20 壊れたキズナ2

エルカ

どうしよう、どうしよう

 エルカは焦っていた。


 焦れば、焦るほどに冷静な思考が出来なくなる。



 この焦燥する気持ちをどうすれば良い?



 本が失くなってしまったけど、どうすれば良い?

 わからない、ワカラナイ、ワカラナイ……


 わからない、ワカラナイ、ワカラナイ……





 先走る気持ちを抑えるために、一瞬だけルイを疑ってしまった。


 目の前にたまたま彼がいたからかもしれない。



 彼はエルカの持つ本に直接触れることが出来た。


 他のみんなは触れたことがない。




 疑う理由はそれだけだった。


 たったそれだけで疑念を抱いてしまった。




 疑う理由があまりないというのに、自分の心の焦りを抑えたかった為に疑ってしまった。




 疑って、認めて、楽になりたかった。




 初めての、特別な友達を疑ってしまった自分が許せなかった。



 だけど、実は信じる理由も少ないことに気が付いてしまった。




 自分たちは出会って友人になって日が浅い。



 本当の彼なんて実は知らなかった。

 どうすればいい、どうすればいい。


 ドウスレバイイ、ドウスレバイイ。

 もっと、もっと、ちゃんと冷静にならなければならない。



 手を伸ばす 









 手が求めるのは、あの本。


 いつも、エルカの心を落ち着かせてくれたお守りの本。



 あれを抱きしめたかった。



 掴もうとしても、その手に触れるのは虚空だけ。



 あの本がないと、落ち着くことが出来ない。



 その本が、今は見当たらない。


 だから、余計に焦ってしまう。

 どうしよう……

 どうしよう、どうしよう……

 頭の中が真っ白になる。

エルカ

…………どうしよう

 息が苦しくなる。


 呼吸をやめてしまえば、落ち着けるだろうか。

 楽になれるだろうか。



 だけど、呼吸は荒くなるばかり。

 少しも落ち着いてくれない。

ぅああ……

 彼の呻き声が聞こえる。



 目の前ではルイも目を彷徨わせながら焦っていた。


 両手両足が震えている。彼が焦っている理由がエルカには分からない。



 焦る理由なんて、あるのだろうか。

 焦る、理由?

 本を失くしたのはエルカなのに……ルイが青ざめた表情を浮かべている。

 どうして?

それは、彼が犯人だから………

 エルカの心の中で誰かが笑う。

彼を信じなければ良かったんだ……

 誰かが囁く。


 その声が、誰なのかはわからない。


 その声を信じるのならば、彼を信じてしまったから大事な本がなくなってしまった。



 そういうことなのだろうか。



 エルカは、ゆっくりとルイに視線を向けた。


 彼は暗い瞳をエルカに向けていた。

エルカ

………

ルイ

待っていて、探してくるから!!

 早口でそう叫ぶと、ルイは教室を飛び出していた。

 廊下を全速力で疾走した。


 不思議そうに生徒たちの視線も、咎める教師の声も、気にしている場合ではなかった。



 立ち止まってはいけなかった。



 急がないと、危険だと思った。



 だから、ひた走る。



 目的の教室は、遠くないはずだ。


 それなのに、果てしなく遠く感じてしまう。

ルイ

(僕は、何てバカなことをしたんだよ)

 彼女の濁った瞳に、胸の奥が痛む。

 あんな顔をさせるつもりはなかったのだ。

 目的の教室の前で足を止め、息を荒く吐いてから顔を上げた。

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