あれから彼女は、ファノンは俺のことを毎日犯し、凌辱し続けた。まるで執拗な蛇のように、俺を無理矢理抱き続けた。

エリオット・アルテミス

もう、やめてくれ…!ううっ!!…痛い…傷が…ううっ

ファノン・エクレール

こんなに欲望でいきり立てているのに…?

エリオット・アルテミス

そ、そんなところを…!うあっ…!!

ファノン・エクレール

腰を揺らしている。気持ちいいのでしょう?その荒縄があそこを縛られて?淫乱な体。さすがは”女神の皇子”ね

エリオット・アルテミス

くっ…!

 今、ファノンはエリオット・アルテミスの身体を荒縄で縛り上げ、両腕を、両足を、そして彼の分身にまでを縛りあげ恍惚とした見下げた表情を浮かべて、冷酷なまでに彼を玩弄している。
 彼の細身の身体には鋭利なナイフで刻まれた傷痕も見受けられる。様々な場所をナイフで斬り刻まれたのだ。血が滲んで、彼の鮮血が彼が使用するベッドのシーツを鮮やかに赤く染めている。
 手ひどい凌辱の中にいるエリオット。そんな彼を冷酷な笑みにして更なる拷問をするファノン。

ファノン・エクレール

もっと縛って欲しいそうだわ

エリオット・アルテミス

ぐうっ!!

ファノン・エクレール

こんな責めで、分身から愛液を出して、いやらしい男

エリオット・アルテミス

お願いだ…ファノン。もう、ダメだ。眠らせて、傷を治させて欲しい…

ファノン・エクレール

じゃあ…それを見せなさい

 ファノンの命令で、彼は仰向けに横たわり、それを見せた。いつの間にか盛られた薬の成分で無理矢理彼は、それをいきり立てている状態だった。
 彼は喘ぐように荒い息を上げて、瞳を苦痛で閉じている。額には汗。瞼には涙。体には傷。見るも無残な姿だった…。
 更に彼女は罵倒するように冷酷な声の響きで指摘する。

ファノン・エクレール

ほら。綺麗な桜色のあれが女を誘っている。あんたの身体は女を誘わずにはいられない”娼夫”の身体だわ。お仕置きをあげる

エリオット・アルテミス

あうっ!!

 そして、また無理矢理行為をさせられてしまう女神の皇子。
 ファノンは乱暴に腰を上下に揺さぶって、彼の欲望を掻き立てる。

ファノン・エクレール

気持ちいいでしょ?ほら、気持ちいいって言いなさい

エリオット・アルテミス

もうダメだ…

ファノン・エクレール

私の身体無しではいられないと言いなさい

エリオット・アルテミス

もう、許してほしい

ファノン・エクレール

さっきの台詞を言えば許してあげる

エリオット・アルテミス

…気持ちいい…。さ…最高の快楽だよ…

エリオット・アルテミス

ああっ!やめてくれ。もう、許してくれ!壊れてしまう!俺が…壊れてしまうよ…!!

 彼の私室から、悲痛な叫び声が聞こえる。それをアネットも聞いていて、耳を塞ぎたい衝動に駆られる。だが、このままでは本当にエリオットが殺されてしまう。彼女に、セックスで。
 いたたまれない気持ちになり、アネットはドアを三回ノックして、彼女の憎しみの方向を別件に逸らせることにする。

アネット・エクレール

ファノン様。申し訳ございません。宮殿のユリスさんから連絡です。大至急、相談したいことがあると仰っております

 そこでその私室のドアが不機嫌そうに開いた。ファノンの緑色の瞳が憎悪で煮え滾っている。そこには殺意しか存在していない。
 アネットはその部屋で血を流して倒れているエリオットを見る。青い瞳が涙で滲んだ。思わず瞳を見開く。
 ファノンがドレス姿でアネットとすれ違うとこう冷酷に呟いた。

