別れの涙は早すぎるつーの」とランディが言いながらも、視線は暖かかった。ずっと涙を我慢していたロココは、ハルの涙に誘われて我慢するのをやめた。

 ~編章~     202、涙をこらえて

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