――地下迷宮七階層。

ジュピター

ふ~、
今の連携は完璧に近かったな。

ハル

ドンピシャだったっすね。

アデル

やっぱり長年一緒だった
このメンバーは
しっくりきますね。

ロココ

それにユフィさんが指揮を執ると
やっぱりピリッと締まりますね。

ランディ

それってユフィだと
怖いってことか?

ロココ

意地悪言わないでください。
そんな意味じゃないですよ。

ユフィ

分かってるわよ、ロココ。

ハル

自分は怖いっすけど……

ユフィ

何か言ったかしら?

ハル

いやいや何も
言ってないっすよ。
何でもないっす、
ハハハハ……

 ユフィとリュウが三日間抜けての再編成後、編成を元に戻すと自分達で決めたハル達。

 いつもと違うメンバーと探索をし、見えていなかったものや発見したことはいくつもあった。そのままの流れで色んな編成を試す選択肢もあったが、全員で出した答えは、一度元に戻すことにも価値を見出せる、というものだった。

ユフィ

やはり大成功だったわね。
再編成で各々が得たものは
計り知れないわ。

 敢えて昔と同じ編成をとり見えることもある。

 当たり前だとさえ思っていたジュピターの剣術の精錬さと体術の速度。状況に応じて適した動きを見せながらも、ユフィにはない荒っぽい戦術で状況を打破するランディの対応力。治癒の指輪の恩恵を受ける導師の有難さに加え、リーダーであるユフィの指揮を邪魔せず見事に補完するアデルの声。ロココの魔気探知能力の有用さと、いざという時に頼りになる多彩な刻弾の扱い。そしてやはりユフィの指揮の元に動く一体感は、それぞれの適正がガッチリと合った歯車のようだった。

ハル

皆凄いっす。
自分は皆の足を
引っ張ってばかりっす。

 曇った表情を俯(ウツム)かせるハル。自分は迷惑を掛けてばかりいると、自責の念を頭から払えないでいた。

アデル

ハル、何かありましたか?

ハル

いやぁ逆っす……
自分には皆みたいに
何もないんすよ。

 ハルがしょげてる理由は、全員がすぐ理解出来た。


 ジュピターやランディのようにハイセンスで剣術に精錬さがあるわけでもなく、状況判断も知識も知能も高いわけではない。冒険者の奥の手とも言える刻弾も使えない挙句、二つの呪い(脱力と視力変化)を抱える始末。


 改めて仲間の偉大さに気付く反面、自分の至らなさが胸を覆うばかりなのだ。

アデル

ハルは自分で気付いて
いないだけです。

ハル

!?

アデル

ハルは頼れる人です。
普段そんな風に見えなくとも
ここぞという時の力は
誰も及びません。
誰もが諦めてしまいそうな時でも
何とかしてくれる……
力の源が別次元にあるみたいに、
自身のみならず
周りの人にも伝播する力。
少し大袈裟に聞こえる
くらいですが、決して
言い過ぎではないと皆
思っていますよ。

ロココ

はいっ!
そのとおりです。
僕も何度も何度も
ハルさんから元気や勇気を
もらいました。

ユフィ

私から見れば貴方は宇宙人。
つまりアデルが言う事は
大袈裟ではないと思ってるわ。

ランディ

わかるわかる。
しかも
何も考えてないアホな宇宙人な。
何が出てきても
おかしくないっつーか。
一般人には理解不能だよな。

ジュピター

オイラはハルの勝負強さには
今でも嫉妬してんだぞ。
分かってるのか宇宙人さん。

ハル

ううう……
皆、そんなふうに……
自分なんかに。
う、う、嬉しいっす。

 ハルは再び俯いたが、それは嬉しさのあまりに涙を我慢出来なかったからだ。

ジュピター

随分昔だけど覚えてるかな。
初めてオイラとハルが
木剣を交わした時だ。
ただの手合わせだったけど
オイラは覚えてる。

ハル

!?
自分も覚えてるっすよ。
エノクに初めて
剣術を教えて貰ってから、
ずっと一人で練習してたっす。
それで初めて手を合わせた
時だったっすから……。

ジュピター

その日宿舎に戻る時、
リュウが言ったんだ。
「ジュピターは上手いな」って。

ハル

そりゃそうっすよ。
あれだけの実力差を
見せ付けられたら……

ジュピター

オイラはその時、
何とも思ってなかったんだけど
後で思い出したんだ。
ハルに嫉妬して、
自分の弱さに気付いて、
皆の元を離れた時にフッとな。

ハル

…………

ジュピター

なぜ『強い』じゃなかったのか?
『上手い』だったのか?
経験や小手先の技は
明らかにハルを凌いでいた。
でもそれはオイラが上手いだけで
強くないって事に後から
気付かされたんだ。

ハル

!?

ジュピター

まぁリュウは
気付いてたんだろうな。
強さってのは
表面的なものだけじゃないって。
上手いけど強くない……
強さの種類も色々あるだろうけど
あの頃は特にだけど
オイラは上手いだけだった。
そしてハル……
皆がハルに感じてるのは
その強さなんじゃないのか?

 ジュピターが嫉妬してるというハルの強さ。そんな事かすかにも考えたことのないハルは、何もないと思っていた自分に、言い知れぬ自信と責任を感じた。

 そしてその仲間からの思いを胸に足をすすめる。









 七階層の魔物は確かに強かったが、再編後の完全に噛み合ったユフィ達の前では物足りなさを感じるほどだった。マップの探索も順調すぎるほどに進み、八階層への階段を残すのみとなった。

ランディ

この調子なら八階層も
行けんじゃねーか?

ジュピター

確かに……
もちろん油断なんかしないけど
軽く様子見くらいなら
ありかもしれないな。

アデル

順調な時ほど
気をつけるべきでは
ないでしょうか。

ロココ

そうですね。

ハル

でもまぁリュウ達も
行くって言ってたし、
階段付近だけで
一戦だけとかで行くのも
いいんじゃないっすか。

ユフィ

分かったわ。
六階層から八階層は
三層構造で似たような魔物が
出るらしいし、
それなら階段付近のみ、
どんな相手でも一戦縛りで
降りましょう。

 慎重であり懸命であることは、この迷宮で生き残る上で最も重要なことだ。だがそれだけでは、探索は進まないし、どうしても前進するリスクをとらねばならない時は来る。ユフィはそう判断し八階層への前進を決意した。

 例によって深層へ向かうほど、待機中の魔気濃度は濃くなる。五感の裏側と表現される気持ち悪さは増したが、ある意味その感覚もハル達には慣れっこと言えるものだった。

ユフィ

一戦だけよ。
どんなことがあっても一戦。
分かってるわよね?

ジュピター

見たことある魔物なら
延長とかってのは……

ユフィ

却下。
例外はなしよ。

ランディ

まぁ、そーゆー時は明日への
お楽しみってやつだ。

ロココ

早速来ました。
反応は小物ですが多数。
そして――――

ジュピター

なんだよ。
今迄見た雑魚ばっかかよ。

ロココ

ロココ

あいつです!
僕が探してる
魔物です!

 ~編章~     193、頼れる強さ

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