ファノン・エクレール

指一本触れたら殺すわよ

 彼女が去った部屋では、ようやく自由になったエリオットがひどい傷を負って、血を流し、苦痛で顔を歪ませている姿がある。
 彼女が急いで止血をする。身体中全身傷だらけだった。余程、激しい責めを受けたのか、彼は喘ぐように荒い息を上げて、ただ悲しい紫水晶の瞳が茫然と虚ろな輝きになっていたのだ。

アネット・エクレール

エリオット様。…立てますか?お体を清めましょう。それから、今すぐに止血剤と治療をまず優先させますから

アネット・エクレール

こんな時…私が癒しの魔法さえ覚えていれば助けられるのに…

エリオット・アルテミス

す、すまないね…。傷は大丈夫…。今、自分で治療の魔法を唱えるから

 彼はそこでアネットの目の前で、外傷を治療する魔法を唱え、自分が負った切り傷を癒した。それでもまだ傷痕は生々しい残ってしまっている。
 アネットの肩を借りて、ようやく風呂場に到着するエリオット。彼はそこで考えてしまう。
 何故、彼女は自分の過去を聞かれた途端、自分を殺そうとしたのだろうか?

ファノン・エクレール

あなたがこの世で一番憎いからよ

 彼女の憎悪に煮え滾った緑色の瞳が彼の頭に刻みこまれている。
 身体を重ねている内に、心も近づいてきていると思っていたのに、どうして…?
 だが、もうそこで限界だった。彼が湯船で倒れ、気を失ってしまったのだ。
 そこに、丁度、アネットが替えの服を持って現れた。

アネット・エクレール

失礼いたします。お着替えをご用意いたしました

 だが、風呂場から彼の声が聴こえなかった。慌ててドアをノックするアネット。

アネット・エクレール

エリオット様。大丈夫ですか?!エリオット様!返事をしてください

 思わず風呂場のドアを開くアネット。そこには湯船でエリオットが気絶をしている姿があった。彼女が湯船に飛び込み、彼を抱きかかえる。先程、エリオット自ら傷の治療を施した傷からまた血が滲み、気絶をしていた。
 あまりにひどい傷だらけの彼を見て、アネットは思わず、涙を溢れさせ自分のことのように心を痛めた…。

アネット・エクレール

ひどい…。こんな…こんなにまで彼を傷つけるなんて…

 そのエリオットは瞼から涙を流して、力なく、ぐったりと気絶をして、アネットに抱かれていた…。
 彼女はもう我慢の限界だった。これ以上、彼を傷つけさせたくない。ここに無理矢理誘拐されて、無理矢理身体を重ねて、最も悲しい想いをしてきたのは、被害者は彼なのに。
 そう思って、急いで、離れの屋敷へ避難をさせて、女性メイド達に彼を守るように頼むアネット。
 それには、女性メイドたちも了解してくれた。

ナツキ

わかりました!アネット様。私達で何とか、”女神の皇子”をお守りします

メイド2

こちらは任せてください

アネット・エクレール

ありがとう。皆さん

 アネットも彼を守るために戦うことに決めた様子だった。
 珍しくそんなアネットに、彼女らは今なら協力してあげてもいい気持ちになれた。

メイド4

本当にひどい方。ファノン様って。こんなになるまで、この方を傷つけるなんて…

メイド1

私達の悩みをこの方はいつも親身になって聞いてくれた。絶対守り抜きましょう

メイド2

その為なら、私もファノン様に逆らってもいいわ

 夜になり、その離れの屋敷に、彼女…ファノンの怒りに満ちたハイヒールの音が響く。そして、怒鳴った。

ファノン・エクレール

何故、私に了解を得ないで離れの屋敷に彼を移したの!?アネット!

アネット・エクレール

今夜はお引き取りください。ファノン様

 アネットもファノンに負けず劣らず冷酷な青い瞳になり、氷のように冷静に今の女神の皇子の状態を説明した。

アネット・エクレール

湯殿でお倒れになっていました。これ以上、あの方を傷つけるなら、あなたには従いません

ファノン・エクレール

貴様!犯罪者の分際で…!!

アネット・エクレール

ここの使用人は、既に全員、”女神の皇子”の薬草医学で救われた方々です。何なら、その辺にいる女性メイド達に彼を引き渡すように命令してみたらいかがです?無理でしょうけど

ナツキ

悪いですが、ファノン様には従えないですわ!

メイド1

ええ。エリオット様を傷つける方なんて、最低な女

メイド2

こんなにいい男性を、平然と傷つけるご主人様って本当、最低!

アネット・エクレール

ほら?ここにいる皆も同じ意見です。これは皆の総意です

ファノン・エクレール

ちっ…!!

 そうして、ファノン・エクレールは更に怒りで、荒々しい歩調で、その離れの屋敷から去っていった。
 アネットの心の中に、スカーレットの真紅の瞳が、そしてあの甘い囁きが聞こえる。

スカーレット・エクレール

私の下へおいで?アネット?そうしたら…彼を、女神の皇子をあなたにあげる

エリオット・アルテミス

彼女は…去ったのか?

 部屋からエリオットの弱弱しい声が聴こえた。今の彼にはアネットが凛々しい女騎士に見える。まるで自分を守るための騎士のように。神話で聞いた戦乙女(ヴァルキリー)のように。

アネット・エクレール

ええ。御気分はいかがですか?

エリオット・アルテミス

ああ。だいぶ、傷は塞がっては来ている。ここのメイド達も今は心強い味方に見える

メイド1

エリオット様は私達を助けてくれたんです

メイド4

だから、今度は私達があなたを守る番です

メイド3

だから、安心して身体と心を休めてください

エリオット・アルテミス

ありがとう

 彼は今、ベッドから起き上がり、クッションに背中を預けて、穏やかな微笑を浮かべている。だが、彼は深いため息をついた。

アネット・エクレール

今夜はここで休まれてください。ここなら、少なくとも安全です。今、何か甘い果実をお持ちいたします

エリオット・アルテミス

何故なんだろう?何故、ファノンは過去の話をしようとしたら、俺に暴力を振るったのだろうか?彼女は何で、”女神の皇子”をそんなに憎むのだろうか…?

エリオット・アルテミス

開きかけた心の扉がまた鍵をかけたように閉ざされてしまった。君は何故だかわかるか?

アネット・エクレール

不思議です。あなたは。あんなに傷つけられたのに、あんなに凌辱を受けてきたのに、あんなに血を流したのに、まだファノン様を気遣うのですから…

エリオット・アルテミス

これもまた、俺の弱点って奴かな?どうしても気になると、全てを知りたくなってしまうんだ

アネット・エクレール

ファノン様が、あなたを拒むのは、あなたが恐ろしくてたまらないからです。きっと…

エリオット・アルテミス

俺が怖い?

 アネットはそのまま”何か果物を持ってきます”と最後に言い残して部屋から去っていった…。

エリオット・アルテミス

俺が怖くてたまらない。どういう意味なんだろう?

 彼はその悲しくも優しい紫水晶の瞳を夜空へ向けた。ここからだと月は見えないが、多分、今夜は、二十六夜月と呼ばれる月が浮かぶだろう。夜明けの東の空に。暁の明星と共に。
 彼は照明を落とすと、おもむろにベッドに横になり、ただ宵闇が支配する部屋で、考えに耽っていた。

 翌朝。夜明け前に彼は起床をした。彼の部屋の窓からその夜明けに見える細い眉のような月が浮かぶのが見えた。暁の明星と一緒に。何だか、それを見た彼は月の女神がこう囁いているように聞こえた。
 ”自分の気持ちに、正直になってみなさい”と。
 そう彼の心に語りかける月の女神・アルテミス。
 彼はここ数日で、大きな決断をすることになる。

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