術理概論 その1

アルマド

――――

王都中央を走る大通り。様々な露店並ぶ飲食店街を東に抜け、階段を下るとそこは。

博物館、美術館、そして大学……文化的な施設の並ぶアカデミックエリアに到達する。そしてその一角。

本、本。右も左も本に囲まれた空間。少しカビ臭い匂いの漂う厳粛な佇まい。そう、ここは――

―都立図書館ヒストリア―!

アルマド

――――

図書館を歩むのはブラックガードの頭脳、アルマド。何か調べ物だろうか。

と、そこに。

フォッグ

えーと。風水術、風水術……あった。この辺か。

フォッグ

おっ

アルマド

あっ

フォッグ

リチャードんとこの。奇遇じゃねーか。図書館に用事かい?

アルマド

どうも。調べ物で少し。あなたは何用で? 図書館にいらっしゃるなんて、少々意外で驚きました。

フォッグ

ひでえ。俺にだって研究欲くらいはあるわさ。

フォッグ

風水術の幅を広げてぇんだよ。俺はどうもぶっ放すくらいしか能がないからよ。

アルマド

ええ。この間の戦いでそれは存分にわかりましたよ。……クスクス。

フォッグ

あっまた馬鹿にしやがって。もう許さねーぞ。たたんでやる、たたんでやる。そこでじっとしてろ。

アルマド

ちょ、ちょっとこんなところで暴れないで。

じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アルマド

ほら、ほら! 係員さんの絡みつくような視線! 場所を移しましょう!

図書館内カフェ 森の小窓

フォッグ

ひゃ~~~うめーー! 甘すぎなくて飲みやすいカフェオレだな。

フォッグ

俺、こういうのてんで無頓着でさ。この店も入ったことなかったんだ。

フォッグ

あんたは女の子連れて、こういうとこよく出向いてるんだろ? よっニクいね! ごちそうさん。

アルマド

してませんってそんなこと。何を根拠に判断してるんですか……

アルマド

ちょっと待って。どさくさに紛れて何でおごってもらおうとしてるんですか。ダメです。

フォッグ

???

アルマド

そんなショックを受けたような顔されても。

フォッグ

それはそれ、だ。あんた魔術師なんだろ?

フォッグ

こっちの魔術師と知り合うのは初めてなんだ。色々話聞かせてくれよ!

アルマド

その口ぶりからすると、あなたはリーグレン出身じゃないんですか?

フォッグ

ああ。俺、エドリアの生まれなんだ。風水術も生まれの村仕込みのやつさ。

アルマド

お隣の、砂漠の帝国ですね……

フォッグ

魔術と風水術。体系は違うけど同じ術理原則には基づくはずだろ。何か使えるヒントがもらえるんじゃないかってね。

アルマド

研究熱心ですね……いいですよ。協力しましょう。

フォッグ

そうこなくっちゃ!

フォッグ

あんたさ、確か大規模魔術の使い手だったよな。

フォッグ

でもさ、回復術とか撹乱系の術とか使うやつもいるじゃん。それって何が違うの?

アルマド

ああ……精霊との契約の話ですね。

アルマド

我々魔術師は、最初に師事する精霊を決めるんですよ。

アルマド

炎や氷、物理現象を操るならドルトムストン。治癒、肉体強化系ならウィシルス。運や呪術の類ならヴァ。

アルマド

精霊を選び契約が済んだあとは、基本的に変更が効きません。……もっとも、それぞれの修行が忙しすぎて、多方面に手を出している余裕なんて、そもそもないんですけどね。

フォッグ

ほーん……術士が師事する精霊ね……

フォッグ

あんたも信じてるの? なんだっけ、ドル、えっと、

アルマド

ドルトムストン。

アルマド

当然でしょう。わたしの術の源なんですから。今も、この空間に数多くいるのを感じ取れますよ。わたしにとっては、空気のようなものです。

フォッグ

えっ 精霊って一体じゃないの?

アルマド

もちろん。一体だけだとしたら、術士が同時に術を使うことなど不可能になってしまうでしょう……

アルマド

この世界には、無数の精霊が存在しており、契約を行うことでそれらの姿が見えるようになるんです。

フォッグ

へーーーっ 面白いな! 風水術とだいぶ違う。

フォッグ

よしわかった。決闘しようぜ!

アルマド

ちょ、ちょっと待ってください! なんでそうなるんですか。

フォッグ

小難しい理論を聞いたあとは実践に限るぜ。ちょっと思いついたこともあるし。術理合戦と洒落込もうぜ!

アルマド

嫌ですってば!

フォッグ

先行ってるぜ!

アルマド

……行ってしまいました。

アルマド

やれやれ。思い込みの激しい方だ。わたしが後をついていくわけないでしょう? 面倒事は嫌いなのですから……

アルマド

ん?

何気なくテーブルに目をやると……!

残された食器の数々。

アルマド

あっっ食い逃げ……ハッ!?

彼は己のミスに気づく。お店において言ってはならない言葉。途端、店内の空気が変わり。わらわらと集まってくるスタッフの皆さん!

お客さァ~~ん……

お支払いは……キチンと……してもらえるんでしょうねえええ~~~~?

アルマド

~~~~~~!!

アルマド

これは……後を追いかけないといけない理由ができましたね……!

続く

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