――ディープス地下迷宮某所。

フラッシュ

ひゅ~♪
ちょっと多いけど
手早く済ませるか。

 多勢の魔物を相手に臆することなく突っ込んでいったのは、派手な格好をした冒険者――フラッシュ。

 格好だけではなく戦い方も派手で身軽だった。鋭く切り付けた魔物を踏み台にして跳躍し、次の魔物の一群に飛び込み長剣を奮っている。新しいパーティに最近入り、存在感を見せ付けたい気持ちがあったのは間違いなかった。

フラッシュ

ナーーーイス!

フラッシュ

お寝んねしてな!

フラッシュ

ふ~。
皆やるじゃん。

 フラッシュは完全に動かなくなった魔物の残骸を確認してから残身を解き、長剣に付いた魔物の体液を真横にキレ良く振り払う。長剣は上質な素材のみが生み出す澄み渡るような高音を鳴らして鞘に納まる。さり気ない装飾が入っており、切れ味が鋭く深層で入手した物。フラッシュの剣技に劣らない一級品だ。



 新しく入ったパーティは連携が上手く、お互いの短所を非常にカバーしあっている。仲も良さそうで、フラッシュは良いパーティに入ったと感じていた。





 一つ前のパーティは、フラッシュ以外のメンバーが全滅。今のパーティよりずっと強いメンバーだったが、一つの思いがけないミスから連鎖的に死者が増えた。魔物はフラッシュ達から見れば、雑魚と言って差し支えない相手だった。



 二つ前のパーティは報酬の配分で喧嘩別れをした。金の問題は特にそうだが、一度こじれるとなかなか人間関係を修復出来ない。金に対する考え方や執着は人それぞれであり、表面上解決したと思っても根強く引きずっていくものだからだ。












 そんな経緯を持つフラッシュの大活躍に、メンバーが集まり称賛している。強いメンバーの参入はもちろん大歓迎であり、自分達の運命を左右すると言っても決して過言ではないからだ。

フラッシュ

喜ぶのもいーけど、
次のお客さんが
来たみたいだぞ。

 昆虫系の魔物が群れをなして現れた。昆虫系は個体数が多く、猛毒や麻痺毒なども持っており、ジワリジワリと戦局が悪化する傾向にある。一体一体は雑魚に違いないが、目の前にはざっと50体近い昆虫系の魔物が床と宙を埋めていた。



 フラッシュは数を減らす事を優先し、宙を舞う魔物以外を次々と切り捨てていく。他のメンバーもフラッシュの後を追い、数を減らしにかかる。




 半数ほどの魔物を討伐した時、フラッシュは異質の雰囲気を持つ存在を感じとった。

コ、コイツは!?

や……やばい!!

あのバケモンは!



こいつらと一緒じゃ勝てん!

「撤退するぞっ!」

コイツは前のパーティでも

逃げ一択って決めていたバケモン。



このパーティじゃ

どうあがいたって勝てるわけがない。



おい、何をキョトンとしている。

クッ!

こいつらあのバケモンの存在に

まだ気付きもしていやがらねぇ!



数は多いがもう半数討伐しているのに

何故逃げる必要があるのかって

顔してやがる。

何を言ってるんだ、
フラッシュ。
問題ないだ……!?

やっと気付きやがったか。

早く全員に指示を出せ。

ア、アアア……

チッ、震えてやがる。

うぜぇんだよ蠅野郎が!

「退けっ! 死ぬぞ!」

バ、バカ!

何考えてやがる!

無謀だ、勝てるわけがない!

なぜよりにもよって

アイツに挑むんだ!



あの女剣士まで。

なぜ俺の言うことを

聞かないんだ。

お前達だって薄々気付いてんだろ。

あのバケモンが並どころか

次元が違う強さってことはよ。

グアッ!!

あの馬鹿……

麻痺毒なんぞ喰らってやがる。



後衛の弓も決定打にはならん……

やはり剣士二人も何の手応えも

なさそうじゃねーか。

まだバケモンが大人しくしてるのに

傷一つつけれねーでいやがる。

指示系統もないも同然。

慌ててやがる。

勝ち目がねぇ。





駄目だ……

コイツら死ぬ……

またかよ……

どこへ行く……
フラッ、シュ……

「必殺技だよ」
「加速してぶった切る!」

あばよ。



俺はこんな所じゃ死なねぇ。

お前達を見殺しにしてでも生き残る。

俺の忠告を直ぐに理解しなかった

お前達に問題があったんだ。



あんなバケモンに

勝てる訳がねぇんだよ。







おいそんな期待した目で

見てくんじゃねぇよ。

俺はばっくれる。

お前達置いて逃げんだからよ。



おい、毒液くらってんぞ。

あのバケモンどころか

あれだけの虫に

囲まれたら完全に終わりだ。





あ、

やられやがった。

ありゃ重症だ。

二度と片目は使えねぇな。



って、

ここで死ぬからどのみち一緒か。







それにこの剣みてーに、

あいつらの装備で

欲しいもんはねー。



ただここから帰るだけ。

階段は近いし、

回避に専念すれば

帰還も無理じゃねー。
















よし、もうここまで来りゃあ

大丈夫だ。

まだ戦ってるだろうから

追い掛けてこれないだろ。



それにこの先の通路を右に行って

階段を下りたら

帰還したも同然だ。

アグッ!






……な、に……

くそ!

動けねぇ……

麻痺毒か!?

どこに居やがった?



やばい、今魔物が来たら

かなりヤバイ。

この蜘蛛ぐらいなら

大丈夫だが、

無防備すぎる。

何だこの音!?

何か後ろから近付いてくる!?

マジでヤバい!!

誰か、誰か助けてくれ!!

ゥッグ!



完全にこっちに来やがった。



駄目だ、まだ動けねぇぇぇ!

くっそぉぉぉぉー!!

こんなカスみたいな奴にぃ!



このカス、俺が動けねぇことを

理解してやがる。

笑ってやがるのか。

余裕こきやがって。



だがもうすぐ麻痺が和らぐ。

その調子で余裕こいてやが――

ガギャアアバァァァァッ!



足がぁぁぁぁぁ!



痛ぁぁぇぇあああ!







ああああ、許して、

誰がぁ助げでくれぁぁぁ…………

pagetop