ロココ

あいつです!
僕が探してる
魔物です!

ランディ

あいつがチーギックって
ヤローか。

アデル

あれが……
た、ただ魔物の数が
尋常じゃない……です。

 ロココが探していた超稀少種の魔物・チーギックと八階層に降りて間もなく遭遇したハル達。ベテランでも遭遇した経験を持つ者は少ないとされるチーギックは、噂通り他の魔物と群れを成して現れた。



 その数およそ25体。大型の魔物も二種いるので一筋縄ではいかないのは明白だ。ロココの目標であるチーギックは、これまた噂通りに最後列でこちらの様子を窺っている。

ユフィ

数が多すぎる。
新しい階層でこの数は
危険極まりないわ!
全員階段まで撤退っ!

ロココ

!?

 ユフィの出した指示は、冷徹なまでに戦況を分析した結果だった。目の前に稀少な目標が居ると言えど、死者を出してしまえば水の泡。自分達の腕と状況を照らし合わせ、即座に判断を下し、躊躇なくそれを全員に伝えたのだ。

ハル

う、うそっすよね?
目の前に探してた魔物が
いるんすよ!?

ランディ

いや、悔しいけど
今はこの一手だ。
ハルキチ、退くぞ!

 前衛のランディは、同じく前衛にいるハルの襟首を掴み後退する。比較的好戦的なランディが大人しくユフィの指示に従うのも、同じ判断を下したからだろう。ジュピターもそれを見て、敵に隙を見せないように後退し始めた。





 ユフィは後退しながら、まだ距離のある魔物の一群を確認する。チーギックはそんなユフィ達を見て、口角を確実に上げた。

ユフィ

!?
笑った……

 チーギックは人型と言えど、魔物が感情らしきものをここまで現すのはユフィの記憶になかった。チーギックが特別なのか、それともこの階層では珍しくないのか。

 ともあれ、ユフィにはこの撤退を失敗させない為、近くにある七階層への階段を目指すしかなかった。

ジュピター

くそっ!
あいつらしつこいぞ。

ランディ

ってかあのヤロー
笑ってねーか?
ムカつくな。

ユフィ

駄目よ!
階段はもうすぐ。
皆しっかり下がって!

アデル

ハルもっと早く走って!
追い付かれます!

ランディ

ッキショー、
あのヤラォー!
うぜーナイフだぜ。

ハル

やっぱり迎え討つっすよ!
ユフィッ!!
自分達は大丈夫っす!

 ユフィの返事は首を横に振るだけだった。



 調子に乗って投げナイフを投げてくるチーギックは、まだ笑っているように見える。ランディは苛ついているようだったが、ハルは目標を前にして腕を奮えないもどかしさでやきもきしていた。








 そしてもうすぐ階段の場所が目前と迫る。後方からはチーギックを含む多量の魔物。空を飛ぶ小型の魔物も多い。その魔物は既にハル達に追い付こうとしていた。立ち止まり追い払えば、後ろから来る魔物達に追い付かれて収集がつかなくなるのは明白だった。

 ハルは背中から襲い来る敵を、振り返り、たまらず斬り上げていた。






 斬り捨てた小型の魔物が羽根を散らし迷宮の地面に転がる風景の先には、一点集中に自分を追い掛けてくる魔物の群れがあった。


 瞬間的、ハルの頭に死がよぎる。一人逃げ遅れた自分だけでどうこう出来る量ではない。振り上げた愛刀・鬼義理を左右どちらの魔物に振ればいいのか? 仮にこの二体を同時に倒せたとして、更にその後ろから既に襲い掛かってきている三体の魔物はタイミング的に無理がある。



















 ハルは一瞬の長さを感じた。


















 後ろでチーギックが奇妙な声を上げ笑っている。



















 左右の魔物を横一閃に斬る。


















 鬼義理は真っ直ぐと狙った場所を斬り裂く。




















 次の三体の後ろにも四体見えた。




















 やっぱりチーギックは、憎らしい笑いを口元に浮かべていた。

 ~編章~     194、笑うナイフ

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