31 動き出すふたりの時間



 視界に映るのは、先ほどと同じ部屋。






 だけど、側にいるのはルイだった。

 コレットの姿も、ナイトの姿も見当たらない。

ルイ

戻ってこれたのか?

エルカ

うん

ルイ

あのさ

エルカ

 声をかけられて顔を上げる、視線と視線が絡み合う。


 コレットに言われた言葉が引っかかって、少しだけ顔が熱くなっていた。


 エルカの表情の変化にルイは気が付いていない。



 彼は思いつめたように、声を絞り出す。

ルイ

僕には、もう資格がないかもしれない。それでも、言わせてくれ

 真剣な眼差しを見ていると、エルカも背筋を伸ばしてしまった。


 ルイが何かを言おうとしている。


 だから、エルカは息を飲んでその言葉を待っていた。

ルイ

エルカ…………もう一度、友達になってくれないか?

エルカ

え?


 何を言われるかは予想出来なかった。

ルイ

今度は、絶対に傷つけたりしない

エルカ

…………

 差し出された手をジッと見据える。

 その手が震えていた。

 この言葉を発するのに、どれだけ緊張しているのだろう。



 エルカが何も言わないのが拒否の意味だと感じたのか、ルイは眉尻を下げる。


 そして、悲し気な表情を浮かべた。

ルイ

……嫌なら、それで構わない。僕は二度と君の前には現れないから

エルカ

……っ


 その手をエルカは力いっぱい両手で包み込む。
 突然のことだったので、ルイは大きく目を見開いた。
 二度と会えないなんて、そんなのは嫌だからエルカはその手をキツく掴んだ。

エルカ

そんなこと言わないで欲しいの

ルイ

え? いいのか

 諦めていたのだろう、ルイが茫然としたままエルカを見る。


 そんなルイの反応がエルカは不満だった。

エルカ

良いも悪いもないよ。だって私たちは、《《喧嘩をしただけ》》でしょ

ルイ

……

エルカ

ただの小さな喧嘩だったんだよ。それが、どうして二度と現れないだなんて酷い事を言うの?


 そう言ってエルカはルイを掴んだ手を離す。

ルイ

僕は君を傷つけた

エルカ

私もルイくんを傷つけている。確かに、すれ違いは大きかったけど。私たちの間に出来た溝は深いかもしれないけど、

エルカ

そんなの、今の私たちになら埋められるでしょ

ルイ

……………そうだったね

エルカ

居なくなるなんて言ったら、嫌なんだから。私……今度こそ本当に嫌いになるよ。恨んで、憎んで、化けて出てやるんだから

ルイ

ごめん……

エルカ

だから、違うよね。こういう時は

 エルカはルイに手を差し出す。

 それを見たルイが、大きく頷いて見せた。

ルイ

仲直りだな

エルカ

だよね


 エルカはルイの手を握り。ルイはエルカの手を握った。
 仲直りの握手を交わし、二人の友情は再び始まるのだ。

ルイ

それじゃ、戻ろう

 ルイの声にエルカは大きく頷く。

 そして手元に戻って来たばかりの本を抱きしめながら目を閉じる。

エルカ

私の棺の扉、その姿を見せて!

第4幕-31 動き出すふたりの時間

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