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涼、どこ行くのー?


 少し先から聞こえた楓の声に、私は足元にあった視線を前へ向けた。

夢のとこ!

 楓に笑顔で返事を返す涼は、そのまま私の横を走り去って行く。

 ……あれ?
 不思議に思った私は、後ろを振り返ってみた。

 すると、さっきまですぐ後ろにいたはずの夢の姿がない。
 どこへ消えたのかとさらに後ろへと目を向けてみると、夢は川辺へと続く道にまだ一人でいた。

 麦わら帽子を被って川の方へと向いた夢は、そのまま空へ向けて両手を広げた。

 風に吹かれて、ユラユラと靡《なび》く髪。
 太陽に照らされた肌は真っ白で、今にも消えてしまいそうな程に儚く見える。

 気持ち良さそうに風を受ける夢の姿は、まるで空を飛ぶ天使のようで……私は一瞬で、その光景に目を奪われてしまったーー。

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朱莉

夢ってさぁ、涼の事好きなの?

……えっ?!

 私達が今夜寝泊まりするテントを作っていると、突然朱莉が涼と夢の話をし始めた。

 聞いていたくなかった私は、ただ黙々とペグを打ち込んでゆく。
 すると突然、少し強めの風が吹いてテントがぐらついた。

朱莉

わぁー! ちょっ……夢。何やってるの!

……あっ。ご、ごめんね


 朱莉に注意された夢は、慌てて布端を掴むとまた作業へと戻る。

朱莉

ーーけどさ、涼は絶対に夢の事好きだよねー

 カンカンカンカン

 また涼の話を始めた朱莉に、私はただ黙って作業を続ける。

朱莉

優雨もそう思うでしょ?


 突然話を振ってきた朱莉に、

優雨

……そうだね

 と私は素っ気なく答えた。

 私が答えるまでもなく、どう見ても涼は夢の事が好きだ。
 そして夢も……。

 私はペグを刺し終えるとチラリと夢の方を見た。
 中々刺さらないペグを覗き見ては、首を傾げている夢。
 その姿が可愛くて、私はクスリと笑うと夢の元へと近付いた。

優雨

ーー私がやるよ


 そう言って右手を差し出すと、少し驚いた顔をする夢。

えっ。でも……

 申し訳なさそうに、上目遣いで私を見る夢。
 その姿は本当に愛らしい。

優雨

大丈夫だよ


 そう言って優しく微笑みかけた時、涼が夢の側へとやってきた。

俺がやるよ


 ニカッと笑った涼は、夢からペグハンマーを取るとそのままあっという間にペグを打ち込んでゆく。

はい、これで終わり

とペグハンマーを夢の手に戻すと、その場を立ち去って行った涼。

あっ。……ありがとう!

 そう言って小さく手を振る夢は、涼を見つめて可愛らしく微笑む。

 私は幸せそうに微笑む夢の横顔を見つめながらーー

 チクリと痛む胸を、そっと抑えた。




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