暗躍展覧会 その5

展覧会の小部屋にて――

すごい。見たことないものがいっぱいありますね。

フォーフォッフォ―、目を奪われて、はしゃぎすぎませんようにな!

――――

――――

兵隊を引き連れ、物々しい警備の少年。

それもそのはず。この少年の素性を考えれば、あっさりし過ぎな程である。

彼はブローム。この国、リーグレンの“王”である。

賢王アドラスの崩御の後、わずか7歳で玉座を継ぐことになった少年王。

無論、帝王学も未だ不十分なその御身に、まつりごとは不可能である。たくさんの大人に囲まれ、手厚い庇護を受けながら王宮で暮らす生活だったが――

こうして時折、お忍びで帝都に姿を現すのである。

陛下、あまり離れてはなりませんぞ――と、言いつつ確かにこれは目を奪われますな。

オッホ、見てくださいこれッ 人形! 勝手に動く人形でありますぞ!

セオドアどの……あまり騒がれぬよう。誰が聞いているともわかりませぬ。

ダイジョーブ、ダイジョーブ。今回は誰にも展覧会に行くことを伝えておらんし……

ほら、あっちの将軍のほうが、よっぽど警備が多くて目立っとるじゃろうが。

のんき……!

一方、広間の方では。

ベルティーナ

ギルドとのつながりもわかっている。言い逃れはできませんよマルコック卿!

マルコック

…………

マルコック

勇敢で聡明なお嬢さんだ。

マルコック

では、わたしの狙いもすべてお見通しということかな?

ベルティーナ

狙いですって? ……そうよ。ギルドの依頼請負人を操って、どうするつもり?

マルコック

……公式になってはおりませんが、今宵、この展覧会に、さる貴人が訪れる予定になっておりましてな。

マルコック

血気の盛んな請負人と衝突が起きれば、どうなるかわかりませんなぁ! ククク、ククククク……!

まさか……まさか、彼の狙いは……!

マルコック

ベルティーナどの、あなたにはその広告塔となっていただく!

ベルティーナ

何を、

マルコック

魔界の門を開く三ツ首の獣の咆哮

謎めくキーワードに呼応するように――

うお、うおおおおベルティーナさん!

圧政を敷く権力者に鉄槌を! 我々はあなたに従います!

ベルティーナ

ばっ あなた達、何を言っているの!?

行くぜーー! 麗しのベルティーナ様の凱旋だーー!

ベルティーナを取り囲む依頼請負人たち。その目は……正気ではない!

な、何事です!? この集団は!

武器を持っている! ひいい!

そのまま体の自由が効かない状況で、ある方向に流されて行く。異様な雰囲気に、距離を取る観客たち。向かう、その先には――

な、なんじゃ。なんの騒ぎじゃ。

な、何。どうしたのですか?

おい、これは……!

何だ貴様ら! この方を誰だと……!

うおおおおお! ギルドバンザイ!

き……さま……ぁ!

次々と、王とその護衛に攻撃を仕掛ける依頼請負人たち。

ベルティーナ

やめなさいあなた達! 何を考えているの! 操られているの!? お願い、やめて……! ああッ!

悲痛! その声は届かず!

覚悟ォォォォ!

しまっ―――

王の護衛は次々と請負人を切り捨てていくが、なにぶん数が多すぎる。その間をすり抜けて、王への接近を許してしまった――

え―――――――

光る剣閃、その刃の届く先は――

ぐあああああああ!

刃は、どこにも届かず、目を覆う閃光が請負人の男を襲う。男は地にひれ伏し、気絶する……!

アルマド

はあ、はあ、なんとか間に合いました。

アルマド

状況が読めませんが、止めて正解ですよね?

うおおおおおお!

アルマド

あっ (まだ呪文が間に合わない――!)

ククリ

こりゃ、相手にしてるだけ時間の無駄だわ。

ククリ

逃げるわよ!

あっ

二人は王の顔など知らぬ。ただ、明らかにターゲットになっていた少年の手を引いて、駆け出す。それを追いかける依頼請負人たち! 壮絶な追いかけっこの始まりである!

マルコック

ククク、ククク! これでギルドの地位は地に落ちたも同然! わたしへの疑いの眼など向けられるはずもなく。

マルコック

大した護衛もつけずに出歩かれるこの時を待っておった! 陛下、お命頂戴いたしますぞ……!

ククリ

はあ、はあ、安全なところは……

あなた、がたは、

ククリ

黙って、舌噛むわよ……!

続く

pagetop