ー五年後ー

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 真新しい制服に袖を通すと、胸元の布をキュッと結ぶ。
 部屋の中を右へ左へと慌ただしく支度をしていると、ふと鏡に映る自分の姿に目が止まった。

 まだ着慣れない制服姿に、暫くボーッと鏡の中の自分を見つめる。



夢ちゃーん! お迎えが来たわよー!

 一階から聞こえるママの声に、ハッと意識が戻る。

はーい!

 元気よく返事をした私は、ベットの上に置いてある鞄を掴むと一階へと降りて行った。

奏多

おはよう、夢

おはよう、奏多くん

 玄関へ行くとそこには奏多くんがいて、私と目が合うと優しく微笑みながら挨拶をしてくれる。

 かねてより端整だった顔立ちは、成長すると更に美しさを増し、その隙のない姿は圧倒的な美と気品を感じさせる。

……夢ちゃん。ママは少し後で行くから、気を付けていってらっしゃい。
ーー奏多くん、いつもありがとう


 玄関まで見送ってくれるママに奏多くんが軽くお辞儀するのを確認すると、

行ってきます

 と言って玄関を出た。





 あの日からーー

 私の隣には、いつも奏多くんがいる。

 もちろん、他の皆とも未だに仲が良く一緒にいることも多い。
 けれど、奏多くんは毎日こうして側にいてくれる。

 私が塞ぎ込んで暫く学校に行けなくなってしまった時も、毎日家まで来てくれた。
 それは皆と一緒だったり、時には一人だったり。

 私がまた学校へ通えるようになると、奏多くんは行き帰りに必ず迎えに来てくれるようになり、いつしかそれが当たり前になっていった。

 隣で歩く奏多くんを見上げると、その視線に気づいた奏多くんが

奏多

……ん? どうかした?

 と聞いてくる。

 私は小さく微笑みながら

ううん。何でもないよ

と返事をすると、再び前を向いて歩いてゆく。

 そのまま奏多くんと話しながら歩いていると、20分ほどで学校へと着いた。



 ーーここが、今日から私達が通う高校。

【県立桜ヶ丘高等学校】と書かれた門を一度目で確認すると、その先へと続く道を辿って、さらにその先にある大きな校舎へと目を向けた。

 今日から私は、ここで頑張っていくんだ。
 そう心の中で呟くと、一度瞼を閉じてから再びゆっくりと開いてゆく。

 手前へと視線を戻すと、ゾロゾロと沢山の人達が門を潜って行く姿が目に入る。
 十数分後に始まる入学式を前に、新入生や保護者達が続々と集まってきているのだ。

 その中にはチラチラとこちらを見てくる人達が何人かいて、
 あぁーーきっと、奏多くんを見てるんだ……。カッコイイから、見惚れちゃうんだろな……。
 なんて思う。

奏多

ーー行くよ、夢


ーーー!?


 突然、頭上から奏多くんの声がしたのと同時に手を繋がれ、驚いた私の肩はビクリと小さく跳ねる。

 奏多くんと手を繋ぐのなんて小学生以来の事だったので、突然どうしたのだろうと思いながらも、私は黙って繋がれたまま門をくぐると中へと入って行った。

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夢ちゃんと朱莉ちゃんと、同じクラスで良かった~

優雨

良かったわね。私は、離れちゃったけど

 入学式も無事に終わり、私達は五人で集まってある場所へと向かっていた。

 その道すがら、私と同じクラスになった楓くんがニコニコ話す横で、優雨ちゃんはキッと楓くんを睨んでいた。

 徒歩圏内の学校だからという理由もあるのかもしれないが、私を含む五人全員が桜ヶ丘高校へ進学した。
 頭の良い優雨ちゃんと奏多くんが桜ヶ丘高校へ進学すると言った時には、当時随分と驚いた。

 二人なら、もっとレベルの高い高校へ行けるのに……。
 それでも、こうして五人揃って高校生活が送れると思うと素直に嬉しい。

 ほどなくして、目的地へと着いた私達は足を止めた。
【永井】と表札のかかった家のインターホンを、奏多くんが押す。

ーーはい

奏多

こんにちは。山城です

あら、奏多くん。今、開けるわね


 そんなやり取りをした後、数秒後に開いた目の前の玄関扉。

全員

こんにちは

こんにちは。どうぞ中に入って

 そう穏やかに出迎えられた私達は、軽く会釈をすると促されるまま家の中へと入って行った。




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ーーはい、どうぞ


 和室へと通された私達の目の前に、ジュースとお菓子の入ったお皿が出された。

全員

ありがとうございます

 私達は口々にお礼を告げると、グラスに注がれたジュースを飲み始める。
 私は手元にあるグラスから視線を上げると、目の前に座った女性に向かって口を開いた。

あの……。御線香を、あげてもいいですか?

……ええ、もちろん


 そう言って優しく微笑むと、私を連れて仏壇前まで移動する。

今日も、夢ちゃんが来てくれたよ

 仏壇に向かって一言話しかけると、

どうぞ

 と告げてその場を離れてゆく。


 あの日から頻繁にここへ訪れている私は、何度となくこの一連の光景を目にしている。
 仏壇前の座布団に正座をすると、私は御線香を立てリンを鳴らして手を合わせた。


 ーー涼くん。私、高校生になったよ。
 制服……似合うかな?

 心の中でそう話しかけると、閉じていた目を開き仏壇に飾られた写真を見つめる。

 そこには、あの日と変わらない小学五年生のままの涼くんがいた。
 ニカッと笑ったその写真は、私の大好きなあの笑顔の涼くん。


 本当に大好きなーー私の、初恋の人。


 目尻に溜まった涙を拭うと、次の人と交代をする為に元の席へと戻った私。
 ジュースの注がれたグラスを手に取ると、今にも溢れ出てしまいそうな悲しみを押し込めるかのように、コクリと一口飲み込んだ。

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