暗躍展覧会 その3
これは……リストだわ。依頼請負人の。
わたしが把握してるだけでも、マルコック卿の依頼を受けたものばかり……
ともかく、重要なものに違いないわ。急いでメモだけして……
誰!?
誰だ、とは笑っちまうなァ……
不法侵入の子猫ちゃんはそっちだろうが……
ちいい、バレるのが早すぎる! どうし――
暗がりに走る白刃……!
――ぜっ ハッッ!
機敏なバックステップ! 無慈悲な一撃を回避する。
間一髪……ただ、部屋の中に押し込まれてしまった。入り口は奴らに固められた。
どうする!? 他に逃げ場はない……! なんとか活路を……
わたしが誰かは知ってるわね? これでもギルドでそれなりの地位の人間よ。
殺してもみ消すのは、難しいと思うけど。
己の立場をよーくわかってらっしゃる。
だからこそ利用価値があるってもんだ。
何を……
かっはッ――――
会話に気を取られすぎた! 後ろの男が放った矢が、ベルティーナの左足に突き刺さる。
しまっ……足……? 動けなくする……つもり……?
ちが……う……これは……麻酔……
いい子でおねんねしてなァ。
う……あ……
こんなところで……
寝ていられるかああああ!
ぐうううううううううう!!
ひっっこいつ、自分の腕を!?
麻酔の酩酊感を別の痛みでごまかしたのだ……!
うぐ……ここは2階……行ける!!
チッ……! 逃がすわけにはいかん!
所変わって、マルコック卿の屋敷の地下!
そこでおとなしく待ってるんだな!
うぐっ
武器も取り上げたし、こいつら術士でもなさそうだしな……こっちの普通の鍵で大丈夫だろう。
おいおい、その剣は値打ち物なんだ。丁重に扱ってくれよ?
ハッ それより自分の心配をしたほうがいいぜ。
行っちまいやがった……
どうするよリチャード。やべえんじゃねえのか。断頭台コースってやつじゃねえのか。俺ぁ、自分の頭が大好きなんだ。離れたくないぜ。
落ち着け。……恐怖は判断を鈍らせる。
落ち着くって、どっどっどっ、
そうだな……まずは周りを見よう。
落ち着いてよく見ると、牢にはいくつかの人影が浮かび上がっていた。
おっ 他にも、とっ捕まってるやつがいたのかよ。
やれやれ、あんたらも災難だったなあ。
まずは情報を……そう思い、人影の一つに近づいていく。すると――
・ ・ ・
横たわるそれは。冷たく熱のない体。生気を失った表情。
うわ、うわああああああああああ!
どう見ても、“死体”である。
叫ばないで、くれ――どうせあんたもそうなるんだから……
別の人影から、声――
生きてるやつもいたのか――
なああんた。情報交換といかないか。
何のために? ここでできることなんてない。無駄なことだ……
あまりにも意気消沈した様子。よく見ればその体にはいくつもの擦り傷とアザ。なんという痛ましさ。拷問でもされたのだろうか。
その様子に気圧されつつも――
あいにくと、諦めが悪い方でね。……知っていることを、話してくれないか。
おとなしく話してくれないと、隣のそいつが……怖いぞ?
ええっ 俺っ
わかったわかった。牢の中まで敵だらけになるのは勘弁してくれ。
俺はケトル。ギルドの依頼請負人だ。
! あんたも子爵の依頼を受けた口か。
ああ……
それが牢に閉じ込められてるとはどういうことだ?
それがわからないんだ。子爵から紹介された、薄気味悪い男に会わせられたと思ったら、気づいたらここにいた。
体が傷だらけなのは?
脱出しようとしたらこのざまだ……あんたたちも諦めたほうがいい……
ぐええ、殴られるのかよ。勘弁してくれよ……
その時――――
うふ、うふ、ふ……
外から、ゆらりと牢に近づく人影……!
誰だ!?
よせっ そいつだ! そいつが俺たちをこんな目に合わせた張本人だ……!
と、時は来たり。贄ども。歌え。踊れ。
祈らば祭壇。惑えば崩落。は、果たして贄どものゆくえは?
やべーやつが来やがった……
鉄格子から離れろ! こいつに俺は……何度も……!
相当怯えているな……警戒すべき相手ってことか。
だが、敵さんがわざわざやってきてくれたんだ。危険を承知の上……ッだ。
貴様、マルコック卿の手のものか!? 何を企んでいる!?
われは手繰り屋。察しの通りマルコックに雇われている。
ギルドの連中を牢に閉じ込めてどうするつもりだ?
それは言えぬ。ふふふ……威勢がいいな。お前達は贄であることを忘れぬほうがよいぞ……
案外話が通じるやつだった。
ここから出たいか? 子羊よ……
当然だ。……思わせぶりだな。何か取引でも持ちかけてくるつもりか?
われがお前に求めるのは一つ。
道具となれ――
ぐ、うあ、な、何……
リチャード!?
鉄格子ごしに、怪しき眼光で睨めつける不審な男。リチャードは魅入られたようにその場を動けない。カタカタと体を震わせる……!
ああ……あ、……
やべえぜ、やべえぜ、とにかくやべええええええ!
とっさにリチャードにタックルを決める。
ぐあっ がっ
はぁ、はぁ……
交代か? ではお前から……
ぐああああああああ!
ッッ……スネイク……!
うあああ……そいつに睨まれたやつはみんな……
完了だ。
男が目をそらすと、糸が切れたように崩れ落ちるスネイク。
それに駆け寄るリチャード。
クソッ無事か……!? 仲間にもしものことがあったら、許さんからな!
もしも? これ以上われは手を出さん。だがそうだな……
羊は一人で十分かもしれんな――
その言葉に呼応するように――
…………
スネイク! 無事か!
奪え……
鉄格子の隙間から放り投げられるナイフ。それをごく自然に拾うスネイク。
武器をくれてやるだと……? 何を考えている?
刹那――!
ぐああっ う、腕を……!
走る白刃、舞う鮮血。腕を押さえるリチャード。
気が狂ったかスネイク! 俺に切りかかってどうする!?
…………
グッ 聞こえていないのか……!
凌ごうにも丸腰のリチャード。狭い牢屋の中で脱兎のごとく逃げ回る……!
ハァ、ハァ……! 読めてきたぞ……ッ
ギルドの連中をそそのかし……よくわからん術で操るのが、敵の目的か……!
アルマド、頼む……!
――――
ポポ~~~!
どこに隠れていたのだろうか、物陰から不意に現れた小さな鳥。明り取りの小さな窓の格子をすり抜け、飛び去って行った。
――――
さて……その間、こっちはこっちで、なんとかしないとな。
組手と行こうかスネイク――!
続く