怖じることのない二人は、勢いそのままに魔物の群れに飛び込む。
さきほど初めて八階層に降りてきたばかりのハル達。今、目の前にいる魔物の半数は、七階層までに見た事がない魔物だ。
単体で現れたタコ足の魔物は初見だった。迷宮によくあるパターンで、単体で出現する魔物は強いという法則。下等な魔物ほど数が多い傾向にあるのだ。にもかかわらず、ランディの一閃は、そのタコ足の魔物の首を刈り取っていた。
怖じることのない二人は、勢いそのままに魔物の群れに飛び込む。
さきほど初めて八階層に降りてきたばかりのハル達。今、目の前にいる魔物の半数は、七階層までに見た事がない魔物だ。
単体で現れたタコ足の魔物は初見だった。迷宮によくあるパターンで、単体で出現する魔物は強いという法則。下等な魔物ほど数が多い傾向にあるのだ。にもかかわらず、ランディの一閃は、そのタコ足の魔物の首を刈り取っていた。
次っ!
この未知の八階層の魔物は間違いなく脅威。セオリー通りならまずは数を減らすべきだが、ランディは大胆にも単体の強敵を狙い、そして仕留めてみせた。まだまだ雑魚は唸る程いるが、ハルも多数の相手に対応出来ていた。
負けられないっす、
はぁ、はぁ、はぁ、
負けられないんすよ。
チーギックと初めて遭遇した先程。魔物の群れから逃げ遅れたハルは、死を感じた。今はそれ以上の魔物を相手にしているが、違っていた。
ランディが共に戦っている心強さは勿論だが、もっと根本的な何かが違っていたのだ。
作戦とはいえ逃げるか戦うか迷っていた。その心のブレのようなものが今はない。困難極まりないが、仲間の目標が眼前にいるのだ。
ロココはあんな無茶と言える刻弾使用までして託してくれた。ジュピターも強敵三体を一人で請け負い、託してくれた。それを託されて自分はここで戦っているのだ。
ハルの見る光景に恐れや迷いはなくなっていた。
ハルキチ!
奴のナイフが来る!
気ぃ抜くなよ!
ハルは魔物を一体斬り伏せた直後、チーギックが投げてきたナイフを躱し、そして弾いた。
重心がフラついてんぞ!
……!?
ランディから見れば、ハルの重心はそう見えた。
正伝剣術は重心を重要としている。ランディの剣術も正伝剣術であり、ハルもそうだ。古来からの人類の研鑽の結晶。それが正伝剣術であり、魔物にも対抗しうる人類の武器なのだ。
故に、ランディがハルの重心のフラつきを見て、それに危機を覚えるのは自然だった。
だが、ランディは違和感を覚える。
ハルは次々と襲いくる魔物に対し、重心がフラついているように見えて紙一重で躱し、確実に自分の攻撃を当てている。必死に違いないが、どこか余裕めいた雰囲気を感じたのだ。
身体が軽いっす。
重心がめちゃくちゃなのに
自由に動く……
これは……
あなたは実のところ
正伝剣術など
必要としていない。
奔放で……
独創的で……
通常成し得ない事を
平然とやってしまう。
今の斬り捌きもそうです。
私が教えた正伝剣術の
隙を突いた斬撃。
それを身体に宿った感覚で
見切り咄嗟に捌いたもの。
身体に宿った……
……感覚……
ハルは魔物に囲まれたこの状況で、エノクの言葉を思い出していた。思い出そうとしたわけではない。戦闘中の身体の動きに呼応して、記憶が呼び覚まされたようだった。
そして…………
そのエノクの言葉と己の身体の感覚が、完全に一つのものとして繋がった。