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優雨

夢。それ、どうしたの? 可愛いね

 キャンプファイヤーまでまだ時間があったので、今はテントの中で休憩中。

 優雨ちゃんの言う"それ"とは、私の掌にある物の事だ。

先生に穴を開けてもらって、作ったの

優雨

さっきの川で拾ったんだ? 綺麗だね

うん……涼くんがくれたの。だから、お揃いにしたいなと思って……

 自分で言っていて恥ずかしくなり、真っ赤になっているであろう顔を俯かせると、掌にある先程作ったばかりの貝殻のブレスレットを見つめる。

 さっき涼くんにもらったピンクの貝殻は二枚だった。
 ちょうど二枚あるんだし、お揃いにしたいなって。そう思った私は、貝殻に穴を開けてもらうと紐を通してブレスレットにしてみた。

 ただ紐を通しただけのブレスレットは、お世辞にもお洒落な物だとは言えない。
 ただ私は、涼くんとお揃いで貝殻を持っていたかったのだ。

優雨

きっと、喜んでくれるよ


 顔を上げると、優しく微笑んでいる優雨ちゃんがいる。

……うん


 優雨ちゃんの言葉が嬉しくて笑顔で頷くと、貝殻を持った両手を胸の前でキュッと握りしめた。

朱莉

ーーキャンプファイヤー、始めるってよー! 行こう?

 外にいた朱莉ちゃんが、テント入り口をパサッと捲り上げると、中にいる私達に向かって元気よく誘う。

うん


 朱莉ちゃんに返事をすると、ブレスレットをポケットにしまって、三人でキャンプファイヤーの会場へと向かう。

 途中で遭遇した涼くん達と一緒に会場まで行くと、点火式の準備があるからと、先生達のいる方へと消えて行った涼くん。

 席に着いて暫くすると、点火式が始まり白い布を被った先生達と数人の生徒が出てくる。
 その中には勿論涼くんもいて、先生達と演技をしながら薪へと点火してゆく。

涼くんがいるよ

キャー! 涼くんカッコイイ

 そんな声が聞こえる中、
 うん……本当に、カッコイイなぁ……。
 なんて思いながら、ポーッと目の前の光景を眺める。

夢ちゃん、夢ちゃん

えっ!? ……な、何?


 ポーッとしていて少し驚いてしまった私に、楓くんはクスクスと笑いながら、

驚かしてごめんね。……実は、家から花火持ってきたんだけどね。キャンプファイヤーが終わったら、皆でやろうよ

と言って小首を傾げて微笑む。

うんっ! 花火、楽しみだねっ

夢ちゃん、シーッだよ? 先生に見つからないようにしないとねっ

……うん

 楓くんに人差し指を立てられ、慌てた私は声を潜めた。

 先生に見つかったら凄く怒られるんだろうな……。
 そんな事を考えながらも、この後やる花火が楽しみで仕方がなかった私は、こっそりと小さく笑みを漏らした。


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 その後も滞りなく進んだキャンプファイヤーは、そろそろ終わりへと近づいてゆく。

ーーあ、あのね、これ……

 涼くんとやっと二人きりになれた私は、ポケットに入っていたブレスレットを取り出すと、涼くんの目の前へと差し出した。

これ、夢が作ったの?

……うん。先生に穴を開けて貰って、紐を通しただけなんだけど……

夢と、お揃いなんだね


 既にブレスレットを付けていた私の手首に気が付くと、涼くんは私の掌からブレスレットを受け取ってすぐに自分の手首へと付けた。

ありがとう。大切にするよ

 ニカッと笑った涼くんは、ブレスレットの付いた手で私の頭を優しく撫でる。

 ちょうどその頃キャンプファイヤーも終了し、ゴミの片付けやテントに帰って行く生徒達やらで、一気に周りが騒がしくなってくる。
 突然ギャラリーが多くなった事で、何だか気恥ずかしくなった私は、少しだけ顔を俯かせた。

 すると、目の前の涼くんが口を開いた。

夢。俺ちょっと、用があるから。また後で、花火の時に会おう

……うん、わかった

 顔を上げて返事をすると、笑顔を残して立ち去って行った涼くんの背中に向けて小さく手を振る。

 涼くんの姿が見えなくなるまでその場で見送ると、私は優雨ちゃん達を探した。
 けれど優雨ちゃんどころか誰一人として見つける事ができず、もうテントに帰ったのかな? と思って、テントへ戻ってみる事にした。

 だけどテントへ戻っては来たものの、そこには誰もいない。

 ……あれ? やっぱり、まだ会場にいたのかな……?
 そうは思っても、入れ違いになるのが嫌だった私はテントで待つ事にした。

 暫くテントの中で大人しく待っていると、優雨ちゃんが一人で戻ってきた。

優雨

あれ? 夢一人?

うん……寂しかったよぉ。優雨ちゃん、どこに行ってたの?

優雨

……ごめんね。トイレに行ってたの


 私の目の前まで近づいてから屈んだ優雨ちゃんは、申し訳なさそうな笑顔で小首を傾げると、

優雨

夢。本当に、ごめんね……

と言って私の頭を優しく撫でた。

 朱莉ちゃんも何処にいるのか分からないと報告していると、突然テント入り口がパサリと捲られた。

夢ちゃーん。いるー?


 そう言いながら現れた楓くんは、私達を視界に捉えると、

あ、いたいた。俺は花火取ってくるから、先に屋外キッチンに行ってて? バレないように、気を付けてね

とだけ笑顔で伝えると、すぐに姿を消した。

 もしかしたら、屋外キッチンに朱莉ちゃんがいるかもしれないと優雨ちゃんに言われたのもあり、私達は楓くんに言われた通りに屋外キッチンへと向かってみた。

 けれど、屋外キッチンには奏多くんだけしか居らず、朱莉ちゃんの姿はなかった。

 暫くすると、楓くんが朱莉ちゃんを連れて来たので朱莉ちゃんとは会う事が出来たものの、いくら待ってみても涼くんは来なかった。

奏多

きっと、花火をしている内に来るよ

 そう言った奏多くんの声で、私達は花火をしながら待つ事にしたけれど……。

 結局、最後まで涼くんが現れる事はなかったーー。




 その後、点呼があるので仕方なくテントに帰ってきた私は、


『きっと、疲れてテントで寝てるのかもね』

と言っていた楓くんの言葉を思い出していた。

 点呼も無事に終わり皆が寝る準備を始める中、一足先に支度の終わった私は、テント入り口の小窓から外の様子を覗いてみる。
 そこには、もう寝ているのか所々明りの消えたテントが見える。

 涼くんの事が気になっていた私は、そのまま涼くん達のテントへと視線を移してみた。するとそこには、まだ明りが灯っていた。

 涼くん、どうして来なかったのかなぁ……。
 そう思いながら見つめていると、背後から声を掛けられる。

優雨

ーー夢。もう寝ないと、明日起きれなくなるよ?

うん……

 優雨ちゃんに言われ、覗いていた小窓を閉じると、寝袋に入った私は瞼を閉じて寝る準備をする。

 いつまで経っても少し騒がしい外に、私は少しの不安を感じながらも、明日になったらまた涼くんに会える。そう思いながら、徐々に意識を手放していったーー。

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 ーーだけど翌日、私が涼くんに会う事はなかった。



 昨夜から行方がわからなくなっていた涼くんは、先生達が夜通し必死に捜索したにも関わらずに見つける事ができず……。

 翌日になっても、戻ってくる事はなかった。

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 涼くんの水死体が発見されたのは、それから二日後の事だった。

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