シャインがむきになって投げナイフを投げてきたことを確認し、チーギックは口元に笑みを浮かべる。
リュウやフィンクスは、魔物に感情じみたものがある事に驚く。だがシャインはそれよりも、軽いステップのダンスを披露するチーギックに、苛立ちを顕わにした。
ックゥ~!!
ちょこまかとウザったいっ!!
落ち着け!
お前のナイフは何本も
あるわけじゃないだろ!!
まだ三本しか
使ってないわよっ!
シャインがむきになって投げナイフを投げてきたことを確認し、チーギックは口元に笑みを浮かべる。
リュウやフィンクスは、魔物に感情じみたものがある事に驚く。だがシャインはそれよりも、軽いステップのダンスを披露するチーギックに、苛立ちを顕わにした。
首根っこ捕まえて
見世物小屋に叩き売る!
チーギックは今迄がまるで本気を出してなかったようなスピードでナイフを躱す。事実、チーギックのスピードは並々ならぬものだ。
全然駄目じゃねーか。
やっぱ雑魚倒してから……
うっさい!!
まだナイフはあるっ!!
その着地もらった!!
チーギックの着地を狙った8本目のナイフは、9本目のナイフによって弾かれた。
直地を狙ったところで、チーギックのスピードでは躱される。そう読んだシャインは、相手の行動パターンを分析し、さらにその先の回避場所にナイフを弾いたのだ。
完璧に読みどおり。
余裕かましてるから
足元すくわれんのよ。
ちなみにそれは麻痺毒ナイフ。
そこで大人しくしてるじゃん。
だがチーギックに刺さったと思われたナイフは、上着の下に隠していたジャグリングに使う人形に刺さっていた。
おいっ!?
ピエロ野郎、動くぞ!!
!?
シャイン!
やばい!
離れるんだ!
一番チーギックに近かったフィンクスが長剣を奮ったが、その対象物は眼前から消えていた。
そして既に9本の投げナイフを使っているシャインの前で笑みを零したのだ。
くっ!?
ナイフを大きく横に振ったシャインの背中に、悪寒が走った。
麻痺毒のナイフを当てたにも関わらず、意外にも動き出したチーギック。予想だにしない接近に対し、苦し紛れに振ったナイフは当たるわけもなかった。
そして、背後の悪寒は憎きチーギックのもの。
離れて戦うリュウとシェルナの目にも、その光景は飛び込んでくる。そして距離・タイミング、どちらにせよ何も間に合わないと悟らされるものだった。
「やっと掛かったじゃん」
ランディ・フィンクス・シェルナが目の前の魔物を倒したと同時に、シャインの声が迷宮に広がった。
アタシの背後には
罠が仕掛けてあった。
えっ!?
気持ち悪い薄ら笑いが得意な
コイツが投げたナイフ。
それで壊れたと思ってたアレ。
えっ!?
それはリアから買って貰った
腕輪……
印老痕(インロウコン)――
この腕輪は中が空洞になっていて
自分の好きなものを
入れておけるものなのよ。
なるほどな。
ご察しの通り、
アタシが入れたのは
一度空気に触れたら
超がつくほど粘着性を保持する
速効性抜群の特別な液体。
それをコイツは
思いきり踏み散らかした。
俺とシャインが
そこへ誘導しようとしている
とは知らずにな。
御自慢のスピードに
浮かれてたみたいだったから
チョロいもんだったが……
そ、そうだったんだ。
あ、そーだ。
リュウ、タラト……
もういいぜ。
やっちゃって。
フィンクスがそう言うやいなや、タラトが潰された瓦礫から岩が持ち上がる。元気満々のタラトが現れ、間を置くことなく瞬時に距離を詰め、蛇型を荒々しいパンチ一発で粉々に砕く。リュウが放った矢は、今迄の牽制とは比べぬほど鋭く・激しく・そして速く、鷲型の眉間を貫いた。
残りの雑魚共の処理は、全く危なげないものだった。そして完全に捕えた状態のチーギックだけが残る。
アタシ達が一番苦労したのは
コイツに踊らされてるように
見せかけること。
全員が苦戦して、
コイツに追わせる必要があった。
それなら初めから
言ってくれれば……
敵を騙す前に味方から
ってやつかよ。
真実味がいるもんな。
そうそう。
コイツがどんな曲芸を
持ってるか知らねぇけど、
俺達のイタズラレベルには
遠く及ばなかったようだな。
こちらの言葉を理解しているのかは不明だが、チーギックは苛立ちと焦りを明らかに表していた。そして下半身が完全に動かない状態で、ナイフを投げる。
シャインはそれを悠々と避けて、お返しと言わんばかりに投げナイフを軽く逆手に投げる。それはチーギックの首元を少しかすめ流血させた。
投げナイフ対決もこれで決着。
ちなみにさっきの
人形に刺さったナイフは
ただの投げナイフ。
今のが本当の麻痺毒ナイフ。
それは俺も騙されたわ。
さ・て・と…………
通常ナイフ9本と
麻痺毒ナイフに
特注速効性粘着液体、
更に貴重な印老痕の代金。
それに数々の侮辱罪に
多勢での暴力行使、
卑怯極まりない闇討ちに加え
アタシのナイフを
無断で避けた罪。
あ……、ついでだから
ハルをボコった治療代も
請求しといてやるじゃん。
麻痺毒が身体に周り一切の動きを封じられたチーギックに対し、シャインは容赦なく身包みを剥ぎ始めた。しかも背後から陰険な口撃を続けながらだ。この口撃により、チーギックが背後に悪寒を感じたかどうかは不明。
そこにシャセツとジュピターが現れる。ユフィとアデル、それにロココもすぐに合流した。