――冒険者の酒場。

シャイン

だ~か~ら~、
ほんっと不味いんだって。

ランディ

よくそんな店が潰れずに
ずっと生き残ってんな。

フィンクス

噂によると、
一部の強烈なマニアに
支持されてるらしいぞ。

シャイン

アタシはフィンクスが
面白そうって言うから
行ったけど、
もう絶対に行かないわ。

ハル

何処に行かないんすか?
何の話っすか?

 ハルとジュピターとロココが酒場に着いた時、シャイン達が大きな声である店の話をしていた。



 ウェイターが運んできたコーヒーの香りが鼻をくすぐり、それに反応するかのように朝食を直ぐさま注文するハル。全員が軽い朝の挨拶を交わした後、その店の話は続いた。

 どうやらとんでもない味の料理を出す店らしい。楽しい事が大好きなフィンクスがシャインを連れて行ったのだが、とても完食出来ない味だったらしく、その愚痴をわめき散らしていたのだ。

ロココ

そんなに不味いんですか?

フィンクス

出された物は残さず食う
ってのが俺の信条だったけど
見事に覆されたよ。

シェルナ

ほへぇ~
そんなにぃ?

シャイン

質が悪いことに見た目は
ちょっと美味しそうなのよ。
香りも良かったわ。
でも口に入れたが最後。
異次元の不味さが
身体全体に走り回り、
強烈な金縛りが襲ってきて
血液が逆流する感覚に
襲われて卒倒寸前になるのよ。

ハル

めちゃくちゃ楽しそう
じゃないっすか♪

 「あんたアタシの話聞いてた?」と返すシャインに、ハルは満面の笑顔を咲かせる。一点の曇りもないその笑顔は、シャインが表現した味の恐怖をどこかへ吹き飛ばすようだった。

ジュピター

取り敢えずオイラは
行かないからな。

ユフィ

私も勿論
行かないわ。

アデル

私は美味しいものが
好きなので……

シェルナ

え~楽しそうなのにぃ
勿体なぁ~い。
しょうがない、
っじゃ、ロココいつ行く?

ロココ

え!?
(僕は確定!?)

ランディ

あ、俺は知ってるからパスな。

ロココ

あ、あれ? さっき
知らない感じだったのに……

ハル

今日帰ってきてからで
いいんじゃないっすか?

タラト

シェルナ

流石がハル。
決断が早い。
じゃタラトも入れて
四人で行こっか。

ロココ

あ、あれ?
は、
はい……
たたた、楽しみですね。

シェルナ

決っまりぃ~♪
じゃ早く帰って来た方が
何も食べないで
ここで待つこと。
約束だよ。
O.K.?

ユフィ

ロココ嫌ならちゃんと
断りなさいよ。

ロココ

いや……
はは、
なんだかとても楽しそうに
思えてきました。

ハル

ひゃっほー♪
そしたら久々のユフィパーティ
復活ってことで
張り切って行くっすよぉ!

 探索後の楽しみを一つ得たハルは、ウェイターが運んできた朝食を猛烈な勢いで胃に放り込んでいく。これから激しい戦闘で動き回る者の行動とは思えないが、ここではいつもの風景だ。

シャセツ

そろそろ行くぞ。

 ランディの隣のカウンターに座っていたシャセツが、だらだらと話している面々を視界にも入れずリュウに催促する。愛想の欠片も見当たらないが、これもいつもの風景だ。

リュウ

おー、もうそんなに
時間経ってたか~。
じゃ、皆そろそろ行こっか。
引き締めて行くぞ~。

シェルナ

さっすがリュウ。
久々だけど、やっぱり
全然引き締まらない~w

 とても死地に赴く雰囲気ではない掛け声に、リュウパーティのメンバーが腰を上げる。一人づつ酒場の出口に向かっていき、シェルナが最後にロココへ確認する。

シェルナ

どっちが先でも、
何も食べないんだよ。
お腹空いてるだろーけど、
絶対我慢した方が
その料理を味わえるしね。
お互いハルとタラトを
絶対監視態勢でいこーねぇ。

ロココ

はい、わかりました。
絶対監視態勢で待ってますw
シェルナもタラトさんを
止めてくださいよ。
約束です♪

 元気良く手を振りながら酒場を出て行くシェルナ。それをユフィパーティ全員で見送った。

 まだ食事を詰め込むハルをゆったり待つのは、ユフィパーティのいつもの朝だ。この時間は心落ち着けるのに一役買っている。特別にリュウ達と一緒に行く時以外は、自然と定着したこのスタイルの場合が多い。

 ようやく腰を上げたハル達は、階段室に来ていた。



 階段室には、大勢の待ち合わせの冒険者がいる。緊張感が走る冒険者が多い中、ハル達は比較的大きな声で話し地下への階段に向かっていた。

ランディ

ハルは大丈夫だろうけど
ロココまで大丈夫か?
変なもん食って腹壊す程度じゃ
済まねーかもだぜ。

ロココ

最初はちょっと怖かったですけど
段々と楽しみになってきました。

ハル

ランディこそ星がどうとか
言ってたっすけど
大丈夫っすか?
自分は星がどうとか
全く意味不明なんすけど。

ランディ

あー、あれな。
そーいや昨日も黄道に……
まっ、俺の読み違いかもな。

ジュピター

オイラそーゆーの
結構信じちゃうタイプだから
あんまりビビる事
言わねーでくれよな。

アデル

確か太陽と月の通り道が黄道。
そこを季節外れの流星が
垂直に横切る凶事……
そう言われてましたね。

ランディ

よく覚えてんな。
まっ気にし過ぎんなって。
俺みたいな
にわか星読みは、
よく読み間違えたりすんだよ。

ハル

でも、
星がどうとかってで、
なんで不吉とか
イイ感じとかってなるんすかね?

ユフィ

天は未来を写す鏡って
古来から言われていて、
昔から何かを行う吉兆を
占ったりしてるのよ。

ランディ

そうそう。
天文学ってちゃんと学問が
あるくらいだからな。

ハル

ほへぇ~
自分にはやっぱり
わからないいっすね。

 迷宮への階段を降りるハル達。他に比べて明るい雰囲気のその背中を見つめる者がいた。

衛兵A

あいつら確か…………

衛兵B

ああ……
何も変わってないよ。

 ~編章~     192、不味い約束

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