――冒険者の酒場。
――冒険者の酒場。
へぇ~、
そんなに凄かったの。
おおぉぉー、ユフィ♪
聞いてくれるっすか。
テーブルを囲む仲間達に、シェルナの活躍を熱く語るハルは、後ろから合流したユフィにもう一度語り始めた。
魔物の渾身の一撃を利用し、にわかに信じ難いカウンターを浴びせる。シェルナの何倍もの体重であろう魔物が、回転しながら宙を舞う。
そしてそうなると信じていたかのように、タラトが空中で追撃。一瞬の出来事に、理解が追い付かなかったハルは、全てが終わり、タラトがシェルナとハイタッチするまで口を開けていたのだ。
それほど衝撃的な光景だった。
わかったわよ。
少し落ち着きなさい。
ハル、
ニクヤル。
もぉ~、こそばゆいから
ハルったら
それぐらいでいいよぉ♪
ユフィ、
引率お疲れ様でした。
ユフィはあまり見せない満面の笑みで、ハルを落ち着かせる。その笑顔は、三日間の引率(実質二日)から戻り、自身のパーティに戻って来た安堵感なのだろう。
お疲れ様です。
どうでしたか、
引率の方は?
…………
引率に疑問を抱いていたハルは、分かり易くトーンを落とし、ユフィの返事を無言で待った。
ユフィはテーブルにいる仲間達に視線を走らせてから、ゆっくりと話し始める。
どうも何もないわよ。
皆、良い子ちゃんで、
何一つ手を焼かなかったわ。
そうだったんですか。
それは良かったです。
こっちのパーティは
世話が焼けるとも
とれるわね。
言葉を裏返して受け止めたシャインは苦笑して、何故か大打数の視線がハルに向かった。
その会話中にリュウもテーブルに合流し、ロココの隣の席に座る。何も変わらぬままのリュウだ。ユフィの言葉どおりに問題なかったのだろう。
いやぁ、
皆、元気だった?
ニク
アルゾ。
見てのとおり全員無事。
そっちも上々みたいだな。
タラトは自分の肉料理をリュウに差し出し、リュウを歓迎している。フィンクスは遠くのカウンターに座っていたが、木製ジョッキを掲げ乾杯の仕草をしてみせた。
皆そんなに
無茶しなかったってとこか?
取り敢えずハルの心配は
杞憂ってとこだな。
……あ……
そっすか。
ハルの心配というのは、引率時の新人冒険者を助けるか助けないかというものだ。
言葉を変えるなら、見殺しにする選択を強要される引率者。その決まりにハルは深刻に疑問を抱いていたからだ。
まぁまぁ
これで晴れてめでたく
元通りってことだよね。
で、どーすんだ?
又、元の編成に戻すってか?
カウンターの高い椅子が定位置のランディは、ユフィを真っ直ぐ見てから、視線をリュウに移した。
そりゃ俺達が決めるのか?
のんびりはしてるものの、いつも明快な答えが返ってくるのがリュウのイメージ。それを裏切るような返事に、シャインは意外そうに眉を上げた。
え?
決めてなかったの?
リュウは実際に編成を試した
貴方達が決めるべきと
言っているのよ。
今日は余程合流が嬉しいのか、笑顔の割合が多いユフィ。そしてその口からは、リュウの真意で間違いなさそうな意見が出た。
確かにこの三日間、編成を試し、指揮を執ったのはリュウとユフィではない。アデルとシェルナはリーダーとして、しっかりと役割を果たしたと言い切ってよい。
そしてその実感は、リュウとユフィより間違いなく肌で感じているのだ。
殆どの者がこの時、ユフィとリュウに頼りすぎていることに気付いた。
優秀なリーダー故に、自分達で最善手を考え、より良く行動することを知らず知らずの内に放棄している姿勢に気付かされたのだ。
もちろんリーダーを中心に、一つに纏まることは重要だが、一人一人が思考停止していいわけではない。一人一人が独立してるからこそ真価が現れるのだ。
自身の足で大地に立ち
自身の意志で道を選ぶ
道なければ自身で道を拓き
その道を一歩づつ歩きなさい
私が導師になろうとした切っ掛け。
その導師様が仰ってた言葉です。
ぁ…………
数舜前まで何も気付いてなかったハルが、昨日のアデルの言葉を思い出していた。
ハルに小難しい事は分からない。だがそれを思い出し、心の奥が揺れたのを確かに感じていた。リュウの返事の真意と、アデルの言葉が偶然にもリンクしたのが理屈でなく理解出来たのだ。
そしてタラト以外のメンバーも、そこに行き着いていた。
まだまだ未熟ですね。
まったくだ。
オイラも同感だよ。
やっぱり二人共
凄いリーダーだね。
はい、
自慢のリーダーです。
おろ?
予想以上に察しがいいな。
偶然だけど
それに似た話をな……
つーか、今思やぁ
もしかして編成する前から
考えてたってことか?
…………
え!?
何言ってんだ?
シャインのじっとりとした目を向けられても、リュウは自然でありながらも明らかにとぼけてみせた。
そして、今回の編成成果を得たと確信した顔付きのユフィは、静かに立ち上がって言った。
明日の朝に今後の方針を聞くわ。
楽しみにしてるわね。
ユフィは変わらない笑みのまま、リュウと共にハル達のテーブルを離れた。
ハル達には分かっている。これからどうするのかは自分達で決めるべきだと。
大地に自らの足で立つ一人の人間として、自らの足で歩む道は自らで決める。お互いの顔を確かめたハル達のテーブルには、この後、自由な意見が飛び交った。