28 後悔の追憶4


 目の前の光景が暗転する。

 音を立てて氷が砕け散るのをエルカは茫然と見ていた。

エルカ

………



 これは、エルカが知らなかった物語。


 知る必要のなかった物語。


 彼に起きてしまった哀しい物語。


 エルカは恐る恐るルイを見上げる。

エルカ

ルイくん……ごめんなさい。見られたくない過去だよね

 彼の傷口を見てしまったことに罪悪感がよぎる。

 だけど、ルイは穏やな視線をエルカに向けた。

ルイ

新聞にも載った事件だから隠していた過去じゃないよ。気にしないで

エルカ

そうなんだ……私は知らなかった……

ルイ

君は引篭っていたんだろ? 新聞だって見ていなかった

エルカ

そうだけど………

ルイ

この後、僕は転校したんだよ

エルカ

そうだったんだ

ルイ

両親が亡くなったことと、叔父さんの仕事の都合で僕は転校することになったんだ……って言っても僕もずっと不登校だったんだけどね

エルカ

私と同じ街に居たくなかったから転校したんじゃなくて?

 ナイトからは彼が転校したという事実しか告げられなかった。


 だからエルカはルイの意思で離れたのだと思っていた。

 同じ街に居たくないほどに嫌われたのかと思い落ち込んだものだ。

ルイ

……そんなわけないだろ。本当は君の近くから離れたくなかった

エルカ

………

ルイ

でも、僕は子供だから一人でここには残れない。だから引越しは避けられない。そうなると本を探せる時間も限られてしまう。僕は心底焦ったよ

エルカ

ルイくん………そんなことがあったのに……あの本のことを気にしてくれていたんだね。どうして、そこまでして本を探そうとするの?

ルイ

もう後悔はしたくないから………さ

エルカ

……後悔?

ルイ

僕は両親と喧嘩したまま、それっきりになってしまったから

 ルイが両親と不仲だという話はエルカも以前から聞いていた。


 探偵を目指すルイの夢を両親は反対していたそうだ。


 探偵なんて夢物語だと言われて毎日のように喧嘩していたらしい。




 それでルイは両親への反抗心から、家出をすることが多かったそうだ。


 でも、いつかは将来についてきちんと話したいと言っていたことを思い出す。

ルイ

父さんに謝ることが出来なかった。あの日はさ、母さんの作った朝食を食べないで家を飛び出して

ルイ

………言葉じゃ言い表せない程に後悔している。どんなに後悔しても、これは取り返すことができない

 ルイは虚空を見上げている。


 エルカは何となく視線を下げた。


 彼の目に溜まっているものに気が付いたから、それを見てはいけないと思った。

ルイ

だから、君にはちゃんと謝りたかった。許されなくても良い。ただ後悔を残したまま離れ離れになるのは、もう嫌だったんだ!!

エルカ

…………

ルイ

エルカ…………約束を果たすよ……だから僕を見て

 視線を動かすと、ルイの澄んだ瞳がこちらを見ている。

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