――翌日、冒険者の酒場。
――翌日、冒険者の酒場。
いや~、
ジュピター達、
上手くやってるっすかね。
熱々のチーズが掛かっているパン生地を、自分の口以上のサイズに切り分けるハル。両手に余らせて持ち上げると、とろとろになったチーズがテーブルに向け落下する。それを上半身・首・口・舌を絶妙に連動させ阻止するハル。熱々とろとろのチーズは、芳醇な香りと濃厚な味わいで期待以上の満足を感じさせる。
誰に見せるわけでもないのに至極の表情をし、次の瞬間には自分の口よりも大きなパン生地を、ものの数舜で胃袋に送り込む。
「ぅんっふぅ~」
他人の目など一切気にせず締まらない姿で料理に舌鼓を打つハルの様子を見て、シャインは紅茶をすする。
リュウとユフィが引率で抜ける三日の内、二日目の今日の編成は、
前衛
ジュピター タラト フィンクス
中衛
ランディ
後衛
アデル シェルナ
ランディの器用さとスピード、刻弾の扱いの上手さを考えての臨機応変に対応可能な新フォーメーションだ。
リュウとユフィも朝に見送り、ここに残ったのは、ハルとシャイン、それにロココだ。シャセツに関しては、そもそも朝からここに来ていない。
アンタに心配されるほどの
メンバーじゃないじゃん。
皆、頼りになりますもんね。
少なからず、
全員目が見えるメンバーよ。
シャインは右手のマドラーで自分の目を指し示しながら、ハルに皮肉を言ってみせた。
そりゃ言いっこ
なしっすよぉ~。
昨日の編成で初めてシャセツ・シャインと共に探索し、呪いで視覚障害を起こして迷惑を掛けて全く活躍出来なかったことに対する皮肉だ。
そもそも、シャセツが殆どの魔物を一人で討伐してしまうので、活躍の場がなかったというのが事実だった。が、シャインにとってはハルを口撃するのに、これほどの材料がないわけだ。
そろそろ帰ってくる
頃じゃないですか?
確かにもう夕刻に入り、帰還してきてもおかしくない時間だ。ロココはテーブルの上にある空いた皿をまとめ始める。皆が帰って来た時に、気持ち良く使う為に率先して片付けているのだ。
ただいま~♪
喉乾いた~。
麦酒4つね。
バザーに行って帰ってきたような声で、フィンクスとジュピターがテーブルにつく。続いてタラトがテーブルに残っていたピザの残りを全部丸ごと掴み、口の中に放り込んだ。
毎度毎度よく食うな。
たら、ない。
もうすぐアデル達も来る事だし
適当に頼んどくか。
フィンクスは麦酒を持ってきたウェイターに、誰もが手に取りそうな料理を幾つか手早く注文した。
で、どうだったんすか?
この六人の組み合わせは?
どうって普通だろ。
おいおい普通って……
オイラ達も結局
六階層で探索したんだ。
まぁ、普段戦ってる魔物だし
各個撃破って感じかな。
俺はかなり機能的に
動いてたと思うぞ。
シェルナの指揮も的確だったしな。
それに中衛にいた
ランディの動きに驚いたよ。
あのフォーメーションは
これから採用させるべきかも。
にく。まだか。
テーブルの残り物を食べ尽くしたタラトが、全く足りない様子で、腹を押さえテーブルに顎をゴツンと置いた。
しばらくすると、タラトの鼻がクンクンと動き、こちらに歩いてくるウェイターに黒い眼玉がギョロリと動いた。
おおー、
旨そうっす。
あんたはさっきまで
食べてたでしょ。
でもまぁ、初めての奴とでも
案外上手く連携出来たよな。
確かに。
知った顔ってのは大きいけどな。
それはちょっと分かるかも。
加えて言うと、一人一人が
単独でもしっかり強いってのが
あるんじゃないか。
そう言ってランディは、何も食べずに1杯目の麦酒を空にし、タラトが飲んでない麦酒を掠め取って傾けた。
俺はここが三つ目のパーティ
だから、一人一人がしっかり
独立しているってのかな、
自分の足で立ってるって
感じんだよ。
今迄のパーティでは一人二人
は居たけど、あとはフワフワ
ってな感じに見えてな。
なんかよく分かんないわね。
そんなもんかしら。
それはちょっと分かるかも。
いつの間にかシェルナがテーブルまで来ていてランディの話を肯定した。アデルもテーブルに現れ「お疲れ様でした」と丁寧に挨拶をしてから、静かにテーブルに座った。
迷宮の探索って
仲間との連携が凄く大切で、
ある意味個の力より優先される
とこってあるじゃない。
でもその連携を成し得るのは
独立した一人の人間にしか
出来ないように思えるの。
あ……
それって……
どーしたのよ。
自身の足で大地に立ち
自身の意志で道を選ぶ
道なければ自身で道を拓き
その道を一歩づつ歩きなさい
私が……
導師になろうとした切っ掛け。
その導師様が仰ってた言葉です。
ユデア聖典にある教えだね。
皆目的は違うけど、
一人一人に
目指すべきものがある。
そこへ向かえるのが
自立した人間で、
連携を容易に……
そして連携を強固に
していけるって思うの。
シェルナの話に、テーブルに座るメンバーに視線を這わせる面々。何だかこそばゆい気持ちになったところで、シャインが突っ込む。
この男は自立してるように
見えないんだけど。
シャインは目を細めて、いつのまにか料理を口に運ぶハルの膨らんだ頬を指差して、シェルナに言及した。
「ハルもしっかり自立してるよ。たまに逆立ちしたり、興味本位で色んなとこに行くけどね」ハルの口から料理が漏れるのを、にっこり笑いながらシェルナが返した。
「へぇー、だからジュピターとも凄い連携が出来んだ。やるじゃん」と、シャイン。
そのシャインの感心にシェルナが物申す。
「私、一緒に探索したことないけどなんとなく分かるの。ハルだけは別。そんな知的で大層なものじゃなくて……動物的感覚みたいなもの、だと思うの」
なんとなく褒めたつもりのシェルナだったが、ハルを中心にテーブルは爆笑の渦に包まれた。