暗躍展覧会 その4

ファバナ大講堂

収容人数1万人を誇る、リーグレンの中でも有数の施設。舞踏会やセレモニー、大討論会など、年間を通して様々な催しに利用されている。

今夜、この大講堂にて!

マルコック

皆様、お集まりくださり誠にありがとうございます。

マルコック

此度の展覧会の目玉は、各国より収集した、名品・珍品の数々にございます。ぜひ、お近くで御覧ください……!

博覧会の前夜祭が行われているのだ!

ククリ

さて……マルコック卿が関わってるって言うから、念の為潜り込んでみたけど……

ククリ

警護の人もたくさんいるみたいだし、悪事なんてできないわよね。考えすぎだったかも。

ククリ

暇だしお料理でもいただこうかしら。

アルマド

少しは緊張してくださいってば。

ベルティーナ

はっ……はっ……

夜の王都をひた走る一騎!

ベルティーナ

うぐ……傷が痛む……でもそんなこと言ってられない……

ベルティーナ

あのリストには、マルコック卿の依頼を受けた請負人ばかりが載っていた。しかも、手紙の日付はずっと前のもの。

ベルティーナ

普通、ああいった依頼は自由公募。誰が受けるかなんて、事前にわかるはずがないのに……

ベルティーナ

つまり、彼らは、選ばされていた? 自分で選んだように思わせて予め決まっていた?

ベルティーナ

一方で――今回みたいな、イベントの警備は部長の人選で人数を確保されるわ。その2つが、つながっているとしたら――

ベルティーナ

都合のいい人ばかりを、警備に当てている可能性がある。

ベルティーナ

作為的すぎる……何かあってからじゃ遅いわ。急がないと!

ククリ

あっ あれって軍人のフィリップ将軍じゃない? あっちの貴族も、なんかの祝典で見たことあるわ。

アルマド

わりと大物も参加しているみたいですね。

ククリ

さて……あたし、ちょっとブラブラしてくるわね。

アルマド

あっ そうやってサボるつもりでしょう……全くもう……

ククリ

何を仰るの。偵察と言ってくださる? ホホホ。

アルマド

もう……行ってしまいました。別にいいですけど……

ククリ

堅苦しい場は、あたしには似合わないわね。

ククリ

あたしなんかは場末の酒場とかで、酔っ払いをあしらってるのがお似合いよ。

ククリ

いや待った待った……貶めすぎたわ自分……

言葉は言霊。戯言だとしても気をつけなくてはならない……!

ククリ

――!

廊下を歩いていたククリは違和感に気づく。誰も、歩いていないのだ。――そこに。

…………

…………

歩み寄る二人。挟み撃ちである……!

ククリ

なにか用かしら? お二人さん。

問いかけに返事はなく。その目に生気はなく、心あらずといった風情。

――――

ククリ

ちょっ……冗談じゃないわ……!

剣戟を巧みな足さばきでいなしていき、なんとか距離を取る。

ククリ

吹き飛べ……ハッ!

距離さえ確保できるのなら中遠距離武器に敵うものなどない……!

――

男は夢遊病のような動きで回避!

ククリ

嘘でしょーーー!?

――――

ククリ

しまっ……!

そのすきに、背後から迫っていたもうひとりに羽交い締めにされてしまった……!

・ ・ ・

この上ないピンチ……!

ベルティーナ

さっっっせるかああああーーッ!

剣を弾き飛ばし、相手のみぞおちに石突を叩き込む!

ククリ

ベルティーナさん……!?

ベルティーナ

はあ、はあ、危ないところだった……

ククリ

助けてくれてありがと! でもこれ、一体どういうこと?

ベルティーナ

多分、わたしのせいだわ……ごめんなさい!

ベルティーナ

こっそりギルド内部を偵察していたつもりが、とっくにバレていた……踊らされていた……

ベルティーナ

おそらく、わたしが接触したあなた達もターゲットにされてる!

ククリ

ちょっともう、そーいうのやめてくださるーー!?

ベルティーナ

とにかく、彼らを、

ベルティーナ

(痛ぅ、さっきの怪我が……!)

――――

ゆらりと近づく女!

やじりの代わりに、特大の重しのついた矢が脳天を直撃!

ククリ

これ、やっぱり用意しとくと便利ね♪

動くもののいなくなった廊下で、二人は一息つく。

ククリ

泳がせられてたなんて、委員長サマともあろう方が迂闊ねえ。

ククリ

……まあ、起こっちゃったことはしょうがないわ。それで、こいつらは何?

ククリ

見たとこ、警備の人間……ギルドのメンバーよね?

ベルティーナ

ええ……わたしの顔見知りだわ。明らかに様子がおかしかった。

アルマド

何らかの術にかけられているのでしょう。

ククリ

アルマド!

アルマド

先程リチャードから連絡がありました。

アルマド

スネイクが敵の術中にはまり、心を操られたようになってしまったと……

ククリ

何やってんのよ……

ベルティーナ

それじゃ、マルコック卿の依頼を受けたものは、みんな操り人形ってこと……?

ベルティーナ

そんな強力な術なんて……

アルマド

条件付き感応式……催眠術のようなものなら、ありえます。

ククリ

で、おりこうアルマドちゃんなら対策もわかったってことよね?

アルマド

……残念ながら。

アルマド

この術にはおそらくキーワードがある。それがわからなければ解くことはできない。

ククリ

まじですか。じゃあ、全員気絶させるしかないってこと?

ベルティーナ

クッ わたしの仲間たちに、なんてまねを……

ベルティーナ

ともかく、マルコック卿を問い詰めるわよ!

足を踏み出したその瞬間!

…………

――――

またしても立ちふさがる、新たなギルドメンバーたち!

ククリ

だああぁもっ! 操られすぎでしょおマヌケちゃんたち。はっ倒すわよ!

アルマド

これだけ送り込んで来るということは、広間に近づけさせたくないのかも……

アルマド

ベルティーナさん! 先へ行ってください。ここはわたしたちが!

ベルティーナ

ありがとう、助かる……! あと、お願い。もし、もし、……

ククリ

殺すなって言うのでしょ? 大切なお仲間ですもんね。

重し付きの矢を取り出しつつ……!

ククリ

できるところまでは、やってあげるわよ!

ベルティーナ

はっ はっ

会場をひた走る、ひた走る……! そしてついに――

マルコック

おやこれは委員長殿。見回りですかな? お勤めご苦労さまです。

ベルティーナ

とぼけないで! あなたの所業はすべてお見通しです!

ベルティーナ

怪しげな術で、ギルドの依頼請負人を操っていますね! すぐにやめなさい!

マルコック

術ですって!?

マルコック

これは奇っ怪! 面白い冗談を言われますな!

マルコック

珍品の集まる此度の展覧会とはいえど、言動まで珍妙にしていただく必要はないのですよ。

マルコック

あまりおかしなことばかり言っていると、一緒に展示されてしまいますよ。ホッホッホッ。

しらばっくれる気か……!

続く

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