暗躍展覧会 その6

リチャード

はぁ、はぁ、いつもにもまして、シビアな戦いだな……!

スネイク

――――

ヒィーーヒィ~~~!

地下牢では、未だ激戦が繰り広げられていた。すでにリチャードはいくつもの切り傷を負い、満身創痍である……!

リチャード、スネイク。二人の実力差は如何ほどのものなのだろうか。もし、拮抗していたら。まして、リチャードは丸腰である。このままではいずれ――

リチャード

はぁ……だが、やすやすとやられてやるわけにはいかんな――!

その闘志、少しも弱まることなく……!

リチャード

しかし、ここが牢屋でよかったな。もっと広い空間だったら、抵抗のすべなどなかったかもしれない……

スネイクは機動力を活かし、斬りかかっては回避、斬りかかっては回避し、じわじわとリチャードの体力を奪っていく。

しかし、狭い牢屋内の戦いのためか、十分に動き回れていないようだ。

リチャード

そこが、突きどころ……だな。おい! あんたも手伝ってくれ!

へ、お、俺?

リチャードは攻撃を避ける傍ら、床に転がっている遺体を蹴り飛ばし始める!

ひえええ罰当たり……!

あっ ……これは――

スネイクの動きが明らかに精彩を欠く! 床の障害物のせいでうまく動けないのだ。

わ、わかった。俺も震えてるばっかじゃいけない……!

障害物をうまく配置し、スネイクの足場を奪っていく……!

スネイク

があああああああ!!

リチャード

鬼ごっこは終わりだ! 覚悟しろ!

ぐあっああああああっっっ!

抑え込む二人に対し、ナイフを無茶苦茶に振りまくる……!

…………

地下の廊下を歩く怪しい人影! 手繰り屋である。

鉄格子に近づくとそこには――

スネイク

――――

佇む、スネイクの姿。鉄格子に寄り掛かるように、ぼんやりと立っている。

他に立っているものは、いない。リチャードは!? 依頼請負人は……!?

リチャード

・ ・ ・

何ということか。地に伏せている……!

よしよし。間引きは完了したな。

お前には引き続き駒として活躍してもらう。……さあ、出ろ。

錠前の鍵を開け、鉄格子を開いたその瞬間――

仰向けに倒れる、スネイク。これは――操られていたのではない、“意識”がないのだ!

ムッ……!

リチャード

油断、大敵だな!

突如、跳ね上がったリチャードによる連撃。はかりごと……! やられたと見せかけこの時を待っていたのだ!

コシャク……! ここは引くしかないか!

リチャード

待て……!

不意をついたが、有効打を当てることは叶わず。逃げられてしまった。

しかし、おかげで牢を脱することができた。反撃の、始まりである。

リチャード

さて、まずは武器を回収しないとな……

リチャード

時間が経てば警備もやってくるだろう。先に行っているぞ!

えっ ちょ……この気絶した人はどうすれば。

スネイク

――――

運んでいけっていうのか!? うおおおおあ!

そのこだまする悲鳴を受け止めるものもなく!

なんだか騒がしいな。何事だ?

個室にて、椅子に腰掛けていた兵士。外の物音を聞きつけ扉に近づが――

騒ぎの理由を知りたいか?

その声は!

リチャード

それはね、こういうことだーーァ!

蹴り飛ばした扉が、一瞬硬直した兵士の顔面に容赦なくぶち当たる!

ぐおおおおおああ!

う、う……くそ……

しかし、所詮は木扉。甲冑に身を包む兵士を気絶させるには至らなかった。ふらふらとしつつも立ち上がろうとする。

そこに……! 相手の首に腕を回し、力いっぱい締め上げる!

や、やめろ! やめ……!

ヘッドロック! 崩れ落ちる兵士。それを尻目に部屋を見回すリチャード。

周囲の棚に、剣や槍が無造作に立てかけられている。武器庫のようであった。

リチャード

武器の代わりになるものでもあれば……と思ったが。

リチャード

やはりお前との腐れ縁はまだまだ続きそうだな? “ロドプシン”――

つかつかと棚の一角に歩み寄り、剣の一つを取り出す。赤き刀身。リチャードの愛刀である。

ポポーーーゥ!

そこに現れる、いつぞやの小動物。足首に、何やら手紙がくくりつけられている。

リチャード

むっ アルマドから返事か。打開策が書いてあればいいが……

リチャード

なになに? 解除のキーワードだと? 厄介な……

ふーーふーーあの男、とっとと先に行ってしまって……おかげでこっちは、大変……

スネイク

――――

気絶したスネイクを引きずるようにして進む依頼請負人!

こんな状態で誰かと遭遇したら……幸いまだ誰とも出会っていないが……

では我とこんにちはだ。

魔界の門を開く三ツ首の獣の咆哮

物陰から現れる手操り屋……! 待ち構えていたのか!?

ぐああああああああああ!

依頼請負人の様子が豹変する!

チィ、貴様の方だったか。駒は……まだ寝ているのか。

リチャード

見つけたぞォォ!!

廊下の端から、リチャードが姿を現し駆け寄る!

ここで対決するつもりはない。さらばだ。

手繰り屋が身を引くと、そこには階段……! 止める間もなく登って行ってしまう。

リチャード

くっ追いかけたいところだが……!

うわああ、ああああ……!

苦悶の呻き声をあげる依頼請負人。彼とも戦わねばならないのだろうか。リチャードは武器を構え。依頼請負人は、

おおおおおあおああっうおおあッッ

殴り始めた。―――己の体を。

リチャード

!!?

うおぁっ ぐふっ や、やめ……

や、やめろーーーウォーーー!

リチャード

やめろも何も……

自分である! 殴っているのは!

リチャード

(ポカン)

やめろ、やめろやめろそんな術、俺には……

リチャード

体に無数の殴打跡……術を食らった後のスネイクとの反応の違い……

リチャード

もしかして、効かない、のか……?

リチャード

だから牢に閉じ込められていた……?

徐々に理解の色を示すリチャード。

術とて万能ではない。催眠のかからぬ相手もいよう。彼の行動は、さながら強烈な拒絶反応とでも言うべきもの……!

う……うわ……

うわ言のように喚きながら自傷する依頼請負人の襟首を掴み――

容赦ない張り手……! 

い、痛、えっ 何? えっ!?

何? 痛ッッ ものすごく痛い、全身がものすごく……! 気絶しそう……!

正気を取り戻し、同時に己の痛みに気づく依頼請負人と。隣ではなぜか薄く微笑むリチャード。

リチャード

こいつは突破口かもしれんな……

続く

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