ランディ

あのガキィー!
小賢しい真似しやがって。
次はくたばる寸前まで
ぶちのめしてやるぜ!

ジュピター

くそっ!
やっぱりアイツ速いぞ。
徐々に距離が広くなってる。

ハル

諦めないっす。
絶対に捕まえるっすよ!

ランディ

奴の方が速いが、
行き止まりもあるかもしれねぇ。
それに通路もあんまし
入り組んでねーから
見逃しにくいはずだ!

 チーギックを追い掛ける三人は、躊躇わず全速で駆ける。



 ユフィの危惧する内容は経験として知っている。それよりも、目の前のチーギックを何としてでも捕まえる意気込みが勝っているのだ。

ハル

ああっ!

ランディ

チッ!
邪魔くせぇ。

 チーギックの背を追うハル達の前に新たな影が見える。まだ小さくしか見えないが、それは明らかに複数いるのがはっきり分かった。

ランディ

ちょうど三匹だ!
それぞれ一匹づつ
すれ違い様にやるぜ!

 チーギックを追うだけなら、このまま走り去る作戦もあるが、今はそれは絶対に出来ない。なぜなら、後ろから追ってくるユフィ達とこの三体の魔物が遭遇してしまうから……。ロココが万全ならまだしも今は歩くのが精一杯で、ユフィ一人で請け負わせるのは無理がありすぎるのだ。



 しかも目の前の魔物は、七階層までで見た事がなく、一筋縄ではいかないのは明白だった。



 それら全てが三人には重々承知であり、チーギックを追うのと同時にしなければならない条件なのだ。

ジュピター

いや…………
コイツ等強い……
そんな簡単に
やられてくんねーぞ。

ランディ

ちびってんじゃねー!
やるしかねぇんだよ!

ジュピター

いや、
すれ違い様に切り合うのも
なしだ。

ハル

ジュピター何言ってんすか!
今のユフィ達に
コイツ等はきついっす!

ジュピター

違う!
オイラがコイツ等を
全部引き付ける!
ハルとランディは
チーギックを捕まえてくれ!

ハル

ええっ!?
いくら
ジュピターでも
無茶っすよ!

ジュピター

すぐ追いつく!
オイラを信じろ。

 ジュピターの言ってる事は正しい。

 三体ともすれ違い様に討伐など、そんな自分達にだけ都合よい事が、簡単に成し得るほどこの階層の魔物は生易しくないだろう。



 それを思えば、ただでさえ別行動しているパーティを更に分断するリスクを抱えても、ジュピターの言う作戦に従う理があるのだ。少なからずチーギックを追うことに関しては、最速の作戦になる。




 目前に迫る魔物の前に走るジュピターを前に見るランディは、頼もしさを感じたのか口角を少し上げた。

ランディ

美味しーとこ
持っていきやがっって。

ジュピター

本当に美味しいのは
そっちだろ。

 ジュピターも魔物を目前にして、僅かに振り返り笑顔を返した。




 そして直ぐさま先頭の魔物と交差。

ハル

ジュピター
絶対に勝つっす!
自分達も絶対に
捕まえるっすから!

 ハルは強い眼差しを携え、振りむかずにチーギックを追い走った。後ろではジュピターと魔物が剣を交わす音が聞こえる。高速の連撃は、一撃で討伐に到らないばかりか、実力が拮抗している証拠とも言える。



 やはり危険すぎると頭に過ぎったハルだが、ジュピターなら勝てる、負けるはずがない! と言い聞かせがむしゃらに前に走った。

ランディ

絶対に捕まえんぞ。
そうだろ、ハルキチ。

ハル

もちろんっす。

ハル

絶対に皆で
帰るっすよ。

 全員が自分の事のように目的を目指している。危険を顧みず、最善を考え、共に協力し、困難に立ち向かう。

 それを自然に行う彼等は見返りなど求めもしない。ただ仲間のことを思うばかりなのだ。







 そしてそんな仲間の思いを最前線で任せられた二人。ハルとランディの眼前には最悪と言える光景が広がっていた。

 少し広がった通路には、先程、ロココが殲滅させた以上の数の魔物が現れたのだ。



 チーギックはその群れに入り込み、ハルとランディの方に向き直る。そして明らかに優勢に立ったと認識したのだろう、にやけた表情で見下ろしてきた。更には、得意の投げナイフでジャグリングを始める。明らかな挑発だ。

ハル

ランディ!
行くっすよ!

ランディ

全部ブチ殺す!

 挑発されたからではない。相手がどうとかそういう話ではないのだ。絶対に目的を達成する意思の元、圧倒的不利でも止まらなかったのだ。



 二人は速度をそのままに、魔物の群れに飛び込んでいった。

 ~編章~     196、最善手

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