ワリィ、金なくて一本しか買えなかったな。せっかくだからパアッと花束とかにしたかったんだけど

ううん、むしろ一緒にお金出してくれてありがと。これくらいが良いと思うの

そうか

本当に行くのか?

お願い

着いたぞ

うん、ありがと

あの辺りで健一君、おぼれ死んだのかな?

そうかもな

今から泳いで探しても見つからないかな、死体?

難しいだろうな

水難救助活動中に地元の若きライフセイバーが行方不明。全国ニュースになり英雄視された彼の死を悼んで銅像を建てよう、基金団体を作ろう、なんちゃらガイドラインやアラートを作ろう、漁師は彼の霊が向こう岸で泳いでるのを見たとかとか…とにかく彼の四十九日を待たずしてとにかく俺たちの地元は大いに沸いた。

でも俺たちにとって問題はそのライフセイバーが俺の親友であり、俺の好きな女の子の彼氏だったって事。

苦しかったよね、きっと

そうだな

明日美、大丈夫か

何が?

いや、何がって…気持ちとか。具合とか。マスコミだって関係ねえお前んちにいきなり押し込んできたりしてさ

みじめ?

そういう事じゃねえよ!本気で心配してんだろうが?

何を?

何をってお前の事をだろうがよ!

私の何を心配してるのよ。あとを追って死んだりしないかって?

わかった死んでやるよ

女の意地みせてやる!!

バカヤロウ!お前なに意味わかんねえことしてるんだよ

どさくさに紛れておっぱい触ってんじゃねえ!

ちょっとぶつかっただけだろうがこの野郎!!

言い訳はいいんだ!死なせろバカヤロー!

お前はいったい何にキレてんだよ!

知るかバカヤロー!わかったら苦労しねえよ、このハゲー!

俺のどこがハゲだよ、この野郎!!

その後のやりとりもあまりにダラダラしすぎてて以下省略。

翌朝、近くで寝ていた犬がくしゃみをして飛び起きたのを合図に全部バカバカしくなって帰宅。

学校で俺たちの事を略奪愛とかゲス不倫とか噂し始めた同級生たちを全員半殺しにしたら、なぜか俺だけ一か月停学処分。

明日美は毎日ヒマしてる俺んちに白いミルクバーを持って遊びに来た。バカな俺に一生懸命勉強を教える制服姿から透ける赤い下着に興奮して押し倒したとき

別に、好きにしたら?

あの乳白色の舌に夢中で絡めた時の、甘く濃いミルクの匂いが今も脳裏に焼き付いている。

この海に散骨したのは彼女の遺言だ。
理由を聞くか聞くまいか迷っているうちに明日美は息を引き取った。

どんなに歳をとっても世の中には分からなくていい答えというのがあるものだ。

マスター

元を辿れば純愛…とは言えないよな

ナルサワ

あ、花屋着きましたよ

マスター

すいません。この花を二輪下さい。

ナルサワ

ええ、せっかくだからもっとカラフルな花束にしましょうよ。そしてジムジャームッシュみたいに海にカッコよく投げましょう!

マスター

いやこれくらいが良いと思うんだ

ナルサワ

ナルサワ

まあ、金ねえもんな俺ら

マスター

それを言うなよ

潮のにおいが沁み込んだ

真夏の風を吸いこめば

心の落書きも踊りだすかもね

続く

スリップ オブ ザ リップ その3

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