ーーーやっと一日が終わった。
ーーーやっと一日が終わった。
トオルは今すぐにでも手ぶらで帰りたい欲望をなんとか抑えつつ、鞄を取りに教室へと向かう。
ごほっ
風邪を引いてしまった。
多分、(いや絶対に)原因は今、目の前にいるこの男、生物教師笹塚なのだ。
まじでつらい
頭がズキズキと痛む。よく今日一日を過ごせたと、自分を誉めてやりたい。
つらそうだな
生物教師はへらへらとした態度である。
俗に、風邪は人にうつすと治るといわれるが、まさにその通りになってしまった。トオルに風邪をうつした笹塚先生は血色もよくなり、すっかり元気を取り戻したようだ。
はぁ、すがすがしいな
(このヤロウ・・・)
さっ、やるぞ
(生き生きとしやがって)
許し難いトオルであった。
わが庵は 都のたつみ しかぞ住む
世をうぢ山と 人はいふなり
わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ
よをうぢやまと ひとはいうなり
いやー、最高に清々しいな
はい?
さすがのトオルもしゃくにさわった。風邪をおしてまで居残りをしている生徒に向かってなんて言い草だろう。教師といえども小言のひとつも言ってやらなくては気が済まない。
いやみですか?
いや、これが意味だ
え? そうなの?
反対に笹塚先生にかわされてしまった。
でも、とトオルは思った。
(この歌、清々しいのか?)
そのことを問うと、笹塚先生は説明を始めた。
つまりな、
「本人はたのしいと思っていても、他人から見たときには必ずしもそうは見えないだろうというのもわかっているよ・・・だが俺は今、すっごく楽しいのだ!!って感じかな、と」
あー。我が道をいくってヤツですか
まー。そういう見方もあるかもな
ーーー自分の生き方を貫く、トオルにはそれが、なぜか笹塚先生とダブって見えたのだった。
笹塚メモ
・六歌仙の一人
・謎の人