私はひぃくんの腕をグイグイと引っ張ると、射的の出店を指差した。

　コロンと丸い小さなひよこのクッション。
　凄く可愛くて、一目惚れしてしまった。

　さっきまでひぃくんに怒ったりドキドキしたりしていたくせに、会場についた途端にはしゃぎまくる私。

　……自分でも、どうかと思う。

　そう言ってニッコリと微笑むひぃくん。

　銃を構えるその横顔は、なんだか凄く真剣でドキッとする。

　銃声が聞こえた次の瞬間、ひぃくんは私を見てフニャッと笑った。

　ひぃくんに見惚れていた私は、その声に慌てて景品棚の方を見る。
　棚の下にコロンと転がるひよこ。

　ひぃくんは、一発で取ってしまったのだ。

　ニッコリと微笑むおじさんからひよこを受け取ると、ひぃくんを見上げて口を開く。

　満面の笑みでお礼を告げる私を見たひぃくんは、ニッコリと微笑むと

と言って優しく頭を撫でてくれる。

　突然呼ばれた声に振り返ると、そこには彩奈とお兄ちゃんの姿が。
　手には、焼きそばとりんご飴が握られている。

　実は、私のパシリでりんご飴を買いに行っていたお兄ちゃん。

　瞳を輝かせた私は、そのままお兄ちゃんに向かって走り出した。

　もはや、りんご飴しか目に入っていない私。

　目の前の石に気付かず、そのまま石につまづいてしまった。

　そう思った瞬間、ガシッと肩を掴まれた。

　私を見て、呆れた顔をするお兄ちゃん。

　どうやら、お兄ちゃんに助けられたらしい。

　お兄ちゃんの横で、彩奈が呆れた様な顔をする。

　実は、肩に置かれたお兄ちゃんの手をジッと見ていた私。

　だってその手には、りんご飴が握られていたから……。

　ギロリと私を睨むお兄ちゃん。

　引きつる顔でアハハと笑って誤魔化すと、そんな私を見たお兄ちゃんは大きく溜息を吐いた。

　彩奈と二人で呆れた顔をするお兄ちゃん。

　そう言いながら、焦った顔をして駆け寄るひぃくん。

　ひよこを取ってもらっておいて、そのままひぃくんを置いてきた私。

　申し訳なく思い謝る。

　シュンとして俯いていると、ひぃくんは私の頭を優しく撫でてくれた。

　優しく微笑むひぃくんに、チクりと胸が痛む。

　ひぃくんへの謝罪に、そんな事しか思い浮かばない私。

　そんな私の言葉に、目を見開くと固まってしまったひぃくん。

　やっぱり辞めようと口を開いた瞬間、私の肩を掴んだひぃくんが、瞳をキラキラと輝かせながらそう言った。

　異常に喜ぶひぃくんを見て、少し呆気に取られる。

　私の目の前でニコニコと微笑むひぃくん。

　小首を傾げたひぃくんは

と言って私を見てくる。

　そう思った私は、途端に目を輝かせる。

　ひぃくんを見上げて笑顔でそう答えると、ひぃくんはフニャッと笑って私を抱きしめた。

　それまで黙って傍観していたお兄ちゃんは、そう言うと私からひぃくんを引き離した。

　不覚にも、ドキッとしてしまった。
　相手はひぃくんなのに……。

　ドキドキと高鳴る胸を抑えると、目の前のお兄ちゃん達をチラリと見る。

　すると、お兄ちゃんに腕を掴まれたままのひぃくんが、ニコニコと嬉しそうな顔のまま口を開いた。

　ニコニコと微笑むひぃくんを見て、お兄ちゃんは呆れた顔をして溜息を吐いた。

　私はひっそりとそんな事を思った。

　勉強はできるくせに、どこか頭のネジが一つも二つも緩んでいるひぃくん。
　これは一生、治らないんだと思う。

　落ち着きを取り戻した胸から手を離すと、私はお兄ちゃんに向けて口を開いた。

　私の言葉に何故か溜息を吐いたお兄ちゃんは、

と言って私にりんご飴を渡してくれる。


　座れる場所を探して歩く間、ずっとりんご飴を見つめる。
　食べるととっても美味しいりんご飴。
　その見た目は、キラキラと輝いてとても綺麗だった。

　クルクルと回しながら眺めていると、隣を歩くひぃくんが口を開いた。

　クルクルと回るりんご飴を眺めながら、にっこりと微笑んでそう答える。

　そんな私を見てクスリと笑い声を漏らしたひぃくんは、私の左手を握ると

と言って握った手にキュッと力を込める。


　暫くそのまま歩いていると、すぐ目の前を歩いていた彩奈が口を開いた。

　彩奈の指差す方へと視線を移すと、ちょうど四人分の椅子とテーブルが空いている。

　私達はその席へと移動すると、買ってきた食べ物をテーブルに広げた。
　どうやら、イカの丸焼きなんかも買っていたらしい。

　自分の右手に握られたりんご飴を見つめ、そこで私はようやく気付いた。

　そう思って固まっていると、隣に座ったひぃくんが私の手からりんご飴を取り上げた。

　そう言って私にりんご飴を差し出すひぃくん。

　そう思いながらも、食べたくて仕方がなかった私は、差し出されたりんご飴にカプッと食いついた。

　思わず顔が蕩《とろ》ける。

　ニッコリ微笑むひぃくんは、そう言うと私の食べかけのりんご飴にカプッと食いついた。

　そして再び、私の目の前に差し出されるりんご飴。

　不思議そうに私を見つめるひぃくん。

　なんだか、意識しているのは私だけのようだ。

　そう言って勢いよくカブリつくと、クスクスと笑うひぃくん。

　何故か、ひぃくんと交互に食べる羽目になったりんご飴。

　私から言い出した事なので何も言えず、そのまま完食するまで私は黙って食べ続けるしかなかったーー。

　私の目の前で呆れた顔をするお兄ちゃん。

　綿菓子にあんず飴にかき氷と、さっきからご飯類を一切口にしていない私。
　勿論、全てひぃくんと半分コ。

　私の隣では、ひぃくんがニコニコと微笑んでいる。

　口を尖らせてお兄ちゃんを見る。

　お兄ちゃんの言葉を無視したひぃくんが、私に向けて笑顔でそう言う。

　パッと笑顔を咲かせた私は、口を開けて食いついた。
　ーーと思ったら、突然ヒョイっと私の目の前から消えてしまったバナナ。

　その行方を追って辿ると、お兄ちゃんがひぃくんの腕を掴んでいる。

　何だか、少し顔を引きつらせているお兄ちゃん。

　引きつった顔で私を見るお兄ちゃん。

　ニコニコと微笑みながら私を見るひぃくん。

　お兄ちゃんの言葉に、何か閃いた顔をするひぃくん。

　そう言ってバナナを渡してくれるお兄ちゃん。

　そう思いながら、目の前にあるバナナに食いつく。

　不貞腐れていた顔が、一気に笑顔になる。

　横で私を見ていたひぃくんが、ニコニコと微笑みながらそう聞いてくる。

　そう言って私の頬をツンッと突《つつ》いたひぃくん。

　お兄ちゃんを見ると、鬼の形相でひぃくんを睨んでいる。

　そして、私の手からバナナを取り上げてしまったお兄ちゃん。

　そう言って私の目の前に広島焼きを置く。

　そんなことを考えながら呆然とする私は、目の前に置かれた広島焼きを、ただ、ジッと見つめていたーー